見出し画像

「BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか」

「BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか」(ベント・フリウビヤ ダン・ガードナー 櫻井祐子 サンマーク出版)

計画管理学教授とジャーナリストの著者による、「プロジェクトの失敗と成功をもたらす、普遍的な要因」(7ページ)について述べた本。建築やオリンピック等のイベントのほとんどがなぜ「予算超過、工期遅延、便益過小」(35ページ)になることを述べ、その解決策として、「ゆっくり考え、すばやく動く」(55ページ)が成功のカギだと述べている。多くの人が計画立案に時間を費やすよりも早く実際に着手することを好み、その結果としてプロジェクトがうまくいかなくなることを、いくつもの例を示しながらわかりやすく説明している。確かにその通りだと思った。非常に面白い本である。

 本書のはじめに、「ビジョンを計画に落とし込み、首尾よく実現させるにはどうしたらいいのだろう?」と問いかけた。これから見ていくように、「ゆっくり考え、すばやく動く」がその答えになる。(15ページ)

 「1910年から1998年までに実施されたプロジェクトのコスト見積もりは、最終コストを平均28%も下回っていた」と、ニューヨーク・タイムズが私たちの調査結果を要約して報じている。(34ページ)

 前に述べた、私のデータベースが明らかにしたパターンが、強力な手がかりになる。失敗するプロジェクトはズルズル長引きがちだが、成功するプロジェクトはスイスイ進んで完了する。
 なぜだろう? プロジェクト期間を「開いた窓」と考えるとわかりやすい。期間が長くなればなるほど、窓は大きく開く。そして窓が大きく開けば開くほど、大きく邪悪なブラックスワンが窓から飛び込んできてトラブルを起こすリスクも増大する。(46-47ページ)

 対策は何か? 窓を閉めよう。
(中略)
 ひとことで言えば、短く収めよう! (50ページ)

 計画を立てるためには考える必要があるが、創造的で多面的で注意深い思考は、ゆっくりとしたプロセスなのだ。
 エイブラハム。リンカーンは、「木を切る時間が5分あったら、最初の3分は斧を研ぐのに使いたい」と言った。これが、大型プロジェクトにふさわしいアプローチだ。円滑で迅速な実行を確保するために、計画立案に思慮と労力を注ごう。(55ページ)

 最初に目をつけた土地を唯一の候補地とみなし、とにかく建設を始動させようとした。こうした視野狭窄は、あとで説明するように、人間の心理メカニズムに深く根ざしていて、大型プロジェクトの成功をさらに妨げるのだ。(65ページ)

 人間はきわめて楽観的な生き物だ。だから自信過剰に陥りやすい。ほとんどのドライバーが、自分の運転技術は平均以上だと考えている。ほとんどの起業家が、ほかの似たような企業が失敗しても、自社は成功すると信じている。タバコを吸う人は、自分はほかの喫煙者よりも肺がんになりにくいと思っている。
(中略)
 楽観主義が過ぎると、非現実的な予測を立て、目的を見きわめず、よりよい選択肢を見過ごし、問題の特定も対処もせず、不測の事態に備えなくなる。それにもかかわらず大型プロジェクト(やその他のあらゆる人間の営み)では、あとの章で説明するように、楽観主義が邪魔して現実的な分析が行われないことが多い。(70-71ページ)

 これに対し、よい計画立案は、模索し、想像し、分析し、検証し、試行錯誤する。これは時間のかかるプロセスだ。つまり、よい計画を立てた結果として「ゆっくり」になるのであって、「ゆっくり」すればよい計画ができるのではない。
 よい計画を生み出すのは、幅広く深い「問い」と、創造的で厳密な「答え」である。ここで注意してほしいのは、「答え」の前に「問い」が来ることだ。問いが答えの前に来るのは当たり前、いや、当たり前であるべきだが、残念なことにそうなってはいない。プロジェクトは必ずと言っていいほど、答えから始まる。(102ページ)

 プロジェクトは、それ自体が目的であることはなく、目的を達成する手段に過ぎない。高層ビルの建築や、会議の開催、製品の開発、本の執筆等々は、それ自体を目的として行われるのではない。ほかの目的を達成するために行われる。(108ページ)

 そんな彼も、超大作プロジェクトに着手する際に同じ方法を取っている。右端のボックスを埋めるのだ。
 「これは何に関する本なのか?」と自問する。「何が言いたい本なのか?」

 カロはいつも「本を2つか3つの段落に要約する」ことを自分に強いている。これらの段落で、本のテーマをごく簡潔に表してみる。
 だが、簡潔だからといって、簡単なわけではない。カロは下書きを書いては捨て、書いては捨てを果てしなく繰り返す。自分の書いた概要を、膨大な調査と照らし合わせる作業を、ときには何週間も続ける。「その間ずっと自分に言い続けるんだ。「いや、それは私がこの本でやろうとしていることじゃない」と」。(118-119ページ)

 よい計画は、実験または経験を周到に活用する。優れた計画は、実験と経験の両方を徹底的に活用する。(130ページ)

 一般にピクサー映画は、脚本から観客のフィードバックまでのサイクルを8回くり返す。(146ページ)

 この単純な違いは、ほぼすべての分野のプロジェクトに当てはまる。計画を立てる間に、打てるだけの手を打っておこう。そして、計画はエクスペリリ(実験+経験)をもとに、ゆっくり、徹底的に、反復的に立てよう。(152ページ)

 シリコンバレーのスタートアップの間では、たとえ未完成であってもプロダクトをすばやく提供し、ユーザーからのフィードバックを取り入れて改良していく方法が一般的だ。これが、起業家のエリック・リースが2011年の同名の著書で広めた、「リーン・スタートアップ」方式である。そしてそれは、プロジェクトが失敗する主要因として、本書の冒頭から私が槍玉に挙げてきた、ゆっくり慎重に計画する前にプロジェクトを進める方式に酷似している。シリコンバレーの成功は、私の提唱する方法の強力な判例になる、とあなたは思っているかもしれない。
 だが実は、リーン・スタートアップ方式は、私のアドバイスとまったく矛盾しない。もし矛盾が生じるとすれば、計画立案のあり方を狭く限定する場合だけだ。
 私の考える計画立案とは、じっと座って考えることだけではないし、定型的で形式的な計画を立てることでももちろんない。計画立案は「能動的なプロセス」である。計画立案には「行動」が伴う。アイデアを試し、機能するかどうかを確かめ、その学びを踏まえて別のアイディアを試す。
 計画立案は、プロジェクトを本格的に実行する前の試行錯誤と学習であり、この段階の慎重で徹底的で広範な検証が、実行を円滑かつ迅速に進めやすくする。(154ページ)

 本当の障壁は、計画立案を静的で抽象的、形式的な行為とみなす、その姿勢にある。代わりにそれを「試行、学習、反復」の能動的な試行錯誤のプロセスとみなせば、ゲーリーやピクサーのように、いろいろな方法を使ってアイデアで「遊ぶ」ことができるのだ。(159ページ)

 ここまで見てきたすべての不合理の集大成が、オリンピックだ。
 1960年以降、オリンピック---パラリンピックと合わせて6週間にわたって行われる、4年に1度のスポーツの祭典---の開催費用は爆発的に高騰しており、現在では数百億ドル規模にまで膨らんでいる。データが入手可能な1960年以降の夏季・冬季のすべての大会で、開催費用が予算を超過している。私とチームが調査した20超のプロジェクトタイプのうち、コスト超過率がオリンピックを上回るのは、核廃棄物貯蔵だけである。
 さらにおそろしいことに、オリンピックのコスト超過率は「べき乗分布」に従う、つまり極端な値を取る確率が驚くほど高い。誰もうらやましがらないたった1つのオリンピック記録である、「コスト超過率」の記録保持者はモントリオールで、1976年の夏季大会は予算を720%超過した。だがべき乗分布のせいで、どこかの不運な都市が記録を塗り替えるのは時間の問題だ。
 この惨憺たる実績にはいろいろな理由があるが、主な元凶はオリンピックが経験をあえて軽視していることにある。(172-173ページ)

 前章の冒頭で述べたように、計画を立てるときは、ラテン語のエクスペリリ(英語の「実験」と「経験」の語源)を忘れてはいけない。計画立案では、凍れるものであれ、凍れぬものであれ、経験を最大限に活用しよう。
 ほとんどの大型プロジェクトは、最初、再考、最大などのめざましいものではない。比較的普通の高速道路や鉄道、オフィスビル、ソフトウェア、ハードウェア、改革、インフラ、住宅、製品、映画、イベント、本、住宅リフォームなどだ。壮麗な文化的名所やモニュメントを作ることは要求されていない。奇想天外なものや前代未聞なものも求められてはいない。ただ予算内、工期内に完了し、本来の機能をきちんと確実に長期間果たせれば、それでいい。
 そうしたプロジェクトでは、経験がものをいう。過去に何度も成功しているデザインやシステム、プロセス、テクニックがあるなら、それをそのまま使うか、微調整を加えたり、ほかの実証済みのものと組み合わせるなどして活用しよう。既製の技術を使おう。経験豊富な人を雇おう。頼れるものに頼る、ということだ。
 危険な賭けはできる限り避けよう。「最初」をめざしてはいけない。「カスタム」や「オーダーメイド」といった言葉を、あなたの辞書から追放しよう。これらはイタリア仕立てのスーツにはいいが、大型プロジェクトには向いてない。
 同様に、反復的な「ピクサー・プランニング」のプロセスを取り入れて、可能な限り実験しよう。(184-185ページ)

 だがより根本的な教訓は、モジュール性の力である。デンマークはモジュール性による急速な学習と爆発的成長の波に乗ったからこそ、開拓者たち自身が予想したよりはるかに早く、多くの国が「1つの巨大なもの」型プロジェクトを推進するよりも短い時間で、風力発電技術と電力供給で革命を起こすことができた。これが、「スケールとスピード」である。これが、私たちに必要なモデルである。「多くの小さいもの」を量産し、レゴのように組み立てる。パチッ、パチっ、パチッ。
 この物語が企業や政府にとって持つ意味は明らかだ。モジュール方式を促進、支援、実践しよう。(334ページ)

 これから紹介するのは、私自身が数十年間の大型プロジェクトの研究と実践で培ってきた、11の経験則だ。
(中略)

  1. 「マスタービルダー」を雇おう
    (中略)

  2. 「よいチーム」を用意しよう
    (中略)

  3. 「なぜ?」を考えよう
    (中略)

  4. 「レゴ」を使ってつくろう
    (中略)

  5. ゆっくり考え、すばやく動こう
    (中略)

  6. 「外の情報」を取り入れよう
    (中略)

  7. 「リスク」に目を向けよう
    (中略)

  8. 「ノー」と言って手を引こう
    (中略)

  9. 「友好な関係」を築こう
    (中略)

  10. 「地球」をプロジェクトに組み込もう
    (中略)

  11. 最大のリスクは「あなた」
    (336-345ページ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?