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香港の逃亡犯条例撤廃とこれから

 9月4日ついに今年の大規模デモの発端となった逃亡犯条例が完全撤回された。香港の人たちの努力、粘り強さの賜物であり、同時に香港と人生の一時でも関われた者として嬉しく、誇りに思う。一方で懸念は消えない。当初は香港政府に向けての抗議活動であったが、途中からは業を煮やした中国共産党が前面に出ており、抗議の対象も次第に中国共産党へと移行しているからである。共産党は面子を潰すことを良しとしない。今回の決定も10月1日の国慶節を見据えた懐柔案に思えてならない。
 香港は元々経済都市である。彼らのスタンスは長い間“政治には口出ししないから経済活動は自由にやらせてくれ”であった。そして、ここが世代間で一番大きな隔たりを生じさせている箇所であると考えている。上の世代(40代以上)は今ある経済活動の自由がなくなってしまうことを一番に恐れており、政治活動や表現の自由、人権といった事柄にはあまり関心が強くない。これは彼らにとって香港はあくまで永住の土地ではなく、何かあれば出ていく土地、若しくは中国へ帰るまでの土地との認識があったからであろう。しかしながら30代以下の若い世代は異なる。彼らはここに生まれ育ち、香港は紛れもなく“故郷”の土地となっている。アイデンティティはもはや中国でなくて香港にあり、政治も含めた自由、自己決定が大切であると考えている。つまり、今回の条例撤廃によって、ある層はデモ反対へと回ってしまう恐れがあるのだ。すでにデモや空港封鎖で香港の経済は大打撃を受けており、世界一上がった不動産はこの2ヶ月で業界株価が40%以上も急落している。上の世代はこの状況を見てそろそろ正常な経済活動を行わせてくれ、学生たちはもう黙ってくれとの意見が出てしまうのではないだろうか。そしてそれが中国共産党の狙いではないだろうか。
 一方学生たちを含め若い世代は香港に住み続け、故郷である香港を自分達の手で運営していくことを念頭に置いて今回の抗議活動を行っている。目の前の利益だけでなく、今後世界から香港がどのように見られるのか、どのように発展していけるのか、そこをゴールとした場合、ここまでこじれてしまい中国共産党も出てきた今、逃亡犯条例撤廃で引き下がる訳にはいかないだろう。
 香港の強みはどのような信条や政治観の人をも排除せず、お金の価値観を中心としておおらかに、なんでも無問題で受け入れつつアジアの真ん中に存在してきたことにあった。とにかく生きやすく、自分の存在がまるごと肯定されるようなアイデンティティの安心感に包まれた空間でもあった。しかし、今はどうなのだろうか。今回の一連の活動を経て、香港はどのように変わっていくのだろうか。日本から眺めていると、香港すごいな、ひとつの区切りだな、と感じてしまうが、本当に難しい舵取りはこれからである。

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