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「書く仕事がしたい」

「書く仕事がしたい」(佐藤友美 CCCメディアハウス)


ライター/コラムニストの著者による、物書きとして稼ぎ、生きていくための本。冒頭から「この本は文章術についての本ではありません」「書く仕事で生きていくのに最も重要なのは文章力ではありません」と述べ、ライターの仕事内容、生活スタイル、収入、準備の方法、長く仕事を続けるためのアドバイスなどが書かれている。非常に面白く、参考になった。ライター、作家、小説家、コラムニスト、エッセイストなど、傍から見ると似ていて混同しがちだが、「書くこと以上に時間をかけて、書く以外のことを熱心に考えてきました」(11ページ)、「ライターに必要なのは、才能ではなく技術です」(34ページ)と述べている。

ライターの仕事がコラムニストやエッセイストと一番違うのは、この「取材対象について書く」という部分です。(中略)取材を行うということは、自分自身がネタを持っていなくてもいいということです。(38ページ)

原稿は「公開を前提としている」ことです。公開を前提としているとは、つまり、先に話したように読者を想定しているということとイコールです。そして、その読者に対して「どんな情報を、どんな方法で」届ければ有益になるかを考えて書いた文章が「原稿」になります。(中略)料理にたとえると、取材は素材集め。そして原稿づくりは調理と盛り付けになると考えればわかりやすいでしょうか。(40-41ページ)

完璧な原稿なんて、絶対に一生書けません。だから、書き始めた原稿は、どこかで手放さなきゃいけない。(45ページ)

ライターは日本語を日本語に翻訳する仕事です。(中略)相手の意図をくみ取って、最も適した日本語表現に置き換えるという点は、翻訳作業にとても似ていると感じます。(48-49ページ)

この「(他己紹介が)記憶に残る」ための技術は、たいてい以下の4つの要素に集約できます。
(1) 初対面の人に話を聞く「取材力」
(2) この場で喜ばれる情報を取捨選択する「相場感」
(3) 聞いたことを要約し、どの順番で伝えるかを考える「編集力」と「構成力」
(4) 印象に残すための「表現力」と「演出」(51ページ)

ライターとは面白がれる人である、といった、たとえ話をしたあとに、私がライターにとって一番大事な素養だと感じるのは、「対象に興味を持ち、面白がれる能力」だと思っています。(56ページ)

では、ライター業界は本当に人手不足なのでしょうか? ここでは書籍ライターを例にあげて考えてみます。現在、日本では1日に約200冊の新刊がリリースされています。つまり年間7万冊以上の書籍が出版されている計算になります。そのうち、かなり少なめに見積もって3割程度にライターが入っているとして、約2万冊はライターが書いている計算になります。ということは、年に10冊書く書籍専門ライターばかりだったとしても、2000人必要という計算になります。実際には、年に10冊コンスタントに書けるライターはほとんどいないので、最低でも4000~5000人以上の書籍ライターが必要であろうとイメージできます。でも、どう考えても日本に4000人も5000人も書籍ライターがいるようには見えないから、やはり編集者が言う「ライターが足りていない」は、リアルな実感なのでしょう。(60-61ページ)

意外かもしれませんが、ライターの仕事のうち、実際に「書いている」時間は、実はそこまで多くはありません。(中略)こうやって書き出すと、原稿を書いている時間が全仕事の2割程度というのもわかっていただけるでしょうか。(80-81ページ)

「仕事とプライベートをどうやって両立させていますか?」についてですが、私、そもそもこの質問に毎回うっすら違和感を覚えるんですよね。というのも、「両立」という言葉には、どちらかを立たせれば、どちらかが犠牲になる、そういったトレードオフのイメージがあります。でも、フリーランスの人間にとって、自分の24時間は、すべて自分の時間です。人から管理されている時間は、私の24時間の中にはありません。また、「書く仕事」をする人間にとって、仕事とプライベートは、そんなに明確に切り分かれているようにも思えません。(84ページ)

すでに書いたことがある人であれば、共感していただけると思うのですが、ライターの仕事とは、「考えたことを書く」仕事ではありません。「書く
から考える」という仕事なのです。(中略)書くときは、人の話に注意深く耳を傾けます。言葉のひだとひだの間に指をつっこんで、その間を慎重になぞりながら、その人が伝えたかったことは何だったのかを探っています。ひとつ経験が増えるたびに、ひとつ理解できる感情も増えるし、書ける言葉も増えます。それが、私にとっての「生活」です。
その生活にはオンもオフもなく、シームレスにつながり、仕事で聞いた話が生活に生き、生活で感じた疑問を仕事で尋ね、そんなふうに毎日が重なって
いきます。究極のところ、いいライターになるためには、人生に深くコミットすることが必要なのだろうなと、最近感じます。(90-91ページ)

では、そういう人たちが、どういうところで年間800万円以上の売り上げを
キープしているかというと、
(1) 広告やオウンドメディアの仕事で安定収入がある
(2) (出版社や媒体社ではなく)企業の仕事を受けている
(3) 著名人の専属ライターをしている(書籍やブログ、メルマガなど)
(4) 編集者の仕事もしている
(5) 編集プロダクション的な仕事をしている
(6) 原稿だけではなく、イラスト、写真、動画なども納品できる
(7) ライターになりたい人や、ビジネスパーソンなどを相手に文章を教えている
(8) 専門分野があり、その分野でアドバイザーやコンサルティング、講演などをしている
(9) 年に1冊程度は数万部のヒット本に恵まれている
などの、どれか、もしくは複数に当てはまっているように思います。(100-101ページ)

ライター業に転職したとき、だから、今度こそは、こんちくしょうと、自分の頭でちゃんと考えることを、心に決めたのです。
今度こそ、目を凝らしてその仕事を見よう。
人の仕事をよく見よう。そして、自分だったらどうするか、
自分が任されたらどんな文章を書くか、いつも考えていよう。そう思って、毎日過ごしました。
「どう思う?」と聞かれたら、すぐ意見を言えるように。
「やってみる?」と言われたら、そのときは、いつでもバッターボックスに立てるように。(107-108ページ)

ここまで読んでくださった方々は、お察しくださると思いますが、私の職業に対する向き合い方は、父から学んでいます。
・何事もデータをとって、まず「何を練習するか」「何を捨てるか」を決める。
・最小の時間で最大の効果が得られることから手をつける。
・条件に左右されない「原理原則」が何かを探る。
・実践で調整をくり返す。
・自分一人で考えず、仕事相手の意見を聞く。
・秀でていなくても良いから、平均点をとる(負けにくい)仕事をする。
この章では、生まれつきの能力に恵まれていなくても、「負けにくいライター」になる技術について、考え、実践してきたことをシェアします。(146-147ページ)

ここからは、仕事の依頼を受けたらやるべきことについて考えてみましょう。(中略)私だったら、以下のことに時間を費やすかなと思います。
(1) 読者を知ること
(2) 編集者を知ること
(3) 取材対象を知ること
(149ページ)

やり方はいろいろあると思いますが、要は「私はあなたについて、真剣に調べてきました。つきましては、これまで話したことがない話が聞けると嬉しいです」という姿勢が伝わるといいのかなと思います。(165ページ)

人の話を聞くときには、大きく分けて2つのパターンがあります。(中略)
時系列に沿って、その方のエピソードを聞きだしていきます。(中略)
一つのテーマに沿って、質問をどんどん深くしていきます。(中略)
私がインタビューをしていて、「あ、ここを深掘りしよう」と思うタイミングは、取材相手のテンションが変わったときです。(170-171ページ)

ここまで書くと、ライターには
(1) 言葉を引き出す力
(2) 引き出した言葉を元に、取材相手が見た景色や辿った思考を再構築する力
の両方が必要だとわかります。(180-181ページ)

物書きとして生きることは、目をこらし、耳をすませ、取材者として生きる
態度を持つことだと思います。そして、そうやって生きた結果、物事への理解が深まり、生活が楽しくなり、息子との関係が一歩深くなるのだとしたら、いい職業だなあと思います。いろいろ一石二鳥の仕事ですね(にっこり)。(184ページ)

世の中は変化していくし、言葉はナマモノなので、昨年までOKだった表現がNGになっていくことは、今後も起こりうるでしょう。なんでもかんでも言葉狩りすればいいとは思っていませんが、文章を書く仕事をしている以上、言葉の使われ方の変化と、その変化の根底にある理由に敏感である必要があると考えています。(204-205ページ)

最近わかったのだけれど、だいたい、自分の原稿をひどいと思っているときのほうが、実際は調子が良いことが多い。気力が充実しているときのほうが、上を見ているから、自分の原稿に対して厳しくなっている。だから、あとから読み返すと、「あー、そんなに悪くないや。捨てなくてよかった」と思うことが多いです。(210ページ)

企画を通せる切り口2パターン
これは、過去にお仕事をご一緒した編集者さんに教えていただいたのですが、企画を立てるときは以下の2点を意識するといいそうです。
(1) その道のプロにとっては常識だけれど、一般の人にとっては非常識なこと
(2) その道のプロにとっては非常識だけれど、一般の人にとっては常識なこと
この2点のどちらかを意識すると、それが企画の切り口になることが多い。こうやって考えてみると、企画においても大事なのは「相場感」ですね。加えて、「なぜいま、この企画を取り上げるべきなのか」といった時事性があればなおよしです。(213ページ)

今年やっている仕事は、去年のいまごろ、種を蒔いておいたものです。そうやって1年前に蒔いた種が、今日、花咲く。そして、今日蒔いた種が、来年くらいに花咲いているはず。そう思いながら、仕事をしています。
私が大好きな言葉。
「過去が咲いてゐる今、未来の蕾で一杯な今」(河合寛次郎)(220ページ)

だから、気合に頼るのではなく、いつどんな状況でもdisコメントと適切に対峙できるメソッドを構築して身につけようと思いました。その上で、
(1) disコメントの存在に対する基本姿勢を決める
(2) disコメントを読むか読まないかの基本姿勢を決める
(3) disコメントで心を病まない方法を考える
(4) disコメントを因数分解して付き合うと決める
という思考の道筋をたどりました。(236-237ページ)

どこの誰かもわからない人の言葉に傷つくことは、自分を大切にしてくれる人に対して失礼にあたるんだな。これは当時の私にとって衝撃的な発見でした。
この本(新井素子の小説)を読んで以来、私は、2つのことを決めました。
1つは、どこの誰かわからない、名前も名乗らない人の思い通りに落ち込んでやったりしない。自分を嫌う人のために、自分の時間や心を奪われたりしないし、自分の生き方を変えたりしないということ。(中略)disコメントをつける人のために書くのが怖くなってしまうということは、自分が嫌いな人の望み通りの自分になっているわけです。
つまり、自分が一番嫌いな人に一番影響された人生を送ることになっている。だとしたら、自分を傷つけようとしている人のコメントには、時間と心のリソースを使わないと決めよう。(238-239ページ)

だいたいどれかに当てはまる、disの因数4パターン
批判的なコメントはだいたい以下の4つに分けられます。
(1) 文書の中で主張したことについて、そもそも違う意見だと言われた場合
(2) 文章そのものが読みにくいと言われた場合
(3) 読者のほうにムシャクシャすることがあって、誰でもいいから絡んでみたかった、という場合
(4) 本来届かなくてよい読者に届いてしまった場合 (242ページ)

私は、Amazonレビューの低評価を読むのがわりと好きなのですが、書籍に関しては、(4)「本来届かなくてよい読者に届いてしまった」が、ままあります。(中略)こういうときは、「わーん、ごめんなさい。あなたのための本じゃなかったんです。お金と時間をかけてくれたのにごめんなさい」と心の中で謝ります。(247ページ)

ちなみに、Amazonに関していうと、売れている本ほどレビューの評価が低いという相関関係があります。あまり売れていない本は、作者のコアファンにしか読まれていないので星5つになりやすい。けれども、売れている本は、ファン以外にも届く。というか、ファン以外にも届いたからこそ、売れたわけです。すると当然、「この本はタイプじゃない」と感じる人も多くなる。するとレビューが荒れ始め、低評価が増える。以上の理由で、売れていない本ほどレビューが良く、売れている本ほどレビューが悪いという反比例のような相関関係が生まれるわけです。
もちろん、例外もあります。たとえば「嫌われる勇気」(ダイヤモンド社)はダブルミリオン(200万部)を超えていますが、レビューも多く評価もいい。そういう本もあるけど、一般的には反比例の関係になることがほとんどです。(248-249ページ)

ただ、書くことを仕事にしていくときに、何度もぶつかる壁に対しては、早めに暫定解を出しておいたほうがいいです。あとはPDCAをまわして、自分の暫定解をどんどんブラッシュアップしていけばいい。これは、なにもdisコメントについての対処法だけではありません。落ちる前にガンガン石橋を叩く必要はありませんが、あなたが何度も通る橋に関しては、一度じっくり考え、暫定解を持って渡ったほうがいい。(中略)よくぶつかる課題があるなら、早めに考えておくといいです。私は私の暫定解をこの本でシェアしていますが、みなさんも、自分に合った方法を考えてみてくださいね。そして、私にも教えてくれると嬉しいです。(249-250ページ)

スケジュールで事故らないために、私が先輩から教わって以来続けていることは、「仕事がきたら一回だけ手をつける」こと。たとえばいま、A、B、C、Dという仕事があるとして、Aの締め切りが5日後、Bの締め切りが10日後、CとDの締め切りが2週間後という場合、まず30分でいいから全部の仕事に手をつけてみるのです。すると、「これは、意外と時間かかるかもしれない」ということがわかったり、「思ったよりすぐできそうだから、完成させちゃおう」ということもあります。それまで私は、Aの仕事を始めると、Aをぶっ通しでやる。終わってからB、と進めていたのですけれど、そうするよりも、いろんな事故が減るなと感じます。(254ページ)

書籍のライティングは長丁場なので、モチベーション管理がとくに大変です。そこで1つ心がけているのが、書籍の原稿は、キリの悪いところでやめるということ。たとえば、文書の途中、読点を打ったところなどでやめるのです。原稿を書く仕事は、書き始めに一番負荷がかかります。でも、昨日まで書いていた文章がキリの悪いところで終わっていると、まずはその文章を書き上げるところからスタートできます。書くことが決まっていことから始めることで、初速をつけることができるのです。
そういえばこの間、塾の先生から、「受験生は1日を丸つけから始めよ」が常識だと聞きました。丸つけは負荷が低いのでスタートしやすい。それをやっているうちにエンジンがかかるというのです。ライターも同じですね。(258-259ページ)

「記憶に残る幕の内弁当はない」と言ったのは秋元康さんですが、物書き業界で、「全部できる」は、「全部できない」と同じだと思われてしまいます。なので、なるべくその媒体に合った、そして旗の立った経歴を入れ、あわよくば次の仕事につなげたいと考えています。

1本仕事が終われば、1本企画を置いてくる

仕事を増やすために、私はこれまで、「1本仕事が終わったら(もしくはその仕事の最中に)、2本企画を置いてくる」ことを意識してきました。(267ページ)

「言われやすい」人になる

もうひとつ、私が心がけていることがあって、それは仕事が終わったときに「どこが良くなかったかを編集さんに聞く」ことです。これは、ずば抜けて高い顧客リピート率を誇る美容師さんの話をヒントにしました。
その美容師さんのリピート率の高さの秘密は、2度目に来店したお客様に、「前回、どこがやりにくかったですか? どこが困りました?」と聞くことにありました。つまり、ダメだった前提で質問をするんですよね。これ、実際に客として体験してわかったのですが、気になることを伝えるのに、ものすごく心理的ハードルが下がります。(中略)この美容師さんの話に感化された私は、仕事が終わるたびに「私の原稿や仕事の運び方で、もう少し意識したほうがいいところがあったら、教えていただけますか?」と聞くようになりました。(269-270ページ)

「面白い」文章を書くための切り口の作り方---視点と視座
コラムやエッセイを書くようになったとき、一番意識したのは「オリジナルなものの見方」です。言い換えれば、読んだ人に「その視点はなかった!」と思ってもらえる「切り口」です。その作り方について考えました。(中略)
「視点」とは、ものごとの「どこを見るか」です。多くの場合、この「どこを見るか」が、書き手のオリジナリティが発露する部分に思われています。
一方で「視座」は、ものごとを「どこから見るか」です。あまり語られていないように感じるけれど、この「どこから見るか」にも、書き手のオリジナリティが出ると私は思いました。
つまり、視点か視座、このどちらか(両方でも良い)が面白ければ、面白い原稿になるのではないかと思ったのです。そして、この視点と視座の数だけものの見方(つまり切り口=図解の矢印の部分)が生まれるのであれば、いろんなパターンの切り口を作れるのではないかと考えました。(314-316ページ)

いま、世の中で起こっていることを、一生懸命に知ろうとする。すると見えなかった一面が見えてきて、これまでの解釈を新たにさせられます。そのたびに、世界は昨日と違って見えます。

知ること。
知ろうとすること。
それは、ほとんど、愛することに近いと感じます。
いろんなことを知ろうとし、何かを知るたびに、愛せるものが増えていきます。

良く書こうと思えば思うほど、私は、私の生きている世界を、好きになります。私が、この仕事が好きな理由はここにあります。

Love the life you libe. Live the life you love.
(325ページ)

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