Chapter 2-4 現代のバベルの塔,魔晄都市ミットガル

北欧神話の他にも,Chapter 1でも見てきたようギリシャ神話やキリスト教神学がFF7の背骨となっている。スクウェアのプロモーションによれば,『ゼノギアス』(FF7の翌年に発売されたRPG)はFF7から分化したもので元々は一つであったという。

当時打たれたゼノギアスの販促*文を引用する(太字引用者)。

ゼノギアス,それは裏FFⅦかも知れない。

FFⅥのプロジェクト終了後,グラフィックの高橋哲哉は,FFⅦのための世界観として,ある壮大な設定をあたためていた。それはFFⅥで登場したあの「魔導アーマー」の設定をさらに推し進めた『巨大ロボットが跋扈する機械文明』である。しかしそれは,FF独特のファンタジー性に富んだ世界観からあまりにも逸脱するものだった。(中略)それは,FFでもクロノでも聖剣でもなく,新規タイトルでしか許されない世界観。葛藤があった。実績のあるタイトルの続編に比べ,リスクは大きい。(中略)紆余曲折を経ながらも「projectX=Xenogears」は始動する。元々FFに,として発想されていた機械文明の設定。その一部はFFⅦでは「神羅」に,ゼノギアスでは「神聖ソラリス帝国」に昇華していった。また主人公設定にも,多重人格性などの共通項が見出される。全く異なる肌ざわりのふたつの作品を,比べてみてほしい。FFⅦとゼノギアスは,表と裏の関係にあるのだ。

それは,世界観の表と裏。

FF7とゼノギアスは元々ひとつであった。それが「ゼノギアス,それは裏FFⅦかも知れない」というキャッチコピーにも表れているのだが,そのゼノギアスは神学的要素がとても強い(というか神学そのものを扱った)作品だった。となれば双子の兄弟であるFF7が神学をモチーフとしていることは当然といえば当然で,実はほとんど意識されないがFF7の世界観を(見えないところで)支配しているのは神学上のテーゼである

例えば魔晄都市ミッドガルの中心に聳〈そび〉え立つ神羅ビル。これは現代のバベルの塔に他ならない。

バベルの塔の物語は,旧約聖書「創世記」11章に見られる挿話である。

ノアの大洪水後,人々が築き始めた天に達するような高塔。神はこれを人間の自己神格化傲慢として憎み,人々の言葉を混乱させ,その工事を中止させたという。(旧約聖書創世記11章)(『広辞苑』)
現代の聖書解釈はバベルの塔を,神とひとしくなろうとする人間の欲望と傲慢の象徴ととらえている。(Microsoft Encarta Reference Library)

前章で見たように「神羅」というネーミングは,神を模す「人間の自己神格化」を表しているのであった。神を模す者たちの本拠地として,魔晄都市の中心,超高層の神羅ビルほど相応しいものはない。

ブーゲンハーゲン「ホーホーホウ。いかんな,ナナキ。せのびしてはいかん。せのびをするといつかは身をほろぼす。天にとどけ,星をもつかめとばかりにつくられた魔晄都市。あれを見たのであろう? あれが悪い見本じゃ。上ばかり見ていて自分の身のほどを忘れておる。この星が死ぬときになってやっと気づくのじゃ。自分が何も知らないことにな。

神の怒りに触れ,バベルの塔はついに完成することはなかった。ミッドガルにも建設途中の個所があり未完成である。この「未完成である」という設定は偶然ではない。これは(バベルの塔の暗示以外に)本来何の意味もない設定なはずであり,バベルの塔の伝承に沿うようわざわざそういう背景にしてあるのである
バベルのごときこのビルは,物語の終盤主〈あるじ〉(ルーファウス神羅)とともに破壊されることを免れない

先ほどFF7とゼノギアスは双子の兄弟だと言ったが,実は一卵性双生児の一方であるゼノギアスには「バベルタワー」という塔が,作中重要な役割を帯びて登場している。しかも聖書物語でバベルの塔を建てさせたのはニムロド王だが,ゼノギアスにもニムロドという帝国が出てくる。
ゼノギアスにはこれだけ明確にバベルの塔が表現されているのだ。そして一卵性双生児のFF7は同じ遺伝子をもっている……そう,魔晄都市ミッドガルは現代のバベルの塔なのだ。

FF7を読み解く鍵
魔晄都市ミットガルは傲慢の象徴,現代のバベルの塔である

「創世記」11章4節に見られる「天まで届く塔のある町」を,(密かに)再現しているのが神羅ビルを擁する魔晄都市ミッドガルなのである。


ⅩⅥ THE TOWER

タロットカードの「塔(タワー)」のカードの図案は,バベルの塔に由来するという。

画像1

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傲慢の象徴である王冠の部分に神の怒りを表す雷撃が直撃している。
詳細は次章に譲るが,ここでは「」事になっていることと,落下する二人の人物が,神羅ビルの二人の所有者,プレジデント神羅とその息子のルーファウス神羅に重なることを指摘しておく。赤いマントの男はルーファウスである。ルーファウス神羅のRufusとはラテン語で「赤」を意味するのであった(Chapter 1-5 光(ひかり)参照)。

ちなみにPresidentを並べ替えるとEden strip(エデンの血統)のアナグラムが得られるのであった。原罪を引くアダムとイブの血統である(Chapter 1-2 原罪とりんご,参照)。



注釈
*魔晄中毒で廃人同様になってしまったクラウドが「百億の 鏡のかけら 小さな灯火 とらわれた 天使の歌声 ゼノギアス」とつぶやくシーンがある。

補遺
バベルの塔に似た神話は,ザンビア,ロジ族のカムヌの神話にも見られる。

転地分離の神話には,天と地の,そしてまた,神と人間との緊張をはらんだ関係が表現されている。天は神の領域,地は人間の領域。両者が近づき過ぎるのは,人間にとっては災いのもとである。(中略)創造神ニャンベは,最初の人間カムヌとその妻を創ったが,カムヌは神のすることを片端からまね,さらには野獣をうまく狩るようにさえなった。神は不安を覚えて,カムヌの目の届かない所へ身を隠したが,カムヌはすぐに探し当ててはつきまとった。神がついに天に逃れると,カムヌは高い塔を作って天に昇ろうとしたが,塔が崩れて失敗した(ザンビア,ロジ族)。(『世界神話事典』角川書店)

この他にもギリシャ神話の,天へ近づこうとして墜死するイカロスやベレロフォンも天上への試みの話である。特に人工の技で以て天に近づこうとしたイカロスは重要である。

ベレロフォンは慢心から破滅した。ベレロフォンはペガソスにのって天上までかけのぼり,神々の仲間入りをしようとこころみて,ペガソスにふりおとされたのだ。ベレロフォンは神々の憎しみをかい,気がふれて野山をさまよいあるいたという(Microsoft Encarta Reference Library)

次章で説明するギリシャ神話のファエトンなどもこの類いである。

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