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「日本の消費者はどう変わったか: 生活者1万人アンケートでわかる最新の消費動向」

「日本の消費者はどう変わったか: 生活者1万人アンケートでわかる最新の消費動向」(松下東子 林裕之 東洋経済新報社)

野村総合研究所(NRI)の著者による、3年おきに実施している調査結果を分析し、日本の消費者の変化や現代消費者の姿、消費者マーケティングに関する分析を紹介する本。最新の2021年の調査について述べている。NRIがこれだけの調査を定期的に行っていることに驚いた。また分析内容も非常に興味深く説得力がある。

「一流企業に勤めるより自分で事業をおこしたい」は全年代で減ってきており、特に10代、20代の若者で減少が目立つ。日本経済全体が成長していた時代には、起業・挑戦は大きな成長要因・チャンスにつながることを期待させたが、景気の低迷が続き格差が広がる現代日本社会では、一度失敗するとなかなか這い上がれない「リスク」を意味する側面が強い。(26ページ)

失われつつある愛社精神や起業志向(31ページ)

コロナ禍においてテレワーク業務を実施した人は余剰時間を活用した資格取得、副業への意向が高い。さらには、会社への貢献意識も高くなっており、就業への満足度はより高い結果が得られている。(38-39ページ)

マイクロソフトのCEO、サティア・ナデラは、「フィナンシャル・タイムズ」のインタビューに対して、同社のウェブ会議ツール「Microsoft Teams」の利用が世界中で急増したことなどを受け、「2年分のデジタル化が2か月で起こった」と発言しているが、日本の有料動画配信サービスについては「2年間かけて成し得なかった浸透がこの(2020年3月-5月の)2か月で達成された」といえるだろう。有料動画サービスだけでなく、日本では様々な分野で数年分のデジタル化がこの2か月で進んだのである。(91-92ページ)

直近6年間で加速した夫婦の独立・対等化意識(113ページ)

夫婦の間で秘密をもってもかまわない(114ページ)

子どもは「もった方がよい」という意識は近年急激に弱まった(118ページ)

「仕事のために子どもをもつタイミングを先延ばししてもよい」も、2021年までの直近6年間で大きく伸びた価値観なのである。(124ページ)

子の世話にはなりたくないが、面倒はみてやりたい
子どもがいても親が離婚するのは自由。希薄化する「子はかすがい」意識(128ページ)

NRIではこのような、一見別の世帯のようだが日頃から行き来があり、日常生活を助け合ったり、共同で、あるいは互いの世帯を意識しあいながら消費を行ったりなどゆるやかにつながる家族を、「インビジブル・ファミリー(みえざる家族)」と呼んでいる。それぞれの世代に応じた生活スタイルを維持しつつ、親世帯は子世帯の育児を手伝い、子世帯は親世代に新しい情報機器・サービスの導入を支援するなどの助け合いをしながら、みえない大家族としてつながり続けているのである。(137ページ)

夫婦の関係は、入籍という形にこだわる必要はないという考え方(139ページ)

9割の人が「(コロナ禍収束後に)生活様式は完全には元に戻らない」と回答(158ページ)

コロナ禍におけるリアルの役割とは
そもそもリアル店舗の役割として重要なのは、顧客体験価値の向上である。「チューズベース シブヤ」のように自由な購入体験を演出することや、「移動商業店舗」のように身近な場所でリアルな買い物を気軽にできる体験、思いがけない魅力的な店舗と出会える体験がきっかけとなる。そして実際の店舗へ足を運ぶ機会が増えたり、ネットで購入してもらえるようになったりする。(189ページ)

消費者の環境に対する意識は高まっているか?
生活者1万人アンケート調査では生活価値観の一つとして「節電や省エネルギーに貢献する商品を選ぶようにしたい」の項目がある。この項目は年代ごとの回答傾向として10代においては「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計割合は高いが、20代、30代で低くなり、年代が上がるにつれて再び回答割合が高くなる傾向がある。(230ページ)

レンタルやリースに対する抵抗感の変化
そして重要なのは2018年から2021年に対する変化である。これまでシェアリング・エコノミーへの意識が高まっていた主に50代以下の層において、5%前後減少しており、同じ傾向が「中古・リサイクル品に対する抵抗感」でもみられた。人とモノをシェアすることは経済的にも助かるし、環境にもやさしい。しかし、コロナ禍においては人と共有することはウイルスへの感染リスクが上がることを意味する。環境負荷を下げることはよいことだとわかっていても、目の前に突き付けられたコロナ感染脅威とのトレードオフを考えれば、シェアリング・エコノミーを避ける考えには合点がいく。(236-237ページ)

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