Chapter 1-4 第三の火

原子力はしばしば,人類が手にした「第三の火」と形容される(「燃料の空気中での燃焼による第一の火,電熱線の発熱などによる第二の火に対して,核分裂による発熱をいう」『大辞泉』)。原発推進派も反対派も,プロメテウス神話を援用して持説を展開するのが常套となっている。核エネルギーの是非をプロメテウス神話に寄せて書いた本も多く,試みにいくつか例を挙げるなら,トーマス・スコーシアの『プロメテウス・クライシス―崩壊する巨大原子力発電所』,西村陽一『プロメテウスの墓場―ロシア軍と核のゆくえ』,朝永振一郎『プロメテウスの火 (始まりの本)』,『プロメテウスの罠―明かされなかった福島原発事故の真実』(朝日新聞特別報道部)*,原子炉の火をプロメテウスの盗んだ火と描いた高村薫『神の火』等々。

書物以外の例も挙げておくと,例えばプロメテウスにちなんで名づけられたプロメチウムという放射性元素がある。プロメチウムは基本的に天然には存在せず,人工的に初めて合成された元素で原子炉内部で生じたウランの核分裂生成物から得られる。またチェルノブイリ原発にはシンボルとしてプロメテウスの像がある。同原発が閉鎖されるに臨んで,ウクライナのクチマ大統領(当時)はそのプロメテウスの像に花束を捧げて火を止めることを報告した。
このように,原子力を第三の火とし,プロメテウスの火になぞらえる発想は広く定着している。人類は核エネルギーという「第三の火」を灯したのだ。

魔晄エネルギーとはもちろん核エネルギーの隠喩〈メタファー〉である**。新世代エネルギーとして生活を支えてくれるが,催奇性を有するなどいった性質の一致はもちろん,魔晄に関する用語は原子力のそれからきている。たとえば,ゴンガガの壊れた魔晄炉は“メルトダウン魔晄炉”となっていた(言うまでもなくメルトダウンとは原子炉の炉心溶融事故のことである)。また『ファイナルファンタジー7 インターナショナル・メモリアルアルバム』(デジキューブ)において、魔晄炉は“Reactor”と表記されていたが“reactor”は「原子炉」という意味だ。そしてメテオ破壊に使われたヒュージマテリア(原子炉でできるプロメチウムのように魔晄炉でできる)搭載型のロケットは,まさに核弾頭と同じアイディアであり,魔晄エネルギーは核エネルギーを暗示する。

主婦「魔晄エネルギーのおかげで生活がいろいろと便利になったわ。神羅さまさまよね。あなたも,そう思うでしょ?」
 →そうかもしれない (①)
  そんなことはない (②)

①主婦「そうでしょ! もう,魔晄エネルギーのない生活なんて考えられないわね」

②主婦「ふ~ん。でも、魔晄エネルギーのない生活なんて,私は考えられないわね」
娘 「魔晄エネルギーのおかげでいろいろと便利になったけど……でも,その
かわりに動物や植物がどんどんへっているような気がするわ。わたしは,
むかしの方がよかったんじゃないかと思うの。ね,そうよね?」

→そうかもしれない (①)
 そんなことはない (②)

①娘「そうでしょ? そう思うわよね。私は,動物とあそべたころの方がよかったと思うわ……」

②娘「お母さんとおなじことを言うのね。私は,動物とあそべたころの方がよかったと思うわ……」
 老人「神羅カンパニーが魔晄エネルギーを実用化してくれたおかげでわしらの生活も便利になったもんじゃ」

原子力発電所がそうであるように,FF7では旅の先々で魔晄炉の是非について語られる。



注釈
*この論考は1997年~1999年にかけて書かれたものだが,ここに挙げている福島関連書2冊とあと一箇所(ケット・シーのネーミングの箇所)は後から付け足したものである。

**太古の動植物の遺骸が地下で変化して生成してできた燃料で枯渇の危機にあるという点で,魔晄エネルギーは化石燃料の要素も持っている。

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