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AIがなんでも翻訳してくれるいま、わたしは英語の勉強を始めた

まじめに英語の勉強をしたのは、大学受験のときが最後だ。あれから20年以上がすぎ、Google翻訳やDeepLが英語に限らずなんでも翻訳してくれる時代になった。いまになってわたしは、英語を勉強し始めている。

22歳ごろのブログに、わたしはこんなことを書いている。

私は、別に語学なんてどうでもいいと思っている。日本語を使わない人たちとコミュニケーションを取りたければ、その言語に堪能な人を介せばいいと思っている。なんでも自分でやらなくたっていいじゃないか。他言語の習得に力と時間を使うよりも、母国語でちゃんとした考えを構築する能力を磨いた方がいいのじゃないか。

そしてその3年後に、こんなことも書いている。

私は大学生のころ、英語は外注すればいいものだと考えていた。外国人と商談するような機会があっても、通訳を頼めばいい。海外の文献なんかはエキサイト翻訳でも使って読めばいい。そう考えていたので、英語の授業を受けなくなってからは、まったく英語に触れてこなかった。
そして、いま、その選択を後悔している。英語は外注するべきではなかったのだ。英語能力は現代のビジネスの世界で生きようとするならば、自前で用意するべき能力なのだ。

2009年は「エキサイト翻訳」が主流だったのかという隔世の感はさておき、25歳のわたしの文章からは『花束みたいな恋をした』で自己啓発的ビジネス書を読む麦くんのようなところが見えてもどかしい。

先の2つの引用の中にストレートな真実はないが、「母国語でちゃんとした考えを構築する能力を磨いた方がいい」ことは間違いなく、結果的にわたしはそれを続けることで現在地にいるように思う。

結局わたしは一度も英語を習得できなかった。仕事で英語を使う機会は何度かあったが、それは契約書の読解であったり、プレスリリースの翻訳であったりして、英語を使いこなすまでには至らなかった。

先日、海外企業と仕事をする機会があった。クライアント企業の日本法人の方はもちろん英語がよく使えるし、わたしの同僚にも英語のできる人がいて、業務上はそれほど問題ないと感じていた。こちらも丸腰ではなく、Zoom会議のときは文字起こしアプリを使って視覚化しながら聞いていたし、テキストであればGoogle翻訳やDeepLをつかってやり取りする。周りの人や機械に頼りながら、仕事はなんとかなった(自己弁護気味の注釈をしておけば、この仕事について会社から英語スキルを求められたりはしておらず、職務的な問題はない)。

クライアント企業との大きめの仕事は、無事に一段落した。いい仕事ができたと思う。「英語ができなくても、周りにできる人がいれば、それで十分だな」という考え方はむしろ強化された。もっと「上」を目指すのであれば話は違ってくるだろうが、それより、「あいつは英語は喋れないけど、それ以外のところで役に立つから呼んでこよう」と思ってもらえるほうが性に合っている。

キャリアプラン的な観点、「それって将来なんの役に立つんですか」的な観点からは、わたしにとっては英語はやっぱり必要ない、いまのところは。
しかし、別の観点から、わたしは英語の勉強を始めた。

他の言語をつかうことや、他の言語圏・文化圏の人とコミュニケーションを取ることは、自分の思考におおいに影響を与えるということを理解したのだ。普段とは違うやり方で思考している、そういう感覚が強くあった。

特に感じたのは、ひとりで思考しているときに「 if 」があらわれる位置の変化だった。英語の if はあらわれるのが速い。日本語で思考していたときとは違う手順が強いられるように感じた。
あるいは、副詞などによる修飾表現のバリエーションも増えた。増えたというか、意識したことのない修飾語が選択されるようになった。

母語ではない言葉に一定期間ディープに触れることによって、自分の思考がこれほどドラマティックに変化するとは知らなかった。自分の思考がドラマティックに変化することがこれほど面白いことだとも思わなかった。

こうした感覚は、たとえば複式簿記を学んだりプログラミングを習得したときにも似たものを感じたことがある。変数を1ずつ増やしながら繰り返すFOR LOOP文を使えるようになったとき、世界の見え方はたしかに変わった。人工言語で起こることは、自然言語でも当然起こる。

別に、ビジネスの世界を生き抜きたいから英語を習得しようというわけではない(もちろん、前回のチームとまた仕事する機会があれば、英語で世間話などしてみたいと思うけれど)。

それより、自分の思考が変化するという可能性を楽しみたい。他言語はわたしをどう変化させるのだろう。変化したわたしが母語であらためて思考したとき、なにが変わっているのだろう。こんなに手軽で面白そうなことはなかなかない。

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