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訴えは届くのか。_衆議院環境省委員会(2021年4月23日)にFFFJが出席vol.1

みなさん、こんにちは。
Fridays For Future Kagoshima/Japanのすずかです。
今回から数回に分けて、衆議院環境省委員会の出席とその裏話について、レポートしていこうと思います。
第1回目の今日は、「私たちがどんなことを訴えたのか」についてです。

「忙しくて、概要だけ知りたいんです!」という方は下の記事をどうぞ。

【どこに出席したの?】

現在国会にて開かれている、衆議院環境委員会の「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」の参考人として、そして、若者の一人として、Fridays For Future KagoshimaとJapanでオーガナイザーをしている私、中村涼夏(19歳)が出席しました。

実際の様子は下の動画から、字幕付きで見ることができます!(近日配信予定)

全体の質疑などは国会中継のYoutubeから見ることができます!

さて、私たちFFFJapanはどんな内容を訴えたのか、スピーチの全文を載せておきます。

【衆議院環境委員会でのFFF参考人スピーチ】

 早急な気候変動対策を求める若者の運動、Fridays For Future KagoshimaとJapanでオーガナイザーをしています。鹿児島大学2年の中村涼夏です。
 今回は参考人として、2030年NDC発表の翌日というタイミングにこのような機会をいただけたこと、感謝いたします。
 私が環境問題を感じるときはいつでも、「当たり前を失うこと」に気づくときです。
 鹿児島県の指宿市で生まれ、一時期、種子島にも住んでいた私は、保育園帰りに母とエメラルドグリーン色の海に通うことが日課でした。
 しかし親の転勤で名古屋に引っ越し、海を見たとき、信じられませんでした。そこには、鼻をつくような匂いと、黒く海底の見えない、工場が建ち並ぶ下に広がる海があったのです。私が知っている「当たり前」の海ではありませんでした。人の手でここまで自然環境を変えてしまうことができることを、身をもって実感したのです。そのような体験もあり、高校2年生から生物多様性保全に関わりましたが、当時は気候変動に対し、生物多様性の一つの問題に過ぎないと過小評価していました。
 しかし、2019年高校3年生の夏、スウェーデンの少女、グレタの言葉「あなたたち大人は『子供たちを愛している』といいながら、その目の前で子供たちの未来を奪っているのです」や「私たちの家が燃えている」を聞き、私たちの「当たり前に」存在するはずの未来は、気候変動によって脅かされていることを知りました。
 そしてこの気候変動という恐怖は、決して私たちの意見ではなく、科学者の声であり、現在実際に起こっている事実なのです。

 - 気候変動は科学の声であり、
早急に取り組むべき問題 -

 NASAは世界平均気温が19世紀後半からすでに1.2度以上上昇したと報告しています(※1)。
地球温暖化が現在の速度で進行すると、早ければ2030年に気温が1.5℃に達する可能性が高いと、IPCCは警鐘をならしています(※2)。気候危機から国民を守るためには1.5度目標に整合する対策を実行することが政府の責務です。
 これを果たすためには、国内の温室効果ガス排出を2030年までに2013年比で62%削減する必要があるとClimate Action Trackerは報告しています。これまで二酸化炭素を排出してきた歴史的経緯を考慮すると、それ以上の削減が求められます(※3)。地球温暖化や気候変動は、その被害の大きさから気候危機として認識され、取り組まなければならない問題です。国連は地球温暖化が、生きる権利や食料、水、住宅、市民権や参政権などあらゆる人権に影響を及ぼす可能性があると発表しています。
 昨日、菅首相から2030年温室効果ガス削減目標(通称NDC)を2013年比46%にするとの発表がありました。私はこの数値を聞いたとき、皆さん方大人に「あなたたちの命と未来はいらない」と宣告されたように感じました。絶望しました。このNDC46%という目標は、気候危機から国民の命を守るという責任を放棄したように思います。結局は海外からの圧力と内部の既得権益のみによって決められてしまったのです。
 「若者の声を積極的に聞き入れたい」。そんな表面だけの口約束はもう充分です。

- 気候正義に基づいた政策を -

 このような状況を踏まえて、私たちは皆、気候正義という考えを大切にしなければいけません。この正義とは、「悪」に対する「正義」ではなく、英語の「ジャスティス」や、「公正・フェアな状態」を表す概念です。「正義」の対義語は「不正義」です。世界の温室効果ガス排出量は日本を含む最も裕福な10%の国々が49%を排出し、最も貧しい50%の国々はたったの10%しか排出していません(※4)。世界はいま不正義に溢れかえっています。

- 気候変動による影響と気候正義が
蔑ろにされている社会 -

 日本のCO2を一人あたり18分の1しか排出していないバングラデシュでは、1900万人以上の子供が(※5)気候変動によって命の危険に晒されています。そうした海面上昇や洪水、干ばつなどが深刻化する地域に、住み続ける事が出来なくなってしまった「気候変動難民」も、今後数百万人単位(※6)で増え続けます。国連によると、その中でも、世界全体で気候変動により移動を余儀なくされた人々の80%が女性だった(※7)と報告されました。またアメリカなどでは人種的なマイノリティが、特に大気汚染の深刻な地域に追いやられるという構造が起きています。これは日本が環境基準の低い国々に、低効率の石炭火力発電を設置し、現地の大気汚染・住民の健康被害を悪化させていることと通底しています。
 世界で5番目に多くCO2を排出している日本(※8)が、先に述べたような気候変動難民の増加に寄与していることは自明です。日本はこうした理由で住処を放逐された人々を保護する責任があるにもかかわらず、彼らを送還するようなしくみづくりがされています(※9)。気候危機は、最近改正された入管法など、関連がないように思える問題にも大きく関わっているのです。
 気候危機はすでに日本を襲っています。2018年のグローバル気候リスク指標で、台風や熱波などの災害から最も影響を受けた国として、日本が挙げられました。これ、日本が既に気候危機の渦中にあることを表しています。
 それを裏付けるかのごとく、2019年の台風19号は、死者90名、住居の全半壊や浸水は合わせて74,000件を超える甚大な被害をもたらしました(※10)。また、この被害の数字の奥には、その人に関わる家族や友人、大切な人々が存在するのです。私たちが気候変動対策を早急に行うのは、すべての人の平等な人権を保障し、すべての生き物の平等な命を犠牲にしないためだということを、決して忘れてはなりません。
 そして気候危機は日本国内においても、至る所の不正義を顕在化させてきました。
みなさんは2019年の台風19号の際、3名のホームレスの方々が避難所への受入を拒否された(※11)ことをご存じでしょうか。これは、災害時に、社会的に排除されてきた人々が差別を受ける構造を浮き彫りにしました。。
また防災の観点も、災害に強い住居、災害保険や防災グッズの用意ができるのも、経済力があることが前提です。
 また、気候危機は既にあるジェンダー格差を更に拡げてしまいます。たとえば女性は災害時、家事などで他人の世話を強いられることが少なくありません。
 そして、気候危機の時代を生き抜くのは、紛れもなく私たち将来世代です。私たちにはすでにコロナ対策で発行された国債がのしかかっているにも関わらず、今後増え続ける気候災害の経済損失も被ります。少子化対策が必要だと言われますが、そんな経済や気候変動の状況の中で子どもを産みたいと思う人はどれほどいるでしょうか。皆さんの年金を払う将来世代が生きられないかもしれない世界を作り出しています。
 しかしこうした格差は、国政の場にも蔓延っています。

- 反映すべきは、市民の声と倫理的観点 -

 中でもエネルギー政策に関する審議会では偏った人選の委員により、一面的な判断が行われていることに不信感を抱かざるを得ません。中でも委員は高齢の方が多く、将来世代である私たち若者の視点を持つためには、非合理的です。
 私たちが求めているのは、格差構造に蔓延る不正義を認識し、それを正すような政策です。そのためには若者だけでなく、気候変動の被害を受けやすい人々など、多様な層からの意見を受けることが必要です。世界でも日本でも、気候市民会議が行われ、公的でなくてもそういった事例はいくつもあります(※12)。意見箱の設置やパブリックコメントなど、形式的な制度ではなく、ステークホルダーに知識を与え、そのうえで公正な形で意見を反映させる制度が必要です。気候変動政策という複雑で、多くの側面を持つ問題は、一部の人の意見ではなく、対話を重視した議論(※13)によって作られるべきです。
 これは、国や地方における議員の皆さんの真剣な議論と対策を、広く国民に伝え、新たな視点を得ることだけでなく、政策を正しく評価し、さらに国民の意識を高めるための鍵となります。
 現在のエネルギー政策は火力や原子力、実用的でない技術に依存しています。それらは大気や海洋、環境の汚染など様々な問題をはらみ、地域や世代などの格差構造に深く依存しています。
 しかし、審議会では倫理的観点を「単なる感情論」として拒絶し議論をするあまり、現地の環境汚染や将来世代に果てしのないツケを残してしまっています。アメリカの環境正義を専門とした部署の設置や化石燃料産業からの「公正な移行」への積極的投資など、各国のグリーン・ニューディール政策からも見てとれるように、気候変動対策において倫理観の重みは増しています。こうした倫理的観点を受け止め重んじることは、日本が気候リーダーシップをとり、世界を牽引するうえでも欠かせないものとなります。
 世界の気候変動対策に大きな遅れをとるいまの日本において、大きな変化をもたらすために果たすべき重要な役割があります。それは、民主的な政策決定プロセスを再構築し、カーボンニュートラル達成に向けたビジョンを市民とともに描くことで、国民の求める未来像を作り出すことです。倫理的、経済的、科学的にも整合性のあるNDCや再エネ導入目標をバックキャストで策定することによって、エネルギー政策及び気候変動対策の議論をより前進させることができます。
 これは、私たちの目指す、格差からの逃避という「静かな暴力」も、気候危機もない社会への大きな一歩です。

- 気候危機解決のための法改正を -

 こうした未来のために、温暖化対策推進法の果たす役割は、非常に大きいと考えています。そのうえで、温暖化対策推進法改正案に対する私たちの問題意識を主に4点、述べさせてただきます。
 1点目は、2050年までの脱炭素社会実現を目標ではなく、基本理念に位置づけたにもかかわらず、NDCが46%と明らかにこの改正案に整合性のある数字ではないことです。首相官邸主導だからといって、省庁横断的な取り組みがなされていないことは、これからの脱炭素化に暗雲がさします。
 2点目は計画の再評価と見直しの必要性が述べられていないことです。改訂案では計画の制定や事業の推進を進めていますが、これが再評価・見直しされていなければ、目まぐるしく変わる社会情景や科学の進歩、気候危機に対応した計画にはなりえません。現に、計画の見直しをする予定がないと言っている自治体は少なくありません。こうした計画的手法にも、再評価し見直すシステムを温暖化対策推進法の中で位置付けるべきです。
 3点目は、現在の改正案では、自治体の協議会にて「市町村が必要とするもののみが参加できる」としていることです。しかし、私たちに影響する問題だからこそ、私たちができる限り政策決定に関わるべきなのです。その点から、先ほど述べた、国の審議会の問題解決案と同様に、ステークホルダーに知識を与え、そのうえで公正な形で意見を反映させることが、この法案で必要です。基本理念に「地球温暖化対策の推進の主体として、国民が先頭に掲げられる」としているならなおさらでしょう。
 4点目は事業計画の認定と円滑化と題した、関係法令のワンストップサービス化によって、適切で科学的な評価がなくなり、気候変動の解決以前に、人や生物、環境に悪影響を及ぼす可能性が十分に高まっている点です。保全区域の設定だけでなく、現在ある国立公園やその他地域の生物多様性の観点から、適正な評価、また設置する地域の市民の理解と安全の確保、将来世代を見据えた再生可能エネルギーの設置が必要です。果たしてこれを法として自治体任せにすべきでしょうか。気候変動を解決する手段で、見えない誰か、生物に対し、格差構造からなる静かな暴力を振ることは決して許されません。

- 最後に -

 気候危機は見えづらい格差に立ち向かう問題です。頭では分かっていても緊急性を実感することはなかなか難しいかもしれません。
 だからこそ私たちの想像力が必要です。今までの社会システムを疑い想像力を働かせるためには、当事者の声が不可欠です。
 社会的弱者や静かな暴力の被害になっている人々の声を聞き、市民を巻き込んだ政治を行うことで解決策の第一歩になります。1.5度目標の実現は、皆さんを含む私たち全員にとって、大切な人と自分自身の命がかかっている問題、安定した年金がかかっている問題、人生設計を大きく揺るがす問題です。今ならまだ間に合います。
 気候危機も静かな暴力もない社会へ、一緒に変化になりましょう。

【引用文献】

※1 NASA (2021)「2020 Tied for Warmest Year on Record, NASA  Analysis Shows」 https://www.nasa.gov/press-release/2020-tied-for-warmest-year-on-record-nasa-analysis-shows (2021年4月22日閲覧)
※2  IPCC (2018)「Special Report: Global Warming of 1.5 C」https://www.ipcc.ch/sr15/ (2021年4月22日閲覧)
※3 Climate Action Tracker (2021)「日本の1.5度ベンチマーク〜2030年温暖化対策目標改定への示唆〜」https://climateactiontracker.org/documents/849/2021_03_CAT_1.5C-consistent_benchmarks_Japan_NDC-Translation.pdf (2021年4月22日閲覧)
※4 Oxfam (2015)「Extreme Carbon Inequality」 https://www-cdn.oxfam.org/s3fs-public/file_attachments/mb-extreme-carbon-inequality-021215-en.pdf (2021年4月22日閲覧)
※5 UNICEF (2019)「Climate change threatens lives and futures of over 19 million children in Bangladesh」https://www.unicef.org/press-releases/climate-change-threatens-lives-and-futures-over-19-million-children-bangladesh (2021年4月22日閲覧)
※6 Reuters (2020)「気候変動による「環境難民」急増に備えを、国連機関が呼び掛け」 https://jp.reuters.com/article/davos-meeting-refugees-idJPKBN1ZK2MO (2021年4月22日閲覧)
※7  BBC (2018)「Climate change 'impacts women more than men'」 https://www.bbc.com/news/science-environment-43294221 (2021年4月22日閲覧)
※8 外務省 (2017)「二酸化炭素(CO2)排出量の多い国」 https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/ranking/co2.html (2021年4月22日閲覧)
※9 NHK (2021)「強制送還など可能 出入国管理法改正案に約4万人の反対署名提出」https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210414/k10012974681000.html?utm_int=news-new_contents_latest_001 (2021年4月22日閲覧)
※10 国土交通省 (2019)「令和元年台風第19号による被害等」https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/kikouhendou_suigai/1/pdf/02_siryou6.pdf (2021年4月22日閲覧)
※11 Japan Times (2019)「Tokyo local governments' treatment of homeless during Typhoon Hagibis raises concerns」https://www.japantimes.co.jp/news/2019/10/24/national/tokyo-homeless-typhoon-hagibis-concerns/ (2021年4月22日閲覧)
※12 日本若者協議会「日本版気候若者会会議2021」https://youthconference.jp/archives/3017/ (2021年4月22日閲覧)
※13 WWF(2020)「気候変動・エネルギー問題を議論する!高校生ワークショップを開催」 https://www.wwf.or.jp/activities/eventreport/4242.html (2021年4月22日閲覧)

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