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レイプカルチャーとは一体……?

こんにちは、あるいはこんばんは。わすれなぐさです。
前回の記事、意外と読んでいただけたようで、書いた甲斐があったなぁと大変嬉しく思っています。

さて、日々流れてくるツイートに、衝撃的な単語が紛れていました。今回のタイトル、「レイプカルチャー」です。はっきり言って意味が分かりませんでした。レイプでカルチャー?レイプのカルチャー?言葉が持つ印象が強すぎてさっぱりイメージがつきません。

しかも、大きな議論を巻き起こしているにも関わらず、使っている人達の意図するところがころころと変わり、初心者の私にはさっぱり分かりません。これは調べなければ話についていけないぞ、ということで今回は「レイプカルチャー」について調べていきます。
今回の記事はその性格上、強い言葉が多数使われています。気分が悪くなるようでしたら無理をなさらないようにお願いします。

なお、前回と同じく「○○カルチャー」という単語ですが、たまたま流れてきただけでそれで揃えたというわけではありません。専門用語ってほんと複雑怪奇です。

1. レイプカルチャーとは?

まずはWikipediaから言葉の意味を引いてみます。

「レイプカルチャー」とは、性的暴力が普通のことと考えられていて、レイプ「しない」よう教えられるのではなく、レイプ「されない」よう教えられる文化のことである。1970年代にフェミニストが初めて用いたとされる。ここでいう「レイプ」「性暴力」は「強姦」だけでなく、「同意されたわけでも拒否されたわけでもなく」「双方がそれぞれの望みをよくわかっていない」グレーな性的関係や、「ナンパ」などの声掛けも含まれる。

Wikipedia 「性的対象化」ページ、「レイプカルチャー論」項より

これだけ読むと、そこまでおかしいことが書いてある気はしません。"性的暴力が普通のこと"という文には引っ掛かりを覚えますが、性的被害を受けないように自衛をしましょう、という話なのかな、と読めます。しかし、これに以下の様に続きます。

同意のない強姦があったとき、加害者よりも被害者の落ち度(服装や対応など)に注目され、予防に焦点があてられる。加害者には責任が一切なく、女性をモノ扱いして、レイプを防ぐ責任を負うよう求めている。

Wikipedia 「性的対象化」ページ、「レイプカルチャー論」項より

レイプされる側にレイプを防ぐ責任を求める、つまり「レイプはされる方が悪い」ということですね。いじめでもしばしば似たような主張を聞きますが、随分乱暴な話だと思います。

2. レイプカルチャーの実例、被害者へのバッシング

以下はアメリカで起きた、レイプ被害者へ多くの批判が集まってしまった事例です。

2012年1月8日深夜、ミズーリ州に住む14歳の少女が、酔って意識を失った後、メアリービル高校のフットボール選手にレイプされたとされている。
2012年8月12日深夜、ウェストバージニア州に住む16歳の少女が、酔って意識を失った後、スチューベンビル高校のフットボール選手2人にレイプされた。

どちらの事件も、全米メディアの注目を集めたものの、有罪判決が下されたのはスチューベンビルの事件だけだった。メアリービルの事件では、被害者のデイジー・コールマンが自分の名前を出すことに決めた。2人の少女は両方とも、(a)酒に酔い、(b)自分が属しているわけではない、緊密な地域社会に住む少年を訴えた(コールマンは事件の直前にメアリービルに越してきた。スチューベンビルの少女は違う州に住んでいた)。そして、2人の少女の事件が特によく似ていたのは、彼女たちに対する社会の扱いだった。

どちらの事件でも、直後に、少年の友人たちがソーシャルメディアで被害者を侮辱した。彼らの話が全米に広まると、少女たちへの敵意は強まる一方となり、加害者とされる少年よりも、どういう点で少女たちのほうが悪かったかということに注目が集まった。

BuzzFeedNews2017年11月13日記事より

方や有罪、方や無罪となった類似する2つの事件ですが、判決の背景には状況の違いと各高校の属する州(ミズーリ州とオハイオ州)の州法の差があります。また、その後に再審が行われたものの、証拠不十分で微罪のみとなったなど、追求すべき点は多くありますが、割愛します。今回の話で重要なのは、被害者がどのような扱いを受けたのか、です。

これらの事件では、被害者の情報がソーシャルメディア上で拡散されてしまいました。メアリービル高校の事件では被害者が名前を公開しました。スチューベンビル高校の事件では被害者の写真が加害者達のツイッター上で回覧され、あまつさえ被害者を嘲笑った12分に渡る動画までがネット上に投稿されました。これらを受けて出来上がった「被害者像」に、人々からの批判が集まることになってしまったのです。

3. なぜ被害者に批判が集まるのか

多くの人は、犯罪はいつでも起こりうるものであり、危険から身を守るために自衛をすることは当然と考えています。そして、「こうすれば被害に合わなかったのに。」と勝手気ままに批判します。多くの男性に囲まれるパーティに参加した、夜中に男友達の家に女2人だけで遊びに行った、飲酒・泥酔してしまった。分かりやすく大きな過失に、「擁護しきれない。」と世論が傾いてしまいました。そして彼女らを侮辱する声もありました。「普段からそんなことを繰り返していたビッチに違いない。」「そうなると分かっていて行ったんだろう。」「危険を想像できなかった愚かな女。」「いっそ同意だったのでは?」

自らを守ることをしなかったという自己責任論、転じて身を守るためにはかくあらねばならないという社会通俗的な規範。これらが、「レイプされる側に責任がある」と彼女達を追い詰めました。

4. 社会構造への批判とレイプカルチャー

私達は実感しにくいですが、海外では日本ほど治安が良くありません。昼日中であっても女性が街を歩けば卑猥な言葉をかけられ、ヤジを飛ばされる。夜中に出歩くなんてとんでもない、そんな地域が当たり前に存在するのです。つまり、「レイプが起きてもおかしくない」地域です。そしてそれは、「レイプが起きるのは当たり前である。」という風潮を助長している。
「レイプは当たり前に起こることであり、被害が発生しても責任は自らを守れない被害者自身にある。」そんな風潮こそが「レイプカルチャー」であるとし、そのような社会はおかしいと多くの人が批判しました。

また、被害者に責任があるということは、加害者に責任がないということです。それは、レイプの否認・隠蔽を引き起こしました。レイプの責任が受ける側にあるのであれば、被害を受ける恐れがある状況に身をおくことはレイプを許容しており、同意があったとみなして差し支えない。つまりそれはレイプではない、という論です。無茶な理屈だと思いますが、それが罷り通る風潮は確かにあったのです。

5. 性的被害の軽視と歪んだ「男らしさ」

ここまでは、意図的にジェンダーの問題を極力省いてあります。レイプ被害と被害者に責任を求めるという風潮は、性別に関わらず起き得るからです。しかし、ここからはジェンダーの問題と関わらずにはいられなくなります。

先程の例で、加害者が自ら被害者の情報を自慢気に吹聴して回っていました。なぜそんなことをするのでしょうか。それは、彼らはそれがカッコいいと思っているからです。

強靱さ、逞しさ、勇敢さ、いわゆる「男らしさ」は美徳ではありますが、方向性を間違えればそれは攻撃性に変わります。自らを「男らしく」鍛えるのではなく、弱者を攻撃し優位に立つことに歪んだ「男らしさ」を感じるのです。そして特に女性に対し攻撃性を発揮し、結果を自慢げにトロフィーの様に掲げていく。性的加害を軽視し、むしろ誇っていくような風潮、これもまた「レイプカルチャー」である、と主張されます。

6. 範囲の拡大

この様に、レイプカルチャーは是正されねばならない大きな社会問題です。多くの人々が問題の解決を図る中、いつしか被害者側の意識に変化が起き始めました。

フェミニストの文筆家ローリー・ペニー氏はインデペンデンス紙にレイプカルチャーについて以下のように寄稿しています。日本語訳かつ要約文ですがご容赦ください。

私たちは文化として、ほとんどのレイプが、普通の男性によって行われていることをまだ認めようとしない。つまり、友人や家族がいて、場合によっては、人生において偉業や立派な行いをしてきた男性たちのことだ。感じのいい男性がレイプすること、それも何度もレイプすることを認めようとしない。その理由は、一つには、じっくり考えるとつらいからだ。邪悪な男性だけがレイプする。暴力的で、精神的に異常な男性だけが、パントマイムの悪役のような口ひげを生やしてナイフ片手に路地に潜んでいる、と信じ続けるほうが、普通の男性がレイプすると考えるよりも、はるかに楽だ。友人や同僚、尊敬している男性が、レイプするかもしれないとは考えたくないのだ。

BuzzFeedNews2017年11月13日記事より

「レイプが起きるのは当たり前」の世界であるから、女性は常にレイプの危険に晒されている。また、男性は女性を虐げ誇る攻撃性を秘めているから、女性はいつ被害に遭うかわからない。しかし、男性達は日常にレイプが潜んでいることを認めようとしない。レイプは「異常な男性」だけが起こすものだと主張し、「普通の男性」はレイプなどしないと自らを安心させるために女性の主張を認めようとしない。「普通の男性」にレイプされるかもしれないという女性の切実な恐怖は、決して社会に認められない。

このように、「普通の男性」を強く恐れ、あるいは憎む女性が現れたのです。そしてこの価値観は、日常の中のあらゆる場所に性的被害を起こし得る可能性を見出します。

電車で向かいに座った男性がじっとこちらを見てきた。あれは自分に性的な興奮を覚えているに違いない。
街を歩く時、男性が後ろからぴったり離れず着いてきた。あれはレイプを狙っていたに違いない。

7. フィクションの性誘発性

そして、男性は常に性的暴力性を秘めており、女性に危害を加える機会を伺っていますから、男性が表現する女性には歪んだ欲望が表現されます。また、作品中で女性を性的に扱うことで、男性は加虐性を満足させ、女性に対し精神的に優位に立ちます。女性は男性の満足のための踏み台にされ、材料にされ、消費されるのです。

男性の欲望が表現されたフィクションが目に入ることは、男性に恐怖と憎悪を覚える女性には許容し難く、またそれらは性的興奮を誘発するものですから、男性が見れば性的被害のトリガーとなり、子供が見れば歪んだ性の価値観を植え付ける有害なものです。

故に、彼女達はフィクションの表現に制限を求めますし、フィクションが目に入らないようにゾーニングすべき、と訴えます。

8. 日常に溢れるもの

これまで確認してきたように、彼女達にとって日常には性的被害の片鱗が溢れています。これらを目にした時、彼女達は強い拒否感を覚えます。あまりに多くの刺激に晒され続けて、彼女達は疲弊していまいました。自分達がこんなに恐れているのに、こんなに訴えているのにいつまでたっても声が聞き入れられることはない。彼女達は強い怒りと諦めを募らせることになります。

そして、彼女達は思うのです。
「こんな表現を許しているのはレイプをしていることと変わりがない。」
「世の中はレイプを肯定している。世の中にはレイプが溢れている。」

恐怖と憎悪と諦観を抱えた彼女達には、自らの感情を訴えることしか残されていません。いかに論理的に説得されようとも、それは彼女達の気持ちを癒やしてはくれません。
そして彼女達は主張します。
「世の中の至るところにレイプが溢れている、これらの表現を肯定する社会はレイプを肯定している。これは、レイプカルチャーだ。」

9. 性被害の矮小化

ここまで至れば、世の中のあらゆるものが性被害に直結し、あらゆるものをレイプとして認識し、主張することになります。また、過去の異性との交流の失敗も、あれはレイプだったに違いない、となります。

しかし、そうなった時に問題となるのは、性被害の矮小化です。つまり、重度の被害が埋もれてしまうということです。狼少年を例に上げるわけではありませんが、あれもこれもレイプだと叫んでいれば、深刻な被害を受けた被害者までが軽く扱われかねません。あまりにこれを強く訴えることは、女性の権利を自ら侵害する恐れがあります。

10. レイプカルチャーの定義

さて、ここまでを踏まえれば、レイプカルチャーという概念は多くの意味を含んでいることが分かったことと思います。それらを整理するため、大きく3つ定義します。

「1,レイプが起きるのは避け得ないことであり、レイプ被害の責任は被害者のみにある。行き過ぎた自己責任論と社会規範からの乖離への批判からくる、被害者に責任を求める風潮」
「2,性的被害を軽視し、むしろ誇るような事柄であるとする風潮」
「3,世の中には性的被害が溢れており、また社会がそれを肯定しているという風潮」

11. 最後に

レイプカルチャーという単語は大変に複雑で多くの意味を持ちます。各人がどの意味を込めて用いているかがはっきりしませんし、更に言えばその根拠も千差万別です。
この言葉に限りませんが、便利な言葉を使うことは、多くの気持ちを取り零します。伝えたい気持ちが伝わらないことで、新たなすれ違いが発生することも少なくありません。
言葉に頼りきりにならず、気持ちを伝える努力をしたいですね。

前回に続き、今回の定義も私が納得できる、私にとっての定義です。皆様に正しさを強要するものではありませんし、また誤りがあればご指摘いただきたいです。
最後までご覧いただきありがとうございました。

12. 余談

前回キャンセルカルチャーの定義を再確認したこともあり、SNSの持つ攻撃性が大きな問題であると感じるようになりました。何気ない感想でも、数が集まれば攻撃になってしまう、ここに多くの哀しみの原因があると考えています。そのため、SNSの持つ、数を集めやすい、いわゆるバズりやすいという性質を使って、炎上発生するのと同じように、ポジティブな気持ちを集めて届ける仕組みが作れないかなと考えています。

つきましては、TwitterAPIに詳しい方がいらっしゃったらお声がけいただきたいです。初心者ゆえ序盤で躓いてしまったのです。取得したmentionにユーザー情報がないのはなぜ……?ツイートIDからツイート取得ってどうするの……?(小声)
素人には難しすぎました、まる。


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