見出し画像

初夏


海とは

「楽しいもの」
「美しいもの」
「力強いもの」

そう思っていた


小学生ぶりに海に行った
夜の海だった

人気はなく
なにより真っ先に恐怖を感じた

恐怖は時間が経つ事に増し
波音は自然の怖さを私に知らしめた

静かな夜の海は
10年前に故郷を襲った 大津波の記憶を蘇らせた

今、目の前で動く波は
10年前私の故郷を襲った波なのだ
今、足元まで歩み寄ってきた波は
10年前 無慈悲に故郷を変えた波なのだ

言葉では言い表せない虚しさが募った

私が今見ている海は
この先何人の人の命を奪うのだろうか
こんなにも美しく見える波は
この先どのくらい冷酷な殺人鬼になりうるのか

天国という名の地獄への出迎えのように感じ
恐怖で震えが止まらなかった

空には1面の星空が広がっていた

星空を見るのは何年ぶりだろうか

数え切れないほどの星は
津波で命を落とした人の姿なのではないか

いつもであれば素直に見惚れるはずの星空が
この日はなんだかとても儚いものに感じた


海の感じ方が変わってしまっていたことに気づいた

梅雨が明け
夏のはじまり

静寂な波と多くの星に導かれ

大震災の記憶に思いを馳せた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?