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久子さんのこと

師匠の奥さんの久子さんに私はたまに手紙を書いてる。近況報告とか、今考えていることなど、絵葉書とかで短い手紙。
いつも返事が欲しいとは思ってなくて、一方通行が落ち着く。けど今回返事が来てソワソワ。でもとても嬉しい✨
ハガキの絵は直筆の紫陽花のとても綺麗な鉛筆と水彩の絵で2017年7月3日に描いた絵みたい。
長年リウマチを患っている久子さん、多分今は2017年の時のように絵を描くことは難しくなってらっしゃるけれど、分厚い英語の本を言葉を辞書で引きながらお読みになったり今もしているみたい。私はakirakasaiのホームページで日記を拝読している。
その日記は出版されています。

ご長男の笠井爾示(チカシ)さん撮影の写真集もあります。とても美しいです。

私は今回はジョルジュ・ブラックの色とりどりの風景画の絵葉書に、心の友のNさんのこと、君が代に反発してグループを辞めたことなどを書きました。
久子さんの素敵な絵はこちら🌸

宝物にします。

私は数年前、障害者雇用(双極性障害で手帳を持っている)の就職支援のスクールに行っていて、そこの課題で読書感想文がありました。その日は林芙美子の文章を読んで時間内に何か書くというもの。私は林芙美子に対してはあまり感想がなく、久子さんについて書くことにしました。
そのちょっと気取り気味の文章載せてみます。

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Title:出さない手紙

大好きな久子さんへ

お元気ですか。今朝、林芙美子のエッセイを読んでいたら貴女のことを思い出しました。久子さんの日記をよく読んでいる私には、林芙美子のそれが一生懸命気取ろうとしているように感ぜられ、失礼ながら、彼女も本当は、あなたのような文章を書きたいのではないかという気がしてしまいました。
いつぞやは、瑞丈さんから「久子さんがうちに来なさいと言ってるよ」と言っていただき、小躍りしそうな嬉しさを隠して、何故か先生と久子さんから一生懸命離れなくてはという、誘惑なのか自己の本質からの欲求なのかわからない中を彷徨いもがいていた私は、そっけない態度をつとめてつくっておりました。久子さんは大野先生とご家族のこと、「うつくしい人たち!」と書いていらっしゃいましたが、私にとり、先生と久子さんがあまりに美しい人たちでした。先生と久子さんの前では自分がゼロになり、魔法のように精妙な人の優しさと温もりが空間を満たし、温泉につかるようにその中に憩う自分がいました。それは本当に経験したことのない不思議な感覚で、私の陳腐な言語表現では表現できないけれども、人の心の温かさがどのように空気の密度を変えるかを身をもって知ったのでした。久子さんと先生との時間が同じ人生の延長線上にあることは確実なのだけれども、別次元を行き来したような気すらいたします。
 心身の不可視な部分をドラスティックに荒療治していたその7年間は、終始ソフトな錯乱状態に陥っていたと言え、先生と久子さんに常軌を逸した甘え方をしていました。A君との恋愛ドタバタ騒動にお二人を巻き込んで、手作りのカレーで助けていただいた日。先生に作っていただくなんて、もったいなくて食べられません。と申し上げると、わたしがつくったのよ。とすかさず久子さんがピシャリと仰って、この少しのバツの悪さにたいへん癖になる面白さを感じました。先生が胃癌で胃を切除した際も、ホルマリン漬けの胃を「笠井のですから!」と病院に渡すまいとする貴女の様子を伝え聞いたことを思い出します。
 お二人を見ていると、神話のような豊かな物語が流れ込んでくる心地がして、ゼウスとヘーラーや、イザナギとイザナミといつも重ね合わせてお二人をみておりました。安冨教授は、憧れはよくないことだと念を押します。“あくがる”は魂が自分自身から離れて何かに引き寄せられてしまう状態と意味しているからであり、それは自己をプロジェクションするナルシシズムの延長に過ぎず、相手そのものを無視していると。それは今ならとても納得出来ますし、今後私は、どれだけ尊敬する人と出会おうと自分の全てを明け渡すことはないでしょう。けれど当時は違っていました。先生と久子さんは、私が自己愛の投影の泥玉を投げつけても、それを凌駕し包み込む、人間の本性に対する深い洞察と理解があったのでした。
 昨年私は、ずっと離れたかった親元を出て、一緒にいて安心できる人と暮らしています。その人と暮らし始めたら、みるみるうちに心が安定してきて、親との記憶と親への複雑な感情が情緒不安定の大きな要因であったことが改めて意識されました。ずっと一人で生きていくのかって発狂しそうな焦りを抱えていたけど、気持ちが底をついてどうでもよくなってきた頃、その人に会うことが出来ました。
 さいきん、小さなベランダで花を育て始めて、楽しくてたまらなく、10分毎にベランダの様子を見に行って家事が手につかないくらいです。貴女の日記の、季節の移り変わりや植物を愛でる様子が感じられるところが好きです。私もこの小さな自分の空間で、季節の移り変わりをより身近に感じて、願わくばそれと共にリズムを刻んで生きてみたい。気持ちの良い初夏の風が草花の香りを運んでくれた時、植物が温かい土の中で春に向けて力をため込む冬。季節を感じる瞬間に、あるときは初夏の光のような、ある時は暖炉のような貴女のおもかげが思い出され、私の心を温めてくれます。

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出さない手紙というタイトルだけど、数年後に 手紙を書いたときにちゃっかりこれも一緒に送った、構って欲しい私なのでした。笑

完。

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