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私はマンションの13階に住んでいる。
リモートワーク中心なので普段は部屋にずっといるし、仕事中は音声通話で会話するので外の音が入らないように窓も閉めている。換気の際も網戸は開けない。

にもかかわらず、数日前、部屋に蚊が入ってきた。

蚊は通常そんな高さまで飛べないので侵入経路が全くの謎だが、何かのタイミングでエレベーターに乗ってきたり上昇気流に飛ばされてきたりしたのかもしれない。

いずれにせよ、引っ越してきて初めて部屋に虫が入ってきた。だから「ここにも蚊が来るんだ」と思ってちょっと感動した。

ちょっと感動したあとは普通に腹が立ってきた。
目の前をぶんぶん飛び回ってストレスだし、いつの間にか刺されてて腕や首がかゆい。はやくどっかに行ってほしい。窓を開けて逃がしたいがどこにいるか分からなくなるので誘導ができない。ずっと開けておくのも嫌だ。

とりあえず放置してその日は寝た。

次の日。見かけなくなったので何かの拍子に換気扇などから逃げたのかと思ったが、仕事をしているとまた目の前に現れた。邪魔だ。

そして今日。蚊はまだいる。まあそりゃそうだ、ドアも窓も開けてないんだから逃げるわけがない。このまま彼はここで餓死するのかもしれない。いや、彼じゃないな。血を吸うのはメスだと聞いたことがあるから彼女だ。メスの蚊が産卵のためにタンパク質を血液から吸収しているらしい。

ということは、彼女は母親…?
私は母親の自由を奪っている……?

そう思うと気が引けてきた。こういう時ふと、もしこれが人間だったら、などと考えてしまう。妊娠を控えた母親が我が子のために食事に出かけ、そこで閉じ込められて帰ってこられなくなったとしたら。私はなんとも罪深いことをしているということになる。

もちろんそんなことを考えること自体人間のエゴだ。蚊は感情も思想もなく反射だけで生きているだろうから、人間とは前提条件がまるで違う。ただ、一人暮らしを始めたばかりの私にとって母親というのは偉大な存在である(もちろん父も)。

どうかこのまま元気に…

待て、元気に生きていてほしいわけがない。
貯水がないから大丈夫だと思うが、下手したら卵を産み付けられてボウフラが育ち蚊が大量発生する。命は尊いがそれはあくまで道徳上の話で、実際蚊がそんだけ湧いたら遠慮なく殺すだろう。蚊がたくさんいて許せるわけがない。

ということで、俺の不要な善意が残っているうちに出てきてほしい。

窓を開けてあげるから。

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