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海外機器の研究から得た情報とノウハウを集結〜東通工 (現ソニー) 製 『試作1号機』 テープレコーダー

ソニー技術の秘密にまつわる話 (7)

テープの巻き取り方法

フライパンでしゃもじで煎って作った磁性粉を塗布した「磁気テープ」を使った 『簡易試作テープレコーダー』での録音再生テストで音出しに成功した東京通信工業 (現 ソニー、以下 東通工) 入社2年目の技術者・木原信敏は、東通工での製品化を意識した『試作1号機』テープレコーダーの開発に取り掛かります。

木原お手製の『簡易試作テープレコーダー』のお話はこちら↓

『ワイヤーレコーダー』研究の経験から、機構部分や増幅部分の設計は順調に進んでいましたが、ここで「テープの巻き取り方法」で早速難問にぶつかります。

" テープを駆動することはできるが、巻き取りのリールにテープが巻き付けられると直径が変わり、回転速度が変わってしまい定速でヘッドを通過させることができない。"

ソニー技術の秘密』第2章より

木原は、巻き取りリールの手前にゴムローラーを取り付け、それにテープを挟んで引っ張ることで、テープの速度を一定に保つという考えを試していましたが確信を得られず悩んでいたのです。

そこに、ソニー創業者の一人・井深大から

「NHKで現物が見られる」

と連絡が入ります。

テープレコーダーの実機と初対面

井深大の連絡ですぐに木原は「テープレコーダー」の実機を確認するためにNHKに向かいます。

このとき木原が見学した「テープレコーダー」は、井深大が盛田昭夫と共に最初にNHKでみたものとは異なり、1949 (昭和24) 年6月にNHKが初めて導入し、放送スタジオでテスト録音を開始していた放送用テープレコーダー (アメリカのマグネコード社製「PT-6P型」) で、機構部とアンプ部はセパレートされ、19インチのラックに取り付けられていました。

井深大、盛田昭夫の両氏が見学した「テープレコーダー」のお話はこちら↓

この時、木原は初めてテープレコーダーの実機と対面します。

NHKで実際に実機を観察してみると、悩みの種だった「テープの速度を一定に保つ方法」の仕組みが、自分の考えと同様の機構を持っていることを確認し、

「自分の考えは間違っていなかった」

と確信を得ます。

木原はNHK所有のマグネコード社製テープレコーダーを十分に観察し会社に戻り、翌日には機構部の設計図を新たに書き上げ、すぐに試作を開始します。

満足な部品が手に入らない

1949 (昭和24) 年9月、
磁性粉を塗布した紙製「磁気テープ」での録音再生に対応する、製品化に向けた最初の試作機が組み上げられ完成しますが、当時はまだ戦後の物のない時代。

木原の設計した条件を十分に満たせるだけの部品や素材も手に入れるのは困難で、扇風機やミシンなどから取ったモーターを使用したり、天然ゴムをベルトに使用するも熱に弱く使えないといったなどの問題も多々あり、その完成度はとても満足できるようなものではありませんでした。

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最初のものは、動作試験程度の、まったくの試作品でしたので、どうやらテープは走行するのですが、巻き戻しも早巻きも、手で加勢しないと止まってしまう有り様でしたし、停止のときのブレーキのバネの強さの加減が、これまた大変に難しく、さんざんにてこずりました。
駆動や巻き取りに用いたモーターのトルクが弱くて、テープリールを直結では巻き取れません。参考にしたマグネコード社のようなモーターを手に入れるか、開発しなければなりません。
この「試作零号機」は、人様に見せられる状態ではなかったので、テープ測定機として作業場で使うことにしました。


ソニー技術の秘密』第1章より

『試作1号機』として完成

その後も木原はいくつかの機構部のアイディアを図面に書き上げ、最終的にテープ駆動はフリクション駆動の (定速回転をしながらピンチローラーとの間にテープを挟んでテープを送り出す) キャプスタン・ピンチローラー方式とし、モータはヒステリシス・シンクロナスモーターと呼ばれる「静かに回転する同期モーター」を 日本電気音響 (現 DENON) より数種類の提供を受け、ベルトは明治ゴム化成の協力を得て完成させています。

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何もない状態からスタートしたテープレコーダ開発は、その企図からわずか数ヶ月という短期間の間に、製品化を意識し海外の「テープレコーダー」を研究することで、数多くの情報とノウハウを集め、これにより縦型のテープレコーダー『試作1号機』として完成したのです。

東通工独自の技術を結集した、日本のメカトロニクス機器の原点『G型』テープレコーダーの開発がスタートします。↓

文:黒川 (FieldArchive)


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