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小型化、低価格を実現した革命的なVTRの夢の幕開け! 〜 世界初家庭用ビデオテープレコーダー『CV-2000型』

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (39)

1963 (昭和38) 年にソニーが発表した、世界初オールトランジスタ小型VTR 『PV-100』は放送局用大型VTRの概念を覆し、国内外問わず高い評価を得ましたが、小型化へ大きく前進したものの、約70kgと重量があり価格もまだ200万円台と高く、家庭で使用できるものではありませんでした。

「家庭で使用できる安価で軽量なVTRを作りたい」

という思いから、ソニーの技術者・木原信敏は更なる小型化へ動き出します。

コストの高いモーターは一つでなければならない。コストの高いパワートランジスタは一つも使ってはならない。電力消費は極力少なくするべきである。トランジスタの使用数は一個でもよいから減らせ。そのためにはテレビカメラは電源同期にしてしまえ。同期盤(同期信号発生機)は必要ない。機械的なパルスジェネレーター(信号発生機)を使え。テープ使用量を半分にするため、フィールドスキップ記録(テレビ画面を一枚おきに記録する方式)をしてしまえ。そのためには二ヘッドヘリカル回転ドラム方式を使え。
 このようなことは、今日では通用しない考え方でしょう。例えば、機械系で解決できることならば、できるだけ機械で設計して、コストのかかる電気回路は使わない方針でしたから、同期盤を持つことは考えられないことでした。それを機械的なパルスジェネレーターで代用して、コストダウンを図りました。


ソニー技術の秘密』第3章より

1964 (昭和39) 年11月、
一般家庭にビデオを普及させていくという思いからコンシューマ・ビデオ(Consumer video) の略から「CV」と名付けられ、数々のコストダウンのアイディアと、それらを組み合わせた努力が、世界初となる家庭用ビデオテープレコーダー『CV-2000』を誕生させます。

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1960 (昭和35) 年に世界初となった、オールトランジスタ化工業用VTR『SV-201』よりさらに10分の1のサイズに小型化を進め、

1958 (昭和33年) 年に完成した、『国産第1号機VTR』からは100分の1のサイズと進化を遂げていました。

ちなみに重量は約19kgで、1964 (昭和39) 年当時としては画期的に小型軽量な機器でした。

さらには、大幅なコストダウンを実現し、当時アンペックス社の販売していた従来の放送局用が 2,000万円程度、工業用が 250万円位とかなりの高額でしたが、この『CV-2000』の価格はなんと

 198,000円!

まさに、VTRの夢の幕開けでした。

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テープ幅1/2㌅、7号リールで1時間録画に対応。回転2ヘッド。15kg。1サーボ1モータ化を実現。構成する部品が少なく約3分の1程度になり生産効率も大きく向上し、ベルトコンベアに乗せられる仕様に。

この製品をきっかけに、それまでの固定ヘッドの機器は市場から姿を消すことになります。

アメリカのテルカン社やフェアチャイルドカメラ (現FairchildImaging) 社など次世代のVTR開発を進めていた企業も、この『CV-2000』の低価格には手も足も出ず、国内のメーカからは、

「200万円の工業用VTRの試作品を発表したばかりなのに、追い討ちをかけられたようで手も足も出ないというのが正直な感想だ」

と語られるほどだったのです。

井深大 はこの『CV-2000』の完成について、

「生活に革命を生む商品を、というのは、
ソニーの特徴であり、
喜びであり、価値なのです」

と、絶賛。

まさに革命的だった家庭用のVTR開発を実現した木原にとっても、この『CV-2000』は特に思い入れのある製品で、晩年自宅に訪れる若い技術者に数々のエピソードを伝えると共に披露しており、現在も木原の実家に大切に保管されています。

1967 (昭和42) 年4月、
世界初の家庭用VTR『CV-2000』は、『単一モーター式小型VTRの開発』のタイトルで、第9回科学技術功労賞を受賞しています。

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世界初の家庭用VTRとして完成した『CV-2000』はその後改良を加えられ、カラー対応のVTRとなり、さらに肩がけ可能な『ビデオデンスケ』として進化し活躍、テレビ一体型も作られ、国内においてはこのCV型の後継機としてAV型が誕生し、日本電子機械工業会 (EIAJ)のスタンダードとなり、学校教育用はじめ日本中で幅広く普及、この機器がきっかけとなり、VTRが家電の仲間入りをするようになっていくのでした。

木原が開発した『CV-2000』は、2011 (平成23)年9月27日、「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」として、同じく木原が開発した家庭用ベータ方式VTR1号機『SL-6300』(登録番号:第00038号)と共に、国立科学博物館 産業技術史資料情報センターに登録されています。(登録番号:第00085号)

文:黒川 (FieldArchive)


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