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ギルバートグレイプ

あらすじ
アイオワ州にある小さな町に住む青年ギルバートは夫が自殺してから過食になり、極度に肥満してしまい家から一歩も出なくなった母親ボニーと姉エミーと妹エレン、そして重い知的障害を持つ弟アーニーとの生活を支える為に町にある小さな食料品で働いていた
ある日旅行中にトレーラーハウスが故障し町にしばらく留まることになった女性ベッキーとギルバートは出会う 
町から出た事がない、出る事が出来なかったギルバートにとって自立心が強いベッキーは未知の存在のようだったが少しずつ交流を通してお互いを知ることになる
弟のアーニーが街の貯水槽に登った事により警察に連行され留置所に入れられたのを知った母ボニーはギルバート達と共に7年ぶりに家を出て警察署に向かう そこで肥満した身体を好奇の目で見られてショックを受けるボニー
ベッキーのトレーラーハウスの修理が終わり町を出ていく日が近付いてくる中、自身の誕生日ケーキを食べてしまったアーニーにギルバートは手をあげてしまうのだった

(物語の重要な箇所と結末に触れています)
悲劇と喜劇が巧みに混じり合ったこの映画の中にある閉塞感 生きていて何かしらの重荷、十字架を背負って生きている人にとって、我が事のように思える映画ではないかと思いますし、重荷や十字架をほんの少しだけでも下ろす事が出来るきっかけにもなり得るのがこのギルバートグレイプだとも思うのです

ギルバートは父親が何も告げずに家の地下室で自殺した事によって、彼はこの家から逃れられなくなっていました 子供達を愛してはいるけれど親としての役割を完全に放棄した母親、しっかりしてそうに見えるが頼りない姉、まだ幼かった妹や弟を置いてこの家を出る事はギルバートにとって選択の余地はなく、家に留まり家族の世話をするしかありませんでした ギルバートの兄である長男は独立してる事が映画の冒頭で触れられていましたが、この長男の存在が映画の中で詳しく語られる事は一切なく、長男が全ての責任をギルバートに押し付けて家族と距離を置いた事が伺えます

当初ギルバートの表情から生気を感じなかったのは彼が一家の大黒柱を自ら選んだ訳でもなく、だけど自分の望む人生を諦めざるを得ない状況に心を殺すしかなかった事を良く表していて、人妻ベティとの不倫関係に受け身なのも充分理解できる所
そんなギルバートの目の前に現れたベッキー 彼女はギルバートを批判せずありのままの彼を受け止めます ベッキーは心の赴くままに生きようとしている女性であり、ギルバートは彼女を羨ましく思いながら惹かれていき、ベッキーも彼に惹かれていきますが、ベッキーも過去に自身の両親の離婚で苦しみ、そんな彼女だったからこそギルバートの事を理解し、ギルバートも今まで重荷を背負いながら生きてきたからこそ、ベッキーと出会いお互い惹かれあう事が出来た

ギルバートは徐々に自分の感情を出していきます それはずっと内に秘めた怒りであり悲しみであり、我慢強く面倒見の良い自己犠牲的な息子であり弟であり兄である仮の姿からの解放だった
母親の死により父親の自殺した地下室の柱を怒りと共になぎ倒し家に火をつけて兄弟達と燃えさかる家を見つめるギルバート
それは自分の根底にあった父親からの呪縛からの解放であり、家族それぞれの自立のはじまりだった
弟アーニーも長く生きられないという医師の言葉の呪縛から解放されたように19歳を迎えて、ギルバートと共に町を出ていくラストは人生という悲劇と喜劇が表裏一体のドラマの連続においての希望に満ち溢れた素晴らしいラストだったと思います


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