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オノマトペの面白さ〜身体感覚を遊ぶように表現する

一瞬ののち、太古の静寂を破って、ゲドが大声で、はっきりと影の名を語った。時を同じくして影もまた、唇も舌もないというのに、全く同じ名を語った。
「ゲド!」
ふたつの声は一つだった。
(中略)
ゲドは勝ちも負けもしなかった。自分の死の影に自分の名を付し、己を全きものとしたのである。

ル=グウィン「ゲド戦記Ⅰ 影との戦い」より

世界は名前で溢れています。
名前がわかると、その対象に意識がむき、もっと知りたいという気持ちが沸いくることがあります。

例えば、誰かから観葉植物をもらったとします。
その名前が「パキラ」であることがわかれば、その概念を足がかりにコミュニケーションをすることができますし、「中南米の河川育ちであるので水に非常に強く根が腐りにくい」とか、「種には毒がある」という情報にアクセスすることができます。

パキラ

身体感覚に名前をつける

パキラのように実体があればわかりやすいのですが、名前をつけるのが難しいものがあります。
感覚としては浮かび上がってくるのだけど、なかなか名前をつけるのが難しいもの。
それは身体感覚です。
内部感覚であったり、動きの感覚であったり、触覚であったり、痛みの感覚であったり、実体が乏しく複雑であり表現しずらいです。
それは、自分の「影」といってもいいのかもしれません。

身体感覚を表現する上で、音や状態を表すオノマトペはイメージを喚起させやすいです。
「触楽入門」という本で、「音」から「触」を感じるという視点でオノマトペ芳一さんが紹介されるのですが、かなりのインパクトです。

全身にお経を書いて怨霊から逃れようとした怪談話の耳なし芳一さんになぞらえています。

オノマトぺ芳一さん 「触楽入門 はじめて世界に触れるときのように」より

これは「ウェブ上で得られるテキストを解析し、身体部位について言及した時に同時に出てくるオノマトペを拾い上げ、その2つの対応関係」を視覚したものです。原典に辿り着けなかったので、どのように言葉を選択し対応させたかはわかりませんが、凄まじいですし面白いです。
肩は「バキバキ」、「ガチガチ」。
膝は「ガクガク」、「ギリギリ」。
オノマトペ芳一さん、痛みというか、ネガティブな印象のオノマトペが目立ちますね。
ネガティブなオノマトペが多いのは、普段は沈黙しながら働いている身体の方から「これ以上動かしたら危ないよ」とか、「少し休んで」とか、生存に必要なメッセージを意識に上らせているのかもしれません。

「遊び」表現で身体感覚で名前をつける

もちろん、痛みや違和感をオノマトペを表現するのもよいのですが、快適さ、心地よさといったポジティブな感覚、そして日常の「動き」の感覚、体重の配分の感覚も表現すると行動も変わっていくかもしれません。

この作業は、意識から身体の方へ降りていくので観察することが必要です。明確なことも観察しても明確でないこともあります。
なので、あまりに真面目にならずに遊び感覚で表現すると「かたち」を表してくるかもしれません。

オノマトペというシンボルになってしまえば、比べたり分析するきっかけにもなります。
違いを確かめる手立てや共有のきっかけにもなります。


私は、あまり言葉を発しない未就学の子どもと仕事をすることがあります。
先日、ソウ君(仮名)がストレッチポールを取り出して、跨いで座り出したので私は後ろからポールを揺らしました。
そうするとソウ君は笑いながら倒れないようにポールにしがみつくのですが、耐えられず床に転がって、声を上げながら笑い、またポールを跨ぎ始めます。私はまた揺らします。
そして揺らす時、私は「ぐらぐらー!」と声を上げながら行いました。
ソウ君はまた笑いながら床に転がります。
このやりとりを何度か続けたのですが、
ソウ君も、跨いでいる時に発声は不明瞭ながらも「んらんらー!」と言って床に転がっていくことを始めました。

ストレッチポールが揺れること。自分も揺れること。
ソウくんにとって「んらんらー」の発見です。
確かなのは、身体の感覚に新たなオノマトペが加わって遊んだ体験です。


『ゲド戦記』というファンタージーがあります。
主人公ゲドは、恐ろしい影に追い回され、悩まされましたが、影から追われるのではなく、自分から追うようなりました。そして名前をつけたのです。

「今後ゲドは、生を全うするために己の生を生き、破滅や苦しみ、憎しみや暗黒なるものにもはや生を差し出すことはないだろう」

ル=グウィン「ゲド戦記Ⅰ 影との戦い」より

自分自身を知るものは、いかなるものにもおびやかされることはないのかもしれません。

身体感覚は自分の影のようなものです。
それに名前をつけると行動は良い方向へ変わっていくと思います。


<参考文献>
ル=グウィン/清水真砂子訳(2006)「ゲド戦記Ⅰ 影との戦い」,岩波書店.

仲谷正史他(2016)「触楽入門 はじめて世界に触れるときのように」,朝日出版社.


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