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『NOPE』の衝撃

アマゾンプライムで『NOPE』を観ました。すばらしいっ。

この映画を作った監督のほかの映画は、怖いらしいので観ておりません。この映画も恐そうで観るのに躊躇したのですが、妻が観ろ観ろというので(滅多にないことです)、ガマンして見始めました。

UFOの映画なんで、そこは大好物なんですけど、ボク怖いのホント駄目なんですよ。

実際、最初の方は、なんか怖かった。指のあいだから観ていました。

したっけ、これあんまり怖くないの。

っていうか、腹抱えて笑う映画なの。

っていうか、これ、ミスリーディングの傑作なのね。実に素晴らしい。何より観終わった後の爽快感が素晴らしい。

なんのためらいもなく、さわやかな空気を吐き出すように、言える。「この映画を作った人は、アホンダラなのですか?」と。

できるだけ予備知識なく、多くの方に観ていただきたいので、内容にはできるだけ触れずに賛美します。

まずシナリオは大失敗作です。馬鹿が書いて、「ア、馬鹿なの書いちゃった」つって捨てたのを、ゴミ箱から拾ってきたのではないでしょうか。

登場人物の性格設定はズレるだけズレています。ストーリーは破綻し続け、馬の名前でチャプターを分けているのも無意味、猿のくだりは思わせぶりなだけで完全に不要だし、テーマパークのショーなんか滅茶苦茶です。

そこが素晴らしい。堅実な、立派な映画人なら、キャリアのことなんか気にしたりして、絶対に近寄らないようなシナリオを読んで、「これでいこう」と決めたこの監督は、天才でないとしたら大秀才でしょう。

そうです。これは恐らく、非常に頭脳明晰な人が作った映画です。映画の全編にわたって、信念が感じられます。「ドアホな映画を創るぞ」という信念が。

これはエド・ウッドのように、一生懸命面白い映画を創ろうとして退屈になってしまったものでもないし(まったく退屈しません)、河崎実監督作品のように、ハナからしょうもない映画であることを開陳したりもしません。

丁寧に丁寧に、おおらかなアメリカのランドスケープを舞台に、とんでもない製作費をかけて、じっくりと、真剣に、愚の骨頂を目指して作られた映画なのです。

そしてそれは大成功しました。なんだよこれ、と思う人もいるでしょう。人をバカにするな、と怒る人もいるでしょう。当然です。

しかしまさにこの監督はそういう映画を創ろうとして作ったのです。そうでなければラストの音楽があんなんなわけがありません。プロデューサーも、最初は「ぎゃー!一杯喰わされた!」と思ったかもしれませんが、最後にはこの映画のドアホぶりに根負けしたのではないでしょうか。

繰り返しますがこれは賛美です。僕は皮肉を書いているのではないのです。アホンダラ映画ではありますが、取るに足らない映画ではありません。ダメな映画でもありません。観てよかったです。あと2回くらい観たいです。

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