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「電気は正直だ」 第2特機部長 木原信敏 〜 SONYニューズ1964.12(No.84)

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (55)

ソニーが世界初となる家庭用ビデオテープレコーダー『CV-2000』を誕生させた1964 (昭和39) 年、ソニーの社内情報誌『SONYニューズ』に『CV-2000』の開発者・木原信敏 (きはら のぶとし、1926 - 2011) のコラムが掲載されました。

技術者ならではの視点で、木原のユニークな一面が垣間見られる内容になっています。

「電気は正直だ」
第2特機部長 木原信敏

回路を組んで実験中によくあることだが、複雑な組み合わせになると線を接続したつもりの所が繋がっていなかったりして、そのまま実験を進めていることがある。

さて、動作はするがなにか変である。
30分以上もひねくりまわしてみたがわからない。

"えいっ、これは回路設計が悪いのだろう、他の方法でやってやろう" 

ということで、良い案の捨てられてしまうことがある。

または、間違った調整をしていて 

"結果が思わしくないからシステムが悪いのだ" 

と、すぐに他の方式に手を出したりする。

うっかりしていたこと、間違って理解をしていたことで、折角の良い案が駄目になるなぞは、いちばん損なことである。

変な動作をしているときには、自分がミスをしたのだと反省して、それを捜せば必ず発見できるし、正常に働いたときは電気は正直だとつくづく思う。

電気はわりあい純粋に現象が分けられ、予想とあまり違った結果はでないので、機械や化学その他に比べて正直さは一番であると思うが、他のものでも本質的には変わらないはずで、複雑さはいろいろだが、一定の物理法則でなりたっている限り、正直さには変りはない。

よく、とんでもない箇所を調べていて解決せず、ますますおかしなことを考えて迷路にまよいこんでしまい、

"この機械はよく働かないから見てください" 

と持ってくる人が時々あるが、私はそれを調べて解決したときに、その人にまず言います、

"機械は正直ですね"

と。

私は学生時代から数字が好きで、むづかしい問題を解くのが楽しみだった。パズルをとく心理と共通しているのかもしれないが、それは結果がピタリと求まり、答えが正直に出るからであった。

その後、機械いじりや電気をひねくるようになったのも、答が正直にでてくれるので、それに惚れこんだためとも言える。

物事は、研究であれ製造であれ商売であれ、ややともすると気がつかないで本筋からはずれたことを、苦労して解決しようとし、ますます泥沼に入っていくことが非常に多いと思われる。

私は、このように行きずまったとき、まず一休みして、

"電気は正直なはずだぞ" 

と、言ってみることにしている。

もちろん機械をいじっているときは、機械は正直だぞとなり、対人関係のときは、この人は正直者なはずだと思うことにする。

自分も相手も正直ならばこそ、答えがでるのであって、自分だけを主張していては、とうてい解答は得られないだろう。

対人関係は複雑で、電気を勉強するほど優しくはないが、電気や機械ならば努力次第で正直さを理解できるようになり、"やあ、電気は正直だなあ" と関心するようになる。

こんなことが増えれば増えるほど、それは相手を本当に理解できるようになったことで、その道のベテランに一歩前進したと言えるだろう。

ところがどっこい、またも珍現象発見で、朝からみんなと大騒ぎ、やっと片がついてホッと一安心。

今日もシンクロスコープを覗き込みながら独り言、"やっぱり電気は正直だった" と。

『SONY ニューズ』No.84 掲載


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