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結婚後の苗字

好きな人の苗字とは心躍るものだ。

私は学生時代から根っからのオタクで、いわゆる夢女(キャラクターと恋愛する女)だったので、好きなキャラクターが出来ると自分の名前を相手の苗字にしょっちゅう当てはめては妄想していた。私は彼の妻であり彼が選んだ人であると言うことが誇らしかった。妄想だったが、それはそれは気分が昂揚したものだ。

今思えばその中には外国の苗字も、聞き覚えも、馴染みの全くない苗字もあった。
それでも次第に違和感は消える。

好きな人の苗字が、自分の苗字となり、それを名乗る機会がある。

こんなに幸せなことは他にない。

そう思って、生きてきた。


私には現在、結婚前提でお付き合いしている仲良しこよしな彼氏がいる。

どんな人かと言うと、真面目でウブで私にメロメロな優しい人。喧嘩をして(と言うか彼が怒った事は一度もない)いつも謝るのは彼の方。

遠距離の為、2年後こちらに戻ってくるタイミングで結婚をしようと約束している。だから事あるごとに、彼と結婚後の生活や結婚式や家族について、話す。


いざ結婚を考えた時、私は彼の苗字になる事に抵抗があった。
思いの外自分の苗字を気に入っていたのだ。柔らかな音そのままの印象の苗字だからだ。

かくいう彼の苗字は、主観的なイメージだが、どこか、固い。
私の地元では聞いた事がない、そもそも生まれてから芸能人でも聞いた事がない珍しい苗字だった。

自分の名前に当てはめた時に、それがしっくり来なかった。まるで別人の名前だった。
どこか別のクラスにいそうな、顔も分からない女の子の、そんな名前。

私は些細な不満も不安も何でも言うので、この事もちゃんと話した。

苗字が変わる事に違和感がある。

彼は話を聞いて、怒りも悲しみもせず、そっかぁ、と相槌を打った。

調べたら私みたいな人結構いるみたい、私が家を継ぎたいとか考えてる訳ではなく、苗字が変わることに抵抗があるの、と早口で言う。

私の話を聞いてる時、彼は黙って下を向いて、何か考えてる様子だった。良くやる彼のくせ。

ご両親から家を継ぐように、とか言われたりする?と聞いた時、うちにはそう言うの何もないよ、と言っていた。


それからしばらくして、次に会った時だったと思う。

彼がふいに、俺が苗字変えるのは?と言って、私の苗字と彼の名を当てはめた。

何度か呟いて、確認しているようだった。

私は心底驚いたし、彼のご両親に怒られるんじゃない?とも言った。彼は、私から見たら呑気に見える、あいかわらずゆるい口調で、大丈夫だよ、と言う。

大丈夫じゃない〜。そんなのご両親が良く思わないでしょ。仕事でも大変でしょ。と正論でまくし立てる。

今は抵抗あるけどそのうちきっと慣れるよ、と早口で慌ててなだめて、彼もそうなの?と相槌を打って、その話は終わった。

多分だがいつか慣れる。その時は来ると思う。それまでが辛いのだ。

ただ内心嬉しかった。
とても嬉しかった。

そこまで考えてくれてた事も、提案してくれる事も。

私の気持ちを優先してくれるところも。
そう言うところが好きなのだ。


#エッセイ #遠距離 #惚気 #日記 #自慢 #結婚後の苗字 #話し合い


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