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鬱陶しいともだち

照れくさくてまだこの時の感謝を伝えられてないので、
この場を借りて伝えようかと思います。

史上最高にお節介で鬱陶しい友達に。

私は高校生とき、友達がいなかった。
移動教室もお昼ご飯も帰り道も、1人だった。

あの鬱陶しいクラスメイトが現れるまでは。

「さきちゃん!一緒に帰ろ!」
そう言って走って来たのは、すとんと落ちた長い髪のあいらちゃんだった。
あいらちゃんはいつもお洒落で、ランドセルの色だって女の子はみんな赤いのにあいらちゃんだけ水色だった。誰にでも優しくて人気者で、平凡な私なんかが隣にいていいのかといつも周りの目を気にしてた。
でも楽しかった。あいらちゃんと一緒に学校へ行って、家に帰って、公園で遊ぶ。そんな毎日がすごく楽しかった。
「さきちゃん、大人になってもずっと一緒に遊ぼうね!」
「うん!約束!」

ーーー気付いたらあいらちゃんは、ずっと遠くにいた。

廊下を歩いてると教室の前で楽しそうな女の子4人組の声が聞こえる。
「あの子変わった子だよね。ずっと1人で何考えてるかわかんない。」
「そういえばこの前、誰も使わない教室で1人でお昼食べてるの見た。」
「あー、さきね。中学のとき嫌われてたからねー。」
「え、なんで?実は性格悪いとか?」
私は聞こえてないふりをして教室に入った。

中学生のとき私は急に1人になった。どうやら嫌われたらしい。きっかけは、友達の好きな人に私が告白されたから。こんなことで嫌われるのなんて漫画やドラマの世界だけだと思ってた。
そして噂は尾ひれをつけて広がっていくもので、学校で私は"友達の好きな人をデートに誘って横取りした最悪な人間"として広まった。
「男好き」「裏切り者」。影で悪口言われてるって知っても正直なんの感情も湧かなかった。ただその悪口を言ってるグループの中にあいらちゃんがいたと知ったときは、友情って噂だけで簡単に壊れるものなのかと幻滅した。

それから私は誰とも話さなくなった。
友達ができることを拒んだ。
誰も信じられなくなった。

高校に入学して私は完全に人を遠ざけて過ごした。移動教室、お昼ご飯はもちろん1人で。体育祭、文化祭、修学旅行などの年間行事は仮病で休んだ。
時に話しかけてくる子もいたが、愛想笑いだけを残してすぐにその場を立ち去った。そんな私を見て担任の先生は「あなたが1人で平気ならそれでいいけど、無理はすんなよ。来年は受験生だから友達の存在は重要になってくるよ。」と心配された。いや、心配などしてなかったのかもしれない。教師として、私がなんらかの問題を起こさないように言っただけなのかもしれない。まあそれはどっちでもいいが、私は無理なんかしてない。
「大丈夫です。受験生も社会人も生きていくのに友達なんか必要ないので。」


高校卒業まであと1年。この頃には1人でいることに安心感さえ抱いていた。これ以上誰にも嫌われない、自分が傷付くこともない。そう思っていたのに高校3年生のクラス替えでその子は現れた。

「りんです!よろしく、さきち!」
「さき....ち....?」
「さきち可愛いから仲良くなりたいな〜ってずっと思ってたら同じクラスになれた!」
突然話しかけてきたりんという女の子は好奇心旺盛でお節介な子。苦手なタイプだ。
私はいつものように愛想笑いをしてその場を立ち去ろうとした。でも...
「始業式、体育館一緒に行こ!」
その子はこれまで話しかけてきた子とは違ってしつこくまとわりついてきた。
次の日も、その次の日も
「美術のデッサン、ペアになろ!」「放課後あそこのカフェ行こ!」
とても鬱陶しかった。

「りんって友達多いのに、なんでそんなに私に話しかけてくるの?」
「だって仲良くなりたいもん。さきちが1人で居たがってるの知ってるけど、私は絶対諦めない!」
うん、鬱陶しい。
その後もりんは毎日毎日話しかけてきた。

ある日、りんが全然話しかけてこない日があった。
私としてはすごく楽だったのだが、急にどうしたのだろう?なぜかちょっとだけ不安になった。
その日のお昼休憩、中庭にある机にりんがひとりで突っ伏して寝ているのを見た。もうすぐ授業が始まる時間なので起こしてあげようとりんに近付いた。鼻を啜る音が聞こえる。もしかして泣いてる...?
こういう時いつもの私なら無視して教室に戻ったけど、その日はなぜか違った。そもそも起こそうと近付いた時点でいつもの私じゃなかった。
りんの向かいの椅子に座って、しばらく黙っていると
「将来の夢、叶えられるか不安で...」りんが口を開いた。
「私、カフェを開業するのが夢で今キッチンのバイトしてるんだけど...でも...いつも失敗ばっかりで...」
声を震わせながら話すりんからいつもの活気は全く感じられなかった。

キーンコーンカーンコーン

授業の始まりのチャイムが鳴った。けどさすがにこの状況で教室に戻るわけにはいかないので私はそのまま動かなかった。

しばらく沈黙が続き、りんが鼻を啜る音だけが聞こえる。私はその時何を思ったのか、りんの頭にそっと手を置いた。そしてぽん、ぽん、と優しく撫でた。

その後2人の仲は縮まり...なんてことはない。
相変わらずりんは私にしつこくまとわりつき、私はりんを疎ましがる関係が続いた。

高校3年間の行事が全て終わり、受験もひと段落。
あとは卒業を待つのみ。
やはり相変わらず付き纏うりんのあまりの情熱に私はある決意をした。
中学のときに起きたこと、嫌われてたことを全てりんに話そう。りんなら、信じられるかもしれない。私が欲しかった言葉を、あのときあいらちゃんがくれなかった言葉をくれるかもしれない。

私が全てを話し終えたあと、少しの沈黙があった。
その時間がとても長く感じられて、怖かった。

りんが口を開いた。

「さきちは不器用だけど友達を裏切ることなんかしない、本当はめちゃくちゃ心が暖かい子ってこと、私は知ってるよ。あのとき頭撫でてくれてすごく落ち着いた。嬉しかった。ありがとう。」

私は何も返事をしなかった。できなかった。
喋ると泣いちゃいそうで。
私が黙っていると、頭に何かが触れた。
りんの手だ。その手はぽん、ぽん、と優しく私の頭を撫でた。

「よく耐えたね、お疲れ様。」


本当は友達が欲しかった。一緒に移動教室をして、一緒にお昼ご飯を食べられて、放課後一緒にカフェに行ったりカラオケに行ったりできる友達が欲しかった。その気持ちと共に殻から出られなくなった私を、殻をこじ開けて救い出してくれた唯一の友達、りん。
心からありがとう。

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