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功罪と分断

7月8日(金)に元首相の安倍晋三氏が参院選の遊説で訪れていた奈良県で凶弾に撃たれ亡くなった。襲撃される映像が何度も繰り返しテレビやインターネットで流れてきて気が滅入っている。安倍晋三氏のこれまでの功績に思いを馳せ、心よりご冥福をお祈りする。

誰もが言っていることなのだが、勿論このような蛮行は誰に対しても許されることではない。それに加え、元総理の演説中に暴力で言論を封殺させようとすることは民主主義への挑戦である。

各国の首脳から弔電が寄せられていたり、経済界からも安倍晋三氏への賞賛、感謝の言葉が多く寄せられているのをみて、幅広く支持された日本の首相だったんだなぁと今更ながら思った。私は今まで彼の功罪で言うなら罪に注目していた。そして功績にはあまり目を向けようとしなかったことは狭い考えだったと反省するような今回の惨事だった。

しかしながら安倍氏の死後、参議院選投票日前日にも関わらず各メディアは安倍氏の功績を報じ続けていることには疑問を呈したい。

例えば、安倍内閣が肝入りで推し進めた経済政策「アベノミクス」という超異次元的な金融緩和政策がある。安倍内閣の大いなる功績であり、日本の景気を良くしたとされる。ただし円安・株高だけをみて熱狂している声にかき消されているが、量的緩和政策の弊害や2%の物価目標を達成するため、日銀は年間60兆から80兆円もの国債を買い続けた。結果は、今に見られる金利差による大幅な円安や資源の供給不足からなるコストプッシュ型のインフレであり賃金上昇を伴う消費が活発となる景気の好循環のインフレからは程遠いものとなっている。

森友学園の国有地払い下げ及び財務省の公文書改竄での対応や加計学園の問題そして桜を見る会での政治資金などの汚職疑惑は、「こんなこともありましたね。」というような触れるだけの紹介に留まっている。何も問題の無かった内閣などはないのかもしれないが、長期政権の弊害として安倍氏には常に様々な疑惑がつきまとっていた。安倍内閣の閣僚も政治とカネに関わる問題で何人にも辞職していった。中でも法を司る法務大臣の河井克行氏が巨額の票買収で逮捕されるという前代未聞の不祥事や経産大臣を務めた菅原一秀氏のこれまた票集めのための公選法違反など在任中に6人が辞職したことはしっかりと記憶しておきたい。それ以外にも黒川検事長の任期延長問題やなどとにかく官邸主導という名の権力の私物化・腐敗と言われても仕方がないことが多かった。そのような中でも安倍総理は自らリードして細かく疑惑に対して説明責任を果たそうとする姿勢は全く感じられなかったことは語られない。

"地球儀を俯瞰した外交"は確かに歴代総理の中でも秀でるものがあったと思う。日米関係は深化したし東アジアでの日本の存在感やリーダーシップをしっかりと示せていたという意見も多い。クアッドの創設などはまさに未来を見据えた外交だったと思う。
ただし全てがうまくいった訳でもなくて、相変わらずロシアとの北方領土問題は2島返還という妥協案も叶わず何も進展はしなかったし、韓国や中国との関係はむしろ悪化したように思う。謝罪ばかりを求められ続けて、前の大戦の反省から目を背けてしまった国民には物言う政治家として強く支持されたが、その中には民族差別やジェンダー差別などのヘイトスピーチを公然に口にするような極右ナショナリズム団体なども含まれている。安倍氏はそんな彼らとの関わりを絶とうとせず寧ろ支持者として上手く利用していたことはあまり語られない。

日本のメンタリティとして死んでしまった人の批判というのは憚られる。それも今回のように理不尽に非業の死を遂げたような場合は特にである。ただし、安倍氏の功績が大きなものであるからこそ、どこかの自民党の女性議員みたいに「永遠の光になった安倍元総理」なんていう近くの独裁国家みたいなこと言っていないで冷静に粛々と功罪を振り返るべきだ。

あの蛮行によって思考停止状態で安倍元総理は偉大だったと言って礼賛していたら言論の自由は死んでいくと思ったり思わなかったりする今回の事件だった。

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