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 昔、ボールペンといえば、インク溜まりができる、書いてからしばらく経っても、紙面を擦るとインクがダマになっているところから彗星の尻尾のようにインクが広がり紙面が汚れるなどということがあった。万年筆愛用家の中にはボールペンが苦手だという人が多い。
 ボールペンと聞けば何種類か頭の中に浮かぶが、その中の1本にBICがある。発売されたのが1950年というから、もう74年選手ということになる。オレンジ色の胴軸に、インクと同色のビニールっぽいキャップ。多分に漏れず、このBICもインク溜まりができたり、筆記が安定していなかったからか、私はあまり使ったことがなかった。
 私の日常はほとんどが万年筆で、時にボールペンを使う程度で、BICの存在は心の奥底に沈んでいた。ところがあるとき、BICの、あのオレンジ軸が廃番になったという話を聞き知った。廃番という言葉の響きに心が動き、数十年振りに青色インクのBICを買った。
 私、このオレンジ色が好きだなあ。濃い山吹色。この色を見ていると何故か元気が出てくる。BICとの再会に少々興奮。
 BICの油性のインクは万年筆のようにサラサラというわけにはいかない。しかし、なんだろう、この書き味も捨て難いじゃないかと思えた。郷愁、懐かしさかもしれない。インク溜まりはそれほどでもなく、あまり気にならない。改良されたのか、私の感覚が歳を重ねて鈍感になってきたのか。おそらく、この両方だろう。

 なにしろ、絶版品だ。もう入手できなくなる。
 オレンジ色のBIC。青色、黒色、赤色のインクの3種類のBICが机上のペン立てに挿してある。世の中から完全に消えてしまう前に、もう1本、買っておこうかなと思っている。
 いや、1本では済まない気もしている。

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