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『ウルトラマン「正義の哲学」』未収録原稿―機械と人間のボーダレスの果てに―

 『ウルトラマン「正義の哲学」』(元版は『ウルトラマンと「正義」の話をしよう』)の未収録原稿がある。『ウルトラセブン』「第四惑星の悪夢」に関するトピックスだ。単行本、文庫本に掲載とはならなかったのだが、その時のプロットをもとに書き下ろしていきたいと思う。

 「第四惑星の悪夢」には怪獣も宇宙人も出現しない。出るのは第四惑星と呼ばれる星(見た目は地球と何一つ変わらない)を支配するロボットだ。といっても、このロボットは人間と見た目は何一つ変わらない。このころ『ウルトラセブン』はコストダウンの号令の下、予算を抑えた作品作りが求められていたというから、これはアイデアを生かして着ぐるみを出さずに作品を作った例であると言えよう。

 果たして本作は、人間と機械のボーダレスを表象することとなったが、そこで思い出されるのは2010年代初頭であったか、グリコのアイス「アイスの実」でAKB48の新メンバーであるとされた江口愛美の存在である。まもなくして、江口はCGであり実在しないことが明かされる。

 私たちは著名人のほとんどをメディアを介して見る。しかし、高度に技術の発達した現在では、その存在そのものがフェイクである可能性さえある。メディアの描いた幻影、嘘を真実と認識する危険性があるということだ。江口愛美の件だって、ネタバレされなかったら永劫に存在し続け、ファンを獲得したことだろう。

 近年、トランプ大統領が言ってもいないことを言っているかのように見せるフェイク技術が存在することが報道された。私たちは既にその存在の有無さえ確かめようのない人間の、真実か嘘かもわからない言葉に翻弄される危険性のある世界に生きているということになる。

 「第四惑星の悪夢」は、ロボットに人間が統治されるという、よくあるディストピアを描いたものではない。人間と姿かたちが変わらないものが実はロボットであり、そのロボットが数値によってはじかれるデータによって世界を統治するという、つまり合理や数値がヒエラルキーの頂上に君臨する世界の恐怖を描いたものだ。それに加えて、確認しようのないフェイクと共存しなくてはならないという世界は、今を生きる私たちが直視しなくてはならない現実世界そのものであるように思われる。

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