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FIDFF2021 作品紹介⑧-見里朝希監督特集

2021年にテレビ東京系の『きんだーてれび』内にて放映され、SNSを中心に子供から大人まで多くの方に注目されたパペットアニメーション『PUI PUI モルカー』。その監督・脚本を務めた見里朝希監督による6作品の特集上映を行います。

東京藝術大学大学院アニメーション専攻の修了制作作品として制作され、国内外で多くの賞を受賞したフェルト人形アニメーション『マイリトルゴート』(2018)や武蔵野美術大学在籍時の卒業制作『あたしだけをみて』(2016)。

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また『PUI PUI モルカー』の大ヒットや過去の受賞歴から見里監督=パペットアニメーション・ストップモーションの印象が強い方もいらっしゃるかと思いますが、実は2Dでも作品を制作しており『恋はエレベーター』(2014)はその一つ。

2015_武蔵野美術大学_01_恋はエレベーター

その他学生時代に制作された作品から、アニメーション制作スタジオ・WIT STUDIOと共に立ち上げたストップモーションスタジオで制作された最新作『Candy Caries』(2021)まで、見里監督のキャリアを大きなスクリーンで一挙に辿ることができるプログラムとなっています。

また見里監督の名前を一気に全国的にした『PUI PUI モルカー』も、事前にWEB上で行った各エピソードの人気投票から、もっとも人気を集めたエピソードを1本上映します。

加えて、上映当日は見里監督作品に俳優・声優としても多く出演されており、自身も女優として過去のFIDFF入選作に主演されているなど、実はFIDFFと縁がある見里瑞穂さん(監督の御姉様でもあります)にリモート出演という形でご登壇いただきます。

なぜこの映画をFIDFFで上映するのか?

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脈々と続くストップモーションアニメーションの世界

FIDFFは2010年から、コンペティション部門の募集と上映を行っていますが、感覚として応募いただく作品のうち実写は9割かそれ以上で、アニメーションは1割ほどです。中でもストップモーションとなると、さらに割合が低くなり、100作品以上の応募の中で1本か2本あるかどうかという程度です。

それだけ表現の手法としてはニッチであり、1コマ1コマを撮影していくことから想像以上に多くの時間と手間暇が必要なストップモーションという手法。元々は映画作品に添える特殊効果としての誕生から始まり、独立した作品手法としても現在まで脈々と続く伝統的な手法でもあります。

ストップモーションの変遷をたどる動画も制作されています。

動画内で取り上げられている作品はあの有名作も。ギズモード「アニメの原点。ストップモーションの歴史をまとめた1本の動画」の記事をご覧ください。

ちなみにFIDFF2020で最優秀アニメーションに選ばれ、FIDFF2021でも上映される吉田惇之介監督『蘆屋家の末裔』(2018)も、ストップモーションの技法が駆使されています。

個人的なオススメポイントはここ!

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見里監督作品の魅力は、なんと言っても登場するキャラクターのフォルムの可愛さ、愛くるしさ。素材の質感を活かしたキュートさにあると思います。
それらの物が自ら動き出すことによって、命が吹き込まれ、さまざまなお話を展開させていくのですが、見里監督は、そのような一見かわいくて食べやすそうなお菓子のような存在の中に、少しピリッと目覚めさせるような、批評的なメッセージを話中に潜ませてくるので油断できません。

ただし、それらの毒をアニメーションならではの擬人化や、メタファーとして表現して”毒”を”スパイス”として昇華させることで、子供たちだけでなく大人たちも満足させる、深い味わいの作品に仕上げてしまう見里監督の、映像人としての巧みさを感じます。

2014年に第11回ACジャパンCM学生賞 優秀賞を受賞された『あぶない!クルレリーナちゃん』では、乱暴な運転者=路上で踊るバレリーナと見立てて、表現しています。
メタファーといえば、今回上映予定の『あたしだけをみて』では、モルカーの元ネタ?らしき存在が意外な形で登場します。こちらもぜひご注目ください。

人と物の境界が曖昧な世界で(モルモット、車、エレベーター、キャンディ、虫歯菌まで!)描かれるストーリーが、なぜ私たちが抱える社会や人間関係のいびつさまで表現できてしまうのか不思議でなりません。

フェルトやプラパンを使ってカラフルに仕立て上げられたモコモコでツルツルなキャラクターたちが、理不尽な疎外や暴力に怯える姿は、普通のドラマ以上に真に迫った感情を感じさせます。是非、それらの素材で作成されたキャラクター達の質感を、大画面で鑑賞してみていただければと思います。

ストップモーションという表現のユニークさだけでなく、見里監督が向けている視線の先にも、ぜひ注目していただきたいと思います。

(執筆:坪根正直 編集:橘愛加

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