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日本の磁気記録技術の開発史の決定版! 〜 『日本の磁気記録開発 - オーディオとビデオに賭けた男たち』 中川靖造 著(ダイヤモンド社 1984)

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (56)

企業戦略の視点から、日本における磁気記録技術の進歩の歩みを辿ったドキュメンタリー作品。

著者は、週刊誌や月刊紙の取材記者として活躍しフリーライターとなった中川靖造 (なかがわ やすぞう) 。

本書の他にも『次世代ビデオ戦争』、『日本の半導体開発』や『海軍技術研究所』といった日本の科学技術関連の著書をいくつか残されています。

「裾野の広い磁気記録開発史からみれば、ほんの一側面でしかない」

と、著者本人が語っているとはいえ、おそらく一般書籍としては最初に書かれた、唯一の日本の「磁気記録技術の開発史」を鮮明に辿った貴重な一冊。

" 音の記録、再生をめざした日本の磁気記録技術は、オーディオテープレコーダー、ビデオテープレコーダーの出現によって、はじめて、われわれ大衆の身近なものになった。
しかも、関係技術者の「高密度記録への限りない挑戦」によって、今日では音と画像の記録だけでなく、情報化社会の "記録" には欠かせない存在にまで成長している。


『日本の磁気記録開発 - オーディオとビデオに賭けた男たち』プロローグより

終戦直後の日本放送協会 (JOAK、NHK)のビルから運び出された廃棄物の中に打ち捨てられていた銅帯式録音機 (ワイヤーレコーダー) にまつわる話から始まる本書では、1888 (明治21) 年にアメリカの雑誌『エレクトリカルワールド』で「磁性体に音声信号を記録」させるという着想が発表された頃から始まる、磁気録音技術の歴史を丹念にたどり、1980年代に話題となったビデオ規格戦争 (ベータ vs VHS) までの約100年における磁気記録技術の進歩の様子が各社の企業戦略の視点から鮮明に描かれています。

また非常に多くのインタビューにより書き上げられただけあり、著者本人も語っているように、とても生々しい体験談や、技術開発の困難さを感じ取ることができます。

" ある人から磁気記録開発史は誰も書いていない。それに挑戦してみてはと教えられた。
たまたま別の取材でお目にかかったソニー井深大名誉会長に、その意図を話すと、早速東北学院大学の永井健三名誉教授に電話をかけて下さった。
磁気記録開発史を書くには、まず、永井先生に会うことが先決だというのである。それが二年前の三月のことだった。
それ以来、一年半ほどかけて、ソニーの関係者をはじめ、松下電器、日本ビクター、ティアック、富士写真フィルム、TDK、東芝、東京三洋電機、オリンパス光学、東北大学など、磁気記録開発に関わりのあった多くの人々にお目にかかった。その数は200名を超える。
"

『日本の磁気記録開発 - オーディオとビデオに賭けた男たち』あとがきにかえてより

東京通信工業 (後のソニー)の技術者・木原信敏による日本初となるテープレコーダー開発をはじめ、放送用国産ビデオテープの開発を成功させた明石五郎 (フジ写真フィルム入社、東大物性研常務、磁気記録研究所所長) や、木原と同時期に東芝中央研究所でVTR研究を進めていた澤崎憲一 (ヘリカルスキャン方式考案者)ら、各社の技術者の開発秘話も含まれており、現代では当たり前になった録音・録画の文化の礎が、いかに日本の技術屋 (者)達の製品開発に賭ける意地と執念のもとに構築されていったかを、より深く知ることが出来る一冊です。

文:黒川 (FieldArchive)


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