自費出版備忘録(その11)
7月18日(木)
あれこれ忙しい日だった。インデザイン関係ばかりではない。疲れて目がしっかり開かない。でも今のうちに書いておかないと忘れそう。
出版社から実費で絶版になった僕の小説のデータを引き取った。これは本になったテキストだから、こちらに保存している生原稿みたいに、いちから文章を検討し直す必要もなく、事実上、インデザインと取り組んできた今までの苦労はしなくてすむ。1作や2作ではないから、こんなありがたいことはない。
担当編集者とも電話で話した。僕のやることを理解してくれただけでなく、応援さえしてくれる気配だった。出版社には出版社の事情がある。もはや僕の小説みたいなものは、手放しても構わないのだろう。しかしそれはビジネスとしての話で、出版社も僕の小説がこの世から消えてなくなるのをよしとしてるわけではない。いいものを出したという自負もあるだろう。細々とでも世の中に残るのは、出版社としてもいいことだと思ってくれている。在庫が資産として課税対象になるのが問題なだけだ。
こちらとしても自作が自由に出版(というか印刷・製本)できるのは嬉しい。
そこで考えた。自費出版第1作は何にしたらいいだろう。すぐに答えが出た。それはもちろん、求める読者が多い作品がいいに決まっている。となれば、それは『世界でいちばん美しい』をおいてほかにはない。
この小説は2022年にミュージカルとして舞台化された。主人公の二人を当時Impactorsとしてジャニーズ事務所に所属していたスターの卵がつとめた。演出は菅野こうめいさん、音楽はかみむら周平さんという、素晴らしい才能に恵まれ、さして大きくはない劇場だったが、連日満席の好評を得た。
ところがこの舞台が決まっても増刷はされなかった。売り上げが期待できないと考えたようだが、これは判断ミスだったと思う。当時の時点で間違いなく売れていたし、その後の主演者たちの活躍を見ればなおのことだ。彼らはこの舞台の直後にメンバー全員で事務所を退所し、「IMP.」としてデビューし、今や目覚ましい活躍をしている。
このことに僕はずっと忸怩たる思いでいた。『世界でいちばん美しい』は自作のうちでも思い入れの大きいものだし、僕がただ一度獲得できた文学賞の対象作品でもある。IMP.のファンの中にも、読みたいと言ってくださる方が何人かいた。
これを出そう。
しかし、やっぱり怖かった。そこで今朝、ツイッター(現X)にこんなことを呟いてみた。
「#IMP の「よこつば」のお二人が主演してくれた舞台の原作『世界でいちばん美しい』を、自分で出版して、自分で「あとがき」を書いて、出そうと計画しています。(と、公言しないと実行しなさそうなのでここに書いておく) 少なくとも初版は僕の自筆サインを入れます(ご希望であれば)。」
前述の通り、今日はあちこちに出歩かなければならなかったので、これだけ呟いておいて殆ど放置していた。
帰宅して見ると、多くのリアクションが来ていた。買ってくれるとリアクションしてくれた方もいた。そういう声に甘えてはいけないけれど、やはり嬉しかった。僕は上梓を決めた。
データがあるのだから、あとはこれを印刷屋さんに送るだけでもある。もちろん表紙は作らなければならないし、呟いたように「あとがき」も書かなければならない。簡単な作業だ。
しかし言うは易く行うは難しで、右から左へ印刷に回してハイ発売、というわけにはいかない。500ページの小説だ。印刷代だってばかにならない。版型はどうする。レイアウトはどうする。表紙はどうする。販路はどうする。・・・考えなきゃいけない事は、まだまだ山積みなのである。
と、考えながら書いていたら、今日の疲れがどっと出てきた。ここまでにします。おやすみなさい。