見出し画像

岸田首相に、気候変動対策に関する要求書を提出しました!

2021年12月3日
首相官邸
内閣総理大臣 岸田文雄首相

Fridays For Future Japan マイノリティから考える気候正義プロジェクト


Fridays For Futureの若者から新政権に対する
気候変動対策に関する要求書


第二次岸田政権発足を受けて

先日の衆議院選挙の結果、自民党が議席の過半数を獲得し、第二次岸田政権が発足しました。そして、国連気候変動枠組条約締結会議、COP26での岸田首相のスピーチが化石賞を受賞しました。気候変動対策を議論する国際的な場で、「ゼロエミッション火力発電」を用いていくということを表明したのですから、世界中から批判されるのは当然です。

加えて、私たちが懸念しているのは、アジアでの破壊的な開発が加速されるのではないかということです。岸田首相は、アジアを「世界の経済成長のエンジン」として、脱炭素化していくと述べました。しかし、日本によるアジアの開発は、日本企業の利益を最優先し、住民の生活や環境を顧みないものでした。そのような開発のあり方をそのままに、表面上だけ「脱炭素化」しても、全く無意味です。

グローバル・サウス(途上国と呼ばれる南の国々やそこに住む人々)は、二酸化炭素をほとんど排出していないにも関わらず、既に気候変動の被害を受けています。一方、日本は二酸化炭素排出量が世界5位です。二酸化炭素を減らす新しい技術を議論する前に、まず過剰な生産をやめ、排出量を減らすべきです。日本の排出量が削減されることで、グローバル・サウスの国々への気候変動の被害を少しでも減らすことができます。そして同時に、アジアでの破壊的な開発によって、現地住民を抑圧し、さらなる二酸化炭素を排出することをやめるべきです。

私たちは、新政権に以下の事項を求めます。2021年12月22日までにご回答ください。


要求①:「8時間労働で生活できる賃金」までの賃上げ

一つ目の要求は、最低賃金を「8時間労働で生活できる賃金」まで引き上げることです。これは、労働時間を短縮するためです。労働時間の短縮が、労働問題の解決だけでなく、二酸化炭素排出量の削減にも繋がります。

この提言は、今年のメーデーに私たちが労働者と連帯して行った「自販機ストライキ」の実践に基づいています。このストライキでは、自販機の台数を減らし、自販機に飲料を補充するルートドライバーの労働環境を改善するとともに、自販機産業の環境負荷を減らすことを求めました。

自販機産業ユニオンで闘っているあるルートドライバーは、多い月では、1か月に200時間を超える残業をしていました。さらに、月給に100時間分の残業代があらかじめ含みこまれており、過労死ラインである80時間の残業をしても、実質的に残業代は支払われないという、違法な労働環境です(1)。彼らは、早い日では朝5時頃に出勤し、1日に30台ほどの自販機を巡回して飲料を補充します。休憩時間はほとんどありません。殺人的な労働環境と言っていいと思います。

また、24時間利用可能な大量の自動販売機は、多くの電力を必要とし、非常に大きな環境負荷をもたらしています。「エコな自販機」を謳っていればいいわけではありません。
電力だけでなく、自販機自体の製造・廃棄、飲料の製造、輸送、廃棄の段階で、多くの二酸化炭素や資源を必要とします。

こうした問題は自販機産業だけのものではありません。例えば、コンビニでは、1店舗当たり年間465万円分の食品ロスが出ているそうです(2)。低賃金で、長時間働かなければならない従業員もいる中、一人の年収分にも相当し得る額の食糧が、ただ捨てられているのです。こうした大量の仕入れは、各店舗が本社から強要されているケースがあると言われています。

日本の食品ロスは、国連世界食糧計画による世界の食糧援助量の1.5倍に当たると言われています(3)。大量に輸入・製造し、大量に捨てているのです。世界の食品ロスによって排出される二酸化炭素は全体の8%です。また、トラックでの輸送を含む自動車による排出量は全体の10%です(4)

気候変動の責任と影響は、すべての人が同じというわけではありません。多くの責任が私たちグローバル・ノース(先進国と呼ばれる北の国々とそこに暮らす人々)にあり、そして真っ先に被害を受けるのはグローバル・サウスです。G20だけで、全体の80%を占める二酸化炭素を排出しています。世界の最も豊かな1%の富裕層の排出量は、最も貧しい50%の人々の倍以上です。世界で5番目に二酸化炭素を排出する日本での無駄な二酸化炭素排出量の削減が、気候変動を止めるためには必要不可欠なのです。

企業の経済成長を目指す中で、もう一方では、長時間労働、過労死という矛盾が引き起こされます。精神疾患に係る労災の申請件数は、毎年増え続け、令和元年には2000件を超えました。過重労働による脳・心臓疾患に係る労災の申請件数は年間800~900件に上ります(5)。統計には表れませんが、そもそも申請できない人や、申請しても認められず、今も闘っている過労死遺族の方もたくさんいます。日本の過重な労働に苦しめられている人は、もっとたくさんいるはずです。

企業の利益のため、大量に商品を製造し、売れるだけ売ったらあとは全部捨てるというやり方が、無駄な資源やエネルギーを消費し、労働者に対しても長時間労働を要求しています。経済成長は、もはや環境と労働者を破壊する方向でしか目指すことができません。企業利益のための大量生産と大量消費、そのための長時間労働と環境破壊が起こっています。

日本は、一人当たりの自販機台数が世界一です。こんなにたくさんの自動販売機が本当に必要でしょうか。たくさんの自販機を稼働させるために電力と資源を無駄にし、月200時間もの残業を強いられる、そんなものが本当に豊かな社会ですか?環境と労働者を守るためには、労働時間の短縮が必要不可欠です。

要求②:バングラデシュ・マタバリ石炭火力発電事業の速やかな中止

二つ目の要求は、日本のODAによってバングラデシュに建設されているマタバリ石炭火力発電事業の中止です。この発電事業は、JICAが「ODA」として融資し、SDGsを掲げる住友商事などの日本企業が受注しています。石炭を運搬するための港の建設を含むこの事業の費用は約5000億円であり、過去最大規模の「国際貢献」です。

この石炭火力発電所で、既に2万人以上の人々が生活のための産業を奪われています。工事の影響で水流が塞がれ、洪水が起き、通学中の子どもたちが亡くなってしまったという事件も起きています。このように、すでに気候変動の影響を大きく受けている国に石炭火力発電所をつくり、そこに住んでいる人々の暮らしや環境を破壊することが日本の「国際貢献」です。この事業について、日本のメディアはほとんど報道しておらず、被害の実態について、日本国内では全く知られていません。
詳細は、私たち気候正義プロジェクトとFridays For Future Bangladeshが合同で提出した住友商事とJICAへの公開要求書に記載されておりますので、そちらをご覧ください。
https://note.com/fffjapancjfm0518/n/ne44ce436442d

私たちは、10月、マタバリ石炭火力発電事業に抗議する学校ストライキを行い、住友商事とJICAへ事業の撤退を求める要求書を提出しました。JICAは、ガイドラインを守って事業を進めていると言っていました。しかし、JICAは自分たちのガイドラインさえ守っていません。バングラデシュでは、ダッカ高等裁判所が、発電所に伴う道路建設のための河川の埋め立てを差し止める判決を出しています。これは、「JICAが相手国及び当該地方の政府等が定めた環境や地域社会に関する法令や基準等を遵守していることを確認」するというJICAのガイドラインの要件に反しています。JICAが自分たちのガイドラインを守るのならば、マタバリ石炭火力発電事業への資金協力は停止すべきです。

また、住友商事の担当者は、既に契約をしているので、マタバリ石炭火力発電事業は継続すると言っていました。住友商事は、新規の石炭火力発電所を作らないと宣言していますが、マタバリ石炭火力発電事業は既に契約をしているので例外だそうです。私たちは、バングラデシュの環境や命と住友商事の契約、どちらが大事なのかと聞きましたが、担当者は契約があるので事業は継続しますと言い続けました。住友商事は、環境や命より契約を大切にしているということでしょうか。

9月にFFFBangladeshと私たちが合同で住友商事に提出した要求書の返答には、水質モニタリング、及び河川への土砂流入・堆積への対策を講じているということ、近辺の村への食糧寄付、幼稚園のリノベーション、周辺道路の補修、雇用創出などに取り組んでいることなどが書いてありました。ですが、これらは彼らが環境を破壊していい理由にはなりません。

また、現地で行われている環境アセスメントが、排出される水銀やPM2.5を考慮しておらず、不十分であるということが研究機関から指摘されています(6)。これは現地で発電所を建設している企業のプロジェクトディレクターも認めています(7)。十分なアセスメントや環境配慮がなされているとは言い難い状況です。

さらに、JICAのドル建て債券発行時に、「調達資金を石炭火力発電事業に充てることはない」と説明したにもかかわらず、これらの資金がこのマタバリ石炭火力発電事業や、インドネシアに建設中のインドラマユ石炭火力発電事業の資金と一括で管理されていることに対し、世界の5つの環境団体が異議申し立てをしています(8)

では、なぜここまでして、日本企業と政府がバングラデシュに石炭火力発電所を建設しているのか。これは、バングラデシュの人々の電力需要を満たす目的ではなく、日本企業の経済成長を目的としているからだと考えられます。

マタバリ石炭火力発電事業は、「ベンガル湾産業成長地帯構想(BIG-B構想)」に含まれる事業の一つです。首都ダッカから、バングラデシュ最大の港湾都市チョットグラム(旧チッタゴン)、ミャンマー国境付近に位置する南部マタバリまでを結ぶ約400キロメートルを産業集積地とする開発構想に沿って、外資にとって魅力的なインフラ整備が計画されています。大型貨物船が出入りできる港湾や、日本企業向けの経済特区を建設し、経済の拡大に伴う電力需要に応えるために、マタバリ石炭事業が進められることになったのです。これらインフラ建設の受注を担当するのは、多くが日本企業です(9)

日本経済が停滞する中で経済成長を追及するためには、これまで以上に世界市場に乗り出し、かつインフラ関連の市場を獲得することが、日本企業にとって重要になっています。つまり、バングラデシュの人々の生活向上のために発電所を建設するということではなく、日本企業が経済活動をするための経済特区をつくるために、石炭火力発電所を建設しているのです。日本の経済成長のために、ましてや「国際貢献」という名目でバングラデシュを抑圧することは許されません。COPでの岸田首相のスピーチでの「経済成長のエンジンであるアジア」という言葉からも、このようなアジアへの視線が感じ取れます。

このように、日本は自国の経済成長のために、アジアの人々や環境を破壊しています。グローバル・ノースとサウスを分断し、サウスを抑圧する差別、レイシズムによって、日本企業は利益を上げているのです。マタバリ石炭火力発電所は日本の環境基準を満たしておらず、日本の新規石炭火力発電所21倍の二酸化硫黄、10倍の致死性粒子を排出する計画です。住友商事とJICAは、どうして日本には建設できないほどの汚染を引き起こす発電所を、バングラデシュに建設しているのですか?このような人種差別に基づいた環境破壊を、「環境レイシズム」と言います。日本企業による環境レイシズムは、戦後から現在に至るまで連鎖し、今も行われています。日本国内だけの排出量削減を宣言しても、全く不十分なのです。日本企業の加害行為を止め、グローバル・ノースとサウスが連帯することでしか、気候危機というグローバルな問題は解決することができないのです。

先進国のリーダーたちがCOPで空虚な議論をしている間にも、体を張って石炭火力発電所と闘い、パイプライン建設に反対し、森林伐採を止めさせているのはグローバル・サウスの活動家たちです。彼らは、環境問題に対して声を上げただけで逮捕されたり殺されたりする危険があるにもかかわらず、闘っています。気候変動と闘う最前線は、COPではなく、グローバル・サウスの社会運動なのです。それと連帯せずに気候変動を止めるのは不可能です。どんな議論よりもまず先に、彼らに対する加害行為を止めるべきです。今すぐにマタバリ石炭火力発電事業を中止してください。

要求③:ODAの円借款を含むグローバル・サウスに対する債務の帳消し

三つ目の要求は、ODAの円借款を含むグローバル・サウスに対する債務の帳消しです。今回のマタバリ石炭火力発電事業のような、グローバル・サウスを破壊するODA事業は戦後から行われ続け、そうした事業を受注することよって日本企業の輸出は促進され、直接的に利益を得て、著しい経済成長、「豊かな」生活を実現させました。特に高度経済成長期頃までは、部品や資材などの調達先を日本企業に限定することが多く、日本経済を成長させるための安定的な市場になったのです。一方で、事業開始までのプロセスは不透明であり、中心となるのは政府、事前調査を行うのはコンサルタント会社と商社で、援助受け入れ国の住民は基本的に決定権を持ちません。普通、援助と言ったら現地住民のニーズに合わせて行われるべきですが、現地住民の都合は全く考慮されず、日本企業と政府の利害で援助が決定されるのです。「国際貢献」であるはずのODAが、グローバル・サウスを犠牲にして日本を発展させるという役割を果たしたのです。

90年代、新しい融資以上に利息の支払いが必要になり、そのためにどんどん債務は増え、生産的な投資や、貧困対策のためでなく、ただグローバル・ノースに利息を払うためにさらなる融資を受けるようになりました。債務の返済をさせるための世界銀行やIMFの政策によって、グローバル・サウスの保健医療、教育、社会保障など、中でも女性や子ども、貧困者にとって必要なサービスへの政府の歳出が削減されました。グローバル・サウスが「途上国」と呼ばれているのは、決して私たちグローバル・ノースと無関係ではないのです。

ODAだけでなくあらゆる側面で、先進国は、途上国から搾取・収奪することによって、豊かさを実現しています。1年間で、1億8200万時間の労働と100億トンの資源が途上国から高所得国に流れていると言われています。グローバル・サウスで採掘される資源、グローバル・サウスで生産される安い商品、そしてグローバル・サウスからの移民労働による恩恵を受けているのはグローバル・ノースです。私たちの生活はもはや、レアメタルを用いた電化製品や、海外製の安い商品、コンビニや工場で働く外国人の存在無くして成り立ちません。そして、奪うだけではなく、同時に汚染や被害を押し付けてきました。グローバル・サウスの人々が気候変動の影響を受けやすいのは言うまでもなく、汚染物質や、ファストファッションの売れ残りなど、物理的な「ゴミ」さえも、グローバル・サウスに廃棄しています(10)。グローバル・ノースの国々が、自分たちの利益になるものだけ奪い、ゴミ箱のようにいらないものを押し付けることで、ノースとサウスの格差は生み出され、維持されています。

グローバル・サウスは貧しい国々で、ノースや世界銀行に多額の借金を負っているという印象を受けている方もいると思いますが、本当に負債を負っているのは私たち、グローバル・ノースなのです。これは世界的には「気候債務」と呼ばれています。この「気候債務」を返していくためには、ノースの過剰な生産と消費をスケールダウンするだけでは足りません。グローバル・サウスに対する債務を取り消し、彼らが必要な社会保障やインフラを整えたり、気候変動による災害に対処する資金を確保すべきです。日本政府が、本当に気候変動に取り組み、アジアや世界を率いていこうと考えているならば、まずは日本国内の過剰な生産と過重労働を止め、そして今行っているグローバル・サウスへの加害行為を直ちに止めるとともに、ODAの円借款を含む債務を帳消しにすべきです。


気候変動を「人間活動の影響」として、人類全体に同じ責任がある問題として捉えるのはあまりに乱暴です。格差や差別との闘いを通さずに、気候変動問題を解決することはできません。私たちはこれからも、グローバル・サウス、労働者、女性、貧困者、若者など、あらゆるマイノリティと連帯し、人権侵害と闘い続けます。

(1) https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20190103-00109987
(2)https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2020/sep/200902_1.html
(3) https://www.env.go.jp/press/106665.html
https://cdn.wfp.org/wfp.org/publications/2017_ann_rep_japanese.pdf?_ga=2.7652722.1100594994.1638270263-50798286.1638270263
(4) https://www.wri.org/insights/whats-food-loss-and-waste-got-do-climate-change-lot-actually
(5) https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/karoushi/20/index.html
(6) https://energyandcleanair.org/wp/wp-content/uploads/2020/09/Chattogram-coal-power-cluster.pdf
(7) https://www.thedailystar.net/news/bangladesh/news/matarbari-coal-fired-plants-nature-sacrificed-power-2231656
(8) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN2404B0U1A121C2000000/
(9) https://www.jica.go.jp/investor/bond/ku57pq00000r13n2-att/20150708_03.pdf
(10) https://www.bbc.com/japanese/video-58839356

こちらの要求書について、記者会見の様子をYouTubeにアップしました!ぜひご覧ください!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?