雑記 3体のマネキン

 派遣の制服採寸のバイトに行った。今年から制服に変更があったらしく、男女別でなく3体のマネキンそれぞれが凛としてそれらに身を包んでいる。眩しかった。しかし問題は慌ただしくも全ての新入生の採寸が終わったあとに数人の教員と派遣で後片付けをしていたときに起こった。一人の男性教員が言う「これは男の仕事じゃない。女性に任せよう」。それは採寸用のメジャーを巻いてまとめるような細々とした仕事だった。かくしてその仕事はその場でまさにそれを聞いた私と他数人の“女性”に回ってきた。
 悔しかったのはその場で指摘できなかったことだ。新しい制服、新しい生徒を迎え入れる学校側が性役割分担を積極的に肯定してどうする、と。何故指摘できなかったのか。私の中に、私は派遣なのだから弁えなければいけない、と言葉にならずともその類が一瞬頭の中によぎってしまった、その隙にタイミングは去ってしまったのだ。気づけばただメジャーを淡々と巻き取るしかなくなっていた。何も言えなかった。口を閉ざすこと。それはこの社会で生きるうちにもはや身振り的になってしまった。いかに学びによって払拭しようとしても。
 制服が少し変わったくらいではジェンダー観など変わらない。ジェンダーなど分からぬままに制服だけが変わっていく。
 制服を剥ぎとられ運ばれていくマネキンたちは、ただ2体の女と1体の男でしかないのか?違う。それぞれの制服を選択した生徒たちがみな個として己のアイデンティティを育めるような学校生活を、社会を、派遣の私はそれでも願わずにいられないのだ。

よろしくお願いします。