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「物語」が必要な”私”たちに送る━━「「これは私の物語だ」と思ってくださる方がいたら、その方のために書いている」━━ヤマシタトモコに『違国日記』のことを聞いてみよう⑤(完)

2019年5月12日(日) Asagaya/Loft A(東京・杉並区)にて行われたヤマシタトモコ先生トークイベント完全版レポート、約1ヶ月にわたって更新して参りましたが、今回が最終回です。末尾にはヤマシタ先生のお人柄溢れる「余談」コーナーも…!? ファン必見の内容盛りだくさんとなっておりますので、ぜひぜひ最後までお楽しみください!

Q:「もし、漫画家以外のお仕事をしていたなら、何になっていたと思いますか?(私はパン屋さんです)」
ヤマシタ 可愛い(笑)。でもパン屋さんの朝は早いよ…?
――それは質問者への心配ですね?(笑) 漫画家以外の仕事だったら…。
ヤマシタ そもそも仕事にできることが少ないんですよ。決まった場所に決まった時間に行くのとかが本当に苦手だったり、目の前にある仕事に気づけなかったりするので、会社勤めは無理だし。
――子供の頃に強制的に将来の夢を書かされるような場では、なんて書いていたのですか?
ヤマシタ 絵を描くお仕事とかですかね。だから、漫画家はずっとなりたかったものだったと思います。大学を卒業するときに、いちおうデザインとイラストのポートフォリオも就職活動用に作ってはみたのですが、実際に動く前に投稿していた漫画が引っかかってくれたので、よかったなとつくづく思いました。デザインやイラストの仕事をするのも無理だったと思うので。漫画家になれて本当によかったです。
――現実的なことは抜きにして、漫画家やりつつ副業もやれるとしたら興味のあることはありますか?
ヤマシタ やりたいというのとは違うんですが、以前にご夫婦で営まれている小さなパン屋さんに取材に行ったことがあって、そのときにパンの形成をやらせていただいたんですが、ものすごい褒めてくれるんですよ。「パン屋になれますよ!」とかめちゃくちゃ褒めちぎってもらっていい気分になったことがあるのと、特殊メイクのワークショップに行ったら、やっぱりすごい褒められて「なれますよ!」っておだてられたのが幸せな記憶です(笑)。
――漫画家をやめても漫画を描くと思います?
ヤマシタ そうですね。仕事の漫画を描き終えたあと、趣味で漫画を描いたりするので、漫画を描くのはやめないんじゃないですかね。
――そうだ、漫画を描いていた気分転換に漫画を描くんでしたね。
ヤマシタ はい(笑)。漫画家はみんなそうですよ。今日、そこにいっぱい漫画家が座ってますけど。
(会場にいたヤマシタさんの知人の漫画家たちがそれぞれ首を振ったり俯いたり)
――みんなではなさそうです(笑)。
ヤマシタ ほっといたら、漫画描き始めると思いますよ、みんな(笑)。

――映画や海外ドラマ、国内のドラマなどさまざまな映像作品をご覧になっていますよね。
ヤマシタ 仕事中はずーっとCS放送で海外ドラマを流しっぱなしにしていますが、単に好きで観ているんですよ。人の死ぬドラマが好きなんですよね。
――語弊…(笑)。
ヤマシタ 要は刑事ものとか事件ものが好きなんですが、人が死なないドラマは観ないです(笑)。

Q:「おすすめの映画、小説など教えていただきたいです」
ヤマシタ 海外ドラマですが、ETFLIXの『アンブレラ・アカデミー』がめちゃくちゃ面白かったです。それと『9-1-1:LA救命最前線』も面白いんですが、私の推しカプが別れたのですごく悲しい…。あと好きだった『Major Crimes~重大犯罪課』が完結したんですが、終わり方に納得がいかなかったりもしています。映画だと…『アベンジャーズ/エンドゲーム』観ました? …っていう。
――お察し…という。エンタメ作品を楽しむのは映像が主ですか?
ヤマシタ 小説も読みますよ。去年は結構読んだんですが、今年は余力がなくて、今のところあまり読めていないんです。
――小説も人が死ぬ話が好きなんですか?
ヤマシタ わりとそういうのばかり読んでいますね。
――『特捜部Qシリーズ』がお好きですもんね。
ヤマシタ あれは大変面白いシリーズです。去年はマーガレット・アトウッドをたくさん読んだんですよ。『侍女の物語』がとても面白かったので、日本で出ている分は著作をひとまず全部買ってちょっとずつ読んでいました。なので海外小説を読むことが多いですね。
――何かをインプットしようと意識的にドラマを観たり、小説を読んだりしますか?
ヤマシタ それはないですね。仕事とは関係なく、観たり読んだりしています。「仕事休みて~」と思いながら『エンドゲーム』を観て、「ああああ……」となってそこから動けずにいるので、新たに映画を観たりはしていないんですが、今『エンドゲーム』を「サノス~~~!」と言いながらこねているところなんです(笑)。
――そういう強い感情が、たとえば『違国日記』だとかの創作に何か影響を及ぼすということはあるんですか?
ヤマシタ サノスが?(笑)
――サノスへの憎しみとか(笑)。
ヤマシタ 作業が手につかないとか進行に影響を与えることはまれにありますが、創作するうえでは切り替えるので、サノスへの憎しみが話作りに影響することはないです。
――では、今ネームがちょっと詰まっているのも。
ヤマシタ サノスのせいではない(笑)。

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Q:「作画について教えていただきたいです。線画を取り込んでトーンやベタはデジタル処理されているのでしょうか?」
ヤマシタ プロットから下描きまでiPadで作業して、線画はアナログです。そのあと線画を取り込んでトーンなどデジタル処理しています。
――線画までデジタルにはしない?
ヤマシタ そうですね。線画はアナログのほうがいいです。連載を始めるときに、画材として万年筆を使ってみたくて、今は万年筆でペン入れしています。
――線の強弱も出ますし。
ヤマシタ そうなんですよ。
――万年筆は価格帯も種類もさまざまですが、主にどんなものを使っているんですか?
ヤマシタ 普通のですよ。えーと、パッと出てこなくて…Amazonの履歴見ればわかると思うんですけど。

Q:「『違国日記』は誰のために書いていますか?」
ヤマシタ …誰のためでもない…(笑) 描いたものをどう受け取っていただくかは自由なので、もちろん「not for me」だと感じる方もいると思うけど、「これは私の物語だ」と思ってくださる方がいたら、その方のために書いているんだと思います。

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Q:「最後に読者にメッセージをお願いします」
ヤマシタ 読んでくださってありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。

○余談1
(オーダーする登壇者一同)
ヤマシタ ジンジャーエール氷抜きで。
――それと生ビールください~。
ヤマシタ 私、今日ものすごい眠いんで、ビール飲んじゃうとちょっと…。
――昨日ピクニックに行ったから眠いんですよね?
ヤマシタ 陽にあたりすぎました。
――楽屋でうちあわせといえないうちあわせをしているときも、ずっと「今日、眠いんですよ」「今、ものすごく眠いんですよ」って言ってましたからね。
ヤマシタ 眠すぎて、ネームもできずゲームだけ今日はやってから来ました(笑)。

○余談2
(ネタ帳に描かれた4巻表紙のラフが映されている)
ヤマシタ デザイナーさんとのうちあわせのときに描いていたものなんですが、5巻って書いているんですよね…。さっき担当さんに指摘されて初めて気がつきました。4巻のうちあわせだってわかっているのに、5巻って書いてましたね。時を跳んだんですかね。

(インタビュー・文/桜雲社・山本文子)

最後までお読みいただきまして誠にありがとうございました! 『違国日記』とヤマシタ先生のことをも〜〜〜っと好きになってしまうトークイベント、大盛り上がりだった会場の空気をお伝えできましたでしょうか? ヤマシタ先生が生み出す等身大で多様なキャラクター&彼らの関係性からまだまだ目が離せない『違国日記』、最新23話は『FEEL YOUNG』9月号掲載、単行本は4巻まで絶賛発売中です。今後とも応援よろしくお願いいたします!

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