【フェムテックの社会学的探究シリーズ】Vol.2 フェムテックの定義とは
第二回は、様々な定義からフェムテックを見ていきたいと思います。
フェムテックの定義について定まったものはありませんが、少なくとも日本では「何かしら女性の健康に関わるもの」という共通認識は取れているように思います。一方で「テック」についての言及が少なく、フェムケアとフェムテックの混同、同義的な扱いもよく見受けられます。ただ、誰の定義が正しいかではなくまずは実際に日本では何が「フェムテック」とされているのかをみて、現状の理解を深めていきたいと思います。
様々な定義
(1)辞書 : Cambridge Dictionary
日本の辞書にはまだ採用されていないようです(2023年1月時点
(2)フェムテック議連の定義
女性だけでなくパートナーが含まれていること、セクシャルウェルネスが特記されていることが特徴です※。(引用文献1)
(3)内閣府
これと同じ定義を厚生労働省や、東京都(フェムテック支援事業)が使用しています。
(4)経済産業省
(5)Femtech Community Japan
フェムテックとは?を網羅している記事ですので是非入門編としてご参照ください!
セクシャルウェルネスまで入れるのかどうか、「テック」に当たる部分である技術についてはどこまでを指すのかなどは議論できそうですが、サービスや製品の一つ一つが当てはまるかどうかではなく、その領域全体つまり産業として包括的な視野が現時点では必要かと個人的には思っておりますが、実際はどうなのかの方に焦点を当てて進みます。
実体はどうなんでしょうか?
経済産業省の「フェムテック等サポートサービス実証事業」
例えば実際に経済産業省がフェムテック等事業として支援金を出している事業(複数採択の同企業含む)を分析すると2021年度〜23年度で採択された合計57事業を見ると
🌟ヘルスリテラシーの向上としてセミナーやコンテンツの提供が多い
🌟ヘルスリテラシー/女性の健康全般から、月経、更年期など特化型の増加🌟この3年の中でも2021年度にはなかった「健康経営、人的資本経営」に絡めたコンサルティングやプラットフォームが2022年度で2件、2023年度で3件と増加傾向にあり、前回の記事でご紹介した人的資本経営指標などの政策の流れに対応していることが伺えます。
「FemTech の ELSI 検討に関する企画調査」
アカデミアでは科学技術社会(Science Technology and Society、通称STS)の分野で2022年度「FemTech の ELSI 検討に関する企画調査」というプロジェクトが行われました。※ELSI(科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題)(引用文献2)
フェムテックをめぐるメディア分析として
(1)X(旧Twitter)「フェムテック」もしくは「Femtech」という
単語を含む日本語ツイート
(2)Instagram ハッシュタグ #フェムテック
を過去1年分(2021年11月〜2022年10月)分析した結果、
Twitterでは2022年前半までは、生理ケア関連の製品・サービスに関する感想や意見が主であったが2022年10月中以降、「気持ち悪い」「子宮スピ」「似非科学」といった特徴語が見られるようになってきたようです。
一方でInstagramでは 生理ケア、不妊・妊活ケア、オンライン婦人科診療などが含まれていましたが、特にフェムケアである「デリケートゾーンケア(コスメやサプリ)」が特に多く、Instagramにおける「フェムテック」のイメージは美容やファッション系インフルエンサーによる投稿とその影響を受けやすく、先進的な情報技術とは関係ないものが主とのことでした。
Z世代のフェムテック
Z世代数名へのヒアリング(2023年11月〜2024年1月)からは
「フェムテック」は
🤍生理などの健康関連の便利グッズを探すときの単語
🤍吸水ショーツと月経カップのこと
🤍オーガニックと同じ感じの宗教っぽい感じ
(1)生理関連のもの (2)いまいちよく分からない怪しいもの の2つに集約されており、上記のメディア分析と一致する結果になりました。
女性誌などでも積極的に「フェムテック」について特集が組まれ始めていますが、主に吸水ショーツの紹介であったり、フェムテックと腸活、美容液が同じ”最新美容”として紹介されています。
この記事を読んでくださっているフェムテックに近い皆様の理解はまた違うと思いますが、世間一般ではまだまだフェムテック=よくわからない、怖い、生理関連のものというイメージが強い一方で、フェムテック産業の中では人的資本経営に貢献するための一つのアプローチとしての認識が強まっているように感じています。
Femtech産みの親はどう思っているのか?
先日Femtech Fes 2024にて「フェムテック」の生みの親である月経管理アプリ「Clue」創業者のIda Tin氏のパネルディスカッションがありました。
Femtech Fes実行委員会のみなさま、素晴らしいイベントをありがとうございました!!
その際に「フェムテックという言葉を作ってよかったか?8年経った今、この言葉の使われ方に何か気になるところはあるか?」という質問に対して
Ida氏が投資家たちと話すためにフェムテックという言葉をある意味産みださざるを得なかったように、今の日本では定義云々よりもその言葉を合言葉に、コミュニティを広げ社会認知度をあげ産業として成り立たせることに注力していくフェーズなのだと改めて感じました。
引用文献
(1)川崎 唯史 (2023). フェムテックと「女性の健康」 : 誰のための研究開発か 現代思想 51(6) 31-39 https://cir.nii.ac.jp/crid/1520296818738430080
(2)社会技術研究開発事業 2022(令和4)年度採択 プロジェクト企画調査 終了報告 書 https://projectdb.jst.go.jp/file/JST-PROJECT-22714168/JST_1115173_22714168_2022_%E6%A8%99%E8%91%89_PER.pdf
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