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井深大の秘蔵っ子といわれ、録音・録画文化の礎を築いた伝説の技術者 〜 東京通信工業 (現 ソニー) 新卒採用第1期生-木原信敏

ソニー技術の秘密にまつわる話 (1)

モノづくりに心奪われた科学少年

ソニー創業者の一人井深大 (いぶか まさる、1908 - 1997)の秘蔵っ子といわれ、日本のメカトロニクス機器の原点ともいえる、1950年に誕生した日本初のテープレコーダー『G型』を始め、数多くの「日本初」「世界初」の製品開発に携わり、ソニーを技術面で支え続けた伝説の技術者・木原信敏 (きはら のぶとし、1926 - 2011)

1926 (大正15)年、東京・中野で誕生した木原は、幼少の頃より『科学画報』や『少年倶楽部』といった雑誌を愛読するだけではなく、木工細工や模型などモノづくりが好きな科学少年でした。

中学は科学教育に力を入れていたことで知られる府立2中 (現在の立川高校)に進み、機械などのモノづくりにますます関心を示すようになっていきます。

戦争の真っ最中には、早稲田大学の専門部 (機械科)に入学。しかし授業の半分は工場への動員という時代背景もあり、名古屋の愛知時計で戦闘機の液冷カムシャフトの旋盤などを行っていました。

終戦を迎えると、父を失い、経済的にも当時の新円切替でほぼ無一文の状態になり苦境に立たされることとなりますが、その日の生活費を稼ぐために焼け跡に落ちている真空管などを拾い集め5球スーパーのラジオや電蓄を組み立て売るというアルバイトなどをして生計を立てていました。

1950年に誕生した日本初のテープレコーダー『G型』開発のお話はこちら↓

東京通信工業との出会い

ある日、木原は大学の掲示板に貼られた、たくさんの学生募集要項のなかに、

「学生求む 井深大 東京通信工業株式会社」

と書かれた、東京通信工業 (現ソニーの前身、以下 東通工) の学生募集要項を見つけます。

学校に用意されているパンフレットのなかから、日本電気、日本無線、東芝を選んで就職活動を始めましたが、今振り返ってみると、これらの会社はすべて電気の会社でした。私は機械の会社は名前も知りませんでしたから、神田で見慣れた名前の電気の会社を無意識に選んだのではないかと思います。
 そんなある日、学校の廊下の掲示板に貼られた、ある学生募集要項に興昧を惹かれました。『学生を求む 井深大 東京通信工業株式会社』と書かれたその掲示に、私が興味を持ったのは『井深大』という名前があったからです。

ソニー技術の秘密』第1章より

早稲田大学 (専門部工科機械科) 在籍時に、当時非常勤講師だった 井深大の講義を聴講し、また東通工が当時販売していた機械部品 (ダイヤル表示装置など) を好み、ラジオや電蓄などを組み立てる際に使用していたこともあり、この募集要項に興味を持ったのでした。

新卒採用第1期生として入社

この当時、機械科 (メカ系)と電気系はそれぞれ独立した存在で、両方を知っているということは非常に珍しいことでもありましたが、木原は履歴書に機械科の学生でありながら「ラジオが作れます」、「電蓄が作れます」と電気関係のことばかり書き、面接を行った樋口晃 (ひぐち あきら、後のソニー副社長、1913 - 2015) に、

「君は機械屋なのに、ここに書いてあることは、ラジオが作れるとか電蓄を組んだことがあるとか、みんな電気のことばかりだね。面白い人だね」

と不思議がられながらも、数日後に無事採用通知を受けとります。

樋口晃は、終戦直後に井深大と共に疎開先の信州より上京し、1945 (昭和20) 年10月に東京通信工業の前身となる『東京通信研究所』の設立に参加した創設メンバーの一人でした。

1947 (昭和22) 年4月、
木原は、東通工に新卒採用第1期生として入社します。

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とにかくいろいろな機器の手伝いからスタート

木原が入社した頃の東通工はまだ創業まもなく、技術に通じる仕事があればなんでもやっていた時代でした。

音叉の原理を応用した『調音器』や印刷電信機の『周波数測定器』、1940年 (昭和15)年に井深大によって設立された日本測定器株式会社 (熱線誘導兵器など軍の特殊兵器を作る東通工の前身) 時代に 安田順一 (やすだ じゅんいち) により開発された (国内の測定器としては最高峰の一つ) 超短波交流電圧測定用『真空管電圧計』などの測定器の調整を担当します。

上記の写真に写っているのは、当時NHKの依頼で納入していたラジオの調整卓で、この調整も木原(写真左端)が行っていました。

今では当たり前になった、録音・録画文化の礎を築いた一人の技術者として、数多くの日本初・世界初を産み出した木原の技術屋人生は、ここからスタートするのです。

入社3ヶ月、木原は幻の機器『ヘルシュライバー (鍵盤模写電信機)』の組み立てと調整を任されます。↓

文:黒川 (FieldArchive)


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