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Fender LEAD 1・3のハムバッキングピックアップ
はじめに
2020年、オリジナルのLEADシリーズ発売開始が1979年ですので、年度で言えば40thのタイミングで復刻されたPlayer LEAD Seriesですが、搭載するピックアップについてはFender社Player Seriesに搭載されている既存のものを流用しています。
Player LEAD2にはPlayer Series Stratocaster Single-Coilピックアップというのが搭載されています。オリジナルに搭載されているX-1との相違ですが、外観的にはポールピースの面取りと、フラットポールピースではない(所謂スタッガードポールピースとは異なり、近年のPaul Reed Smithのギターピックアップのように3・4弦の部分を頂点に緩やかなアーチを描いている)点が挙げられます。その直流抵抗値は7kΩを超えており、そこそこパワフルですが、X-1と比較するとエグミというか下世話な賑やかさに欠ける気はします。
Player LEAD3にはPlayer Series Humbuckingピックアップというのが搭載されていて、外観的には所謂Gibsonタイプのラージハムバッカータイプ(カバーなし)ですが、オリジナルのLEAD1&3に搭載されていたハムバッキングピックアップ(以下LOHB:LEAD Original Humbuckerと呼称)の外観は非常に特徴的で、共通点を探すのが難しい次第です。
Fenderのハムバッキングピックアップの先輩に当たる Wide Range Humbucker(以下WRHB)が、生産終了後程なくして(内部構造はともかく)日本やメキシコで復刻され、ついには2020年に内部構造や使用するマグネットの種類(所謂CuNiFe)も含め完全復刻されたのに対し、おそらく今後も復刻されることはないであろうLOHBについて、本記事では触れたいと思います。
概要
Gibsonタイプのラージハムバッカー開発者であるSeth LoverがGibsonからfenderに移ったのは1967年頃らしいのですが、移籍後に開発したとされるのがWRHBで、1971年Telecaster Thinlineに搭載されたのを皮切りにTelecaster Custom、Telecaster Deluxe、Starcaster等に搭載されていきます。ただ、1970年代の終わり頃から1980年代初頭にかけてこれらのモデルは生産中止になっていくため、LOHBとはラインアップの中ではちょうど入れ替わることになります。
類似点
![画像10](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/45953438/picture_pc_6a62eeed02af4336ef2eeaabf481d3ed.jpg?width=1200)
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32394172/picture_pc_6b833b2ded216fbbf07037c1305f0f15.jpg?width=1200)
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32394204/picture_pc_a3b75220d08fc1d5946ce8663fbcecc8.jpg?width=1200)
WRHBとLOHBの類似点はその外形寸法の大きさで、Gibsonタイプより縦横とも10mm程大きく、ボビン自体の大きさはStratocasterのシングルコイル並であり、直流抵抗値も高め(WRHBは10kΩ程度、LOHBは13kΩ程度)です。
相違点
![画像6](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32395190/picture_pc_f0fc432e6f83e93144a47d0962bb72a7.jpg?width=1200)
異なる点ですが、WRHBはポールピースマグネット(所謂CuNiFe)なのに対し、LOHBはGibsonタイプと同構造で、ポールピース自体は鉄製でピックアップ底面にバーマグネットを配置しています。上の画像はLOHBの裏面で金属製のベースプレートがネジ止めされており、開けると中心にバーマグネット、その両側に磁性体(多分鉄製)のポールピースホルダーが見えます。
![画像10](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/49708904/picture_pc_e1cd05f3fff5c39dab7350ba8f403cf6.jpg?width=1200)
見やすいようにリード線を整理してみました。各リード線とコイルの関係は以下のとおりです。
・ネック側コイルホット:白/黒
・ネック側コイルコールド:黒
・ブリッジ側コイルホット:水色
・ブリッジ側コイルコールド:白/青
直列接続の場合、白/黒と白/青が結線されることにより、水色がホットで黒がコールドとなります。LEAD3では結線された白/黒と白/青をアースに落とすことによりフロントとリアのどちらにおいてもブリッジ側のボビンが生きる形のコイルタップ状態にすることが出来ます。
![画像11](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/49709531/picture_pc_bd5267f780ea439b1f884bda439c7458.jpg?width=1200)
ポールピースのアジャストについては、WRHBは2つのボビンでアジャストできるのはそれぞれ3本であるのに対し、LOHBは2つのボビンすべて(12本)がアジャスト可能です。
カバーについて言えば、WRHBはFender刻印入りのカバーがあるのに対し、LOHBは金属製のカバーこそありませんが、側面はプラスチックで覆われていてボビン上面は長方形で側面のカバーとの間に隙間がないためコイルのワイヤーは露出していません。
組み合わされる可変抵抗器(POT)やトーン回路用コンデンサの値については、WRHBはPOTが1MΩでコンデンサは0.022μF、LOHBはPOTが250kΩでコンデンサは0.05μF(LEADシリーズ共通)となります。数値的には、LOHBの方が高域を沢山アースに落として高域特性を悪化させる事になっていると言えます。要するにサイズ以外は外観も中身も別物と言うことになります。
背景
![画像4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32394362/picture_pc_99587694dd7c463499610aef7f327316.jpg)
LEAD1&2が発売された1979年当時、雑誌広告などに用いられたと思われる文章に書かれているセールスポイント(にしたかったであろう部分)は、「新しいボディ・ヘッド形状、高出力(スーパーホットロッド!)ピックアップと新しい回路、スイッチング機能、25 1/2インチネックと重いアッシュボディの組み合わせ(徒に重くしたかったわけではないが質量と密度の増加は必然だったとのこと)、廉価(当時のアメリカ国内価格は$399でムスタングが$450、ブロンコは$340)」などです。
LEADシリーズのブリッジはTelecaster DeluxeやStarcasterと共通の弦ピッチなのでWRHB搭載継続に支障はなかったはずなのですが、結果としては専用に新開発された、より高出力なLOHBが搭載されました。
![画像12](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/63777880/picture_pc_28cde8e9276779adee61fa277be51efa.png?width=1200)
WRHBとの共通点が殆ど無い、LOHBの内部構造やスペックですが、Dimarzio社の Super Distortionとは以下のような類似点が挙げられます。
・12本のポールピース全てが可動である
・13kΩ強の直流抵抗値
・セラミック製バーマグネット
・ピックアップからのリード線が4本(Super Distortionの兄弟機であるDual Soundと共通)
![画像7](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/35153112/picture_pc_674251d60ff01a276955d5a86cb82e16.jpg?width=1200)
ピックアップの歴史について書かれた成書を読むと、70年代以降に求められたのは長いサスティンを生む重いボディーとアンプをオーバードライブさせやすい高出力のピックアップであり、大音量化に伴いハムバッキングピックアップの金属製カバーは、広域特性を悪化させハウリングの原因になりやすいとして外されることが多くなったようです。
しかしながらWRHBの場合、上の画像のようにカバーを外した際の見栄えも悪く、外されての使用例は見たことがありません。ただし、カバーを持たないことによりボビンに弦が引っかかることによるコイルの断線等のデメリットもあります。
当時のFender社がWRHBの後継としてLOHBの仕様を決定する際には、これらを勘案する必要があったと思われます。憶測に過ぎませんが、全体的な大きさはWRHBを踏襲(Gibson社のものとの差別化目的?)しつつ、セミオープンで内部構造はSuper Distortion等に倣った高出力かつ配線の多様性を持つピックアップとしたのではないでしょうか。
![画像6](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/32444927/picture_pc_0137b89790b096feaba17463542a1ca8.jpg?width=1200)
リアポジションにハムバッキングピックアップ1発という仕様で商品化されたソリッドボディーのエレキギターといえば、1963年のGibson FirebirdⅠが最初でしょうか(上の画像はLEAD1にミニハムバッカーを搭載したコスプレ)。ただ、搭載されている所謂Firebirdミニハムバッカーは、バー形状のマグネットポールピースなので、構造的にはむしろWRHBに似ています。ラージハムバッカーとなるとChris SpeddingがFrying Vをフロントピックアップレスに改造して使用していましたが、やはりこの仕様については、Edward Van Halenの愛機である「Frankenstrat」でメジャーになり、以降LAメタルと称されるグループのギタリスト間では珍しくもない仕様となってしまったように感じます。その際カバーはハウリング防止のために外されていることが殆どのようです。
![画像8](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/35153292/picture_pc_b4ae361a7d7813e5945eff72e11706c4.jpg?width=1200)
高出力で、且つハウリング防止のためにカバーの外されたハムバッキングピックアップをリアポジションに搭載するという仕様、メジャーな楽器メーカーからこの仕様で発売されたギターの元祖は、ひょっとするとLEAD1なのかもしれません。惜しむらくはFrankenstratに準じてトレモロユニットを、せめてオプションででも用意していれば、流行の波に乗れてその後の展開も違っていたかもしれません。
※現存するトレモロユニット付きのLEADシリーズはおそらく日本国内で後付されて売り出されたものばかりと思われます。
その後……
価格的にはスチューデントモデル並でも、本格派を目指し鳴り物入りで発売されたであろうLEAD1&2ですが、1981年にLEAD3が追加された後1982年(1983年?)にはシリーズの生産が中止されました。Fender社からの期待を裏切った結果の生産中止だったのでしょうか。
LEADシリーズの生産中止と前後してBulletシリーズが発売されたのは1981年後期頃のようです。当初のTelecasterライクなボディーシェイプは1982年後期頃にはStratocasterライクなものに変わりますが、その際にラインナップされたH-1とH-2に搭載されていたハムバッキングピックアップは、逆巻き・逆磁極のシングルコイルピックアップを2つ組み合わせたもので、ポールピースのアジャスト機能こそありませんが、構造的にはマグネットポールピース仕様でWRHBに先祖返りしたと言えます。ただし、これを新開発のピックアップと呼ぶのはやや厳しい気もします。尤もこのハムバッキングピックアップは、その後の仕様変更でギブソンタイプの底面にバーマグネットを配置したタイプになってしまいますが。
![画像9](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/35153443/picture_pc_33d36c2b87b560b872d52fa13c7f8c3e.jpg?width=1200)
その後Fender社では、日本製の所謂スーパーストラトにハムバッキングピックアップが搭載されます。ただ、これは新開発されたものでもなく普通のラージハムバッカータイプです。ですので、新開発で外見の独自性が高いハムバッキングピックアップは、その後のPerformerに搭載されたひし形の通称アングルハムバッキングピックアップを待たねばなりません。
【了】
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