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テープレコーダが重要な役割を持つようになった時代を伝える名著 〜 『磁気録音機』 多田正信 著 (オーム社 1953)

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (24)

オーム社より出版された 多田正信 の著書『磁気録音機』は、国産初のテープレコーダー「G型」が発表されて僅か3年後、1953 (昭和28) 年に出版され、未知の機械であったテープレコーダーの本格的な専門書籍として、東通工のみならず日本中の技術者に愛読された名著でした。

著者は日本電気株式会社 (現NEC) より、技術開発部門のトップとして東通工に入社し、後にソニー取締役を努めた 多田正信。

“本書は、この磁気録音の揺らん期ともいうべく時期において、磁気録音のアウトラインの紹介を意図したものである。原理から用法に至るまで全般に亘って、なるべく多くの具体例をあげて一通りの記述を試みた。従って特に専門的に掘り下げた説明を望まれる方々には、物足りないうらみがあろうが、これからテープレコーダーを使われようという方、現に使っておられる方々、または応用面を企てられる方々に対して、本書の内容が御参考の一助にもなれば、まことに筆者の幸である。”
「磁気録音機」はしがきより

著者本人が記述されているように、歴史、原理から構造、用法に至るまで多くの具体例を上げて細かに丁寧に書かれており、まさに磁気録音のバイブルとも言える内容になっています。

さすがに原理や構造については、専門的な知識がないとなかなか読み進められません。しかし、歴史や用途に関しては比較的優しく書かれており、また磁気録音機の実例として「ワイヤーレコーダー」から、木原が手掛けた日本初の「G型」をはじめとする、当時発売されていた日本電気や極東電気の製品、さらにはウエブスター・シカゴ社やマグネコード社、アンペック社などの製品についても同様に写真付きで説明があり、この時期に活躍していたほとんどの製品を確認することが可能です。

ちなみに、「P-2型」など一部の機械については、回路図も確認することができます。

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この時代のテープレコーダを始めとする磁気録音技術について書かれたものは、科学系の専門雑誌では紹介程度のものが幾つか確認できるのですが、専門書籍としては珍しく、また後発の磁気録音やテープレコーダについて書かれる専門書などでは、日本初の「G型」や「H型」「M型」などについての技術的な記述等を確認することはほとんどできなく、おそらくこれが最初で唯一のものだと思われます。

多田正信 の著書『磁気録音機』は、磁気録音の技術書でありながら、日本の磁気録音の歴史を辿れる貴重な史料であり、かつては未知のものであったテープレコーダが、日常生活に重要な役割を持つようになった時代を伝える、貴重な一冊でもあります。

文:黒川 (FieldArchive)



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