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デザインが発する空気に触れる

美しいタイポグラフィをみるとドキドキする。

デザイナのみなさん、そんな経験はありませんか?
タイポグラフィでなくてもいいです。何かを見たり触れた瞬間「美しい」と感じる。同時に頭の前の方からてっぺん辺りがジンジンして、ドキドキする不思議な感覚です。

先週の日曜日に日本のグラフィックデザイン2020に行ってきました。展示されていた複数のデザインに対して、まさに「ドキドキ、ジンジンする」感覚を味わってきたところです。

そしてこの感覚は、写真や図録などの誌面、画面上ではなく直接見たり触れることで初めて得られると強く思いました。( 残念ながら2020展では触ることはできませんでした ) 

わたしたちは何を「みて」いる?

展示会で実際に「みる」ことと、写真で「みる」ことは何が違うのでしょうか。わたしは対象物と1対1で向き合えるかどうかだと思っています。

みているようで、みていない

デジタル化された画像ではピクセルによって全てがフラットに表現されてしまいます。紙の質感、インクの滲み、発色、それが空間に在るときの佇まい。これらはすべて「データ」として吸収されます。箔押しされた文字と紙との間の微妙な差異の心地よさも、感じることができないのです。

それはデザインを見ているようで、本当はピクセルの集合体を見ているだけ、とすら思います。ちょっと言い過ぎかもしれませんが。

想像力を育てていく

パッケージやポスターなどの物理的に触れられるモノは、それがどのように在るべきかを想像しながらデザインしていきます。手にとったときの感触はザラザラ?スベスベ?手に収まりやすいか?陳列された時の見え方はどうか。遠くからみたときはどう感じるか?生活空間にスッと溶け込むのか、あえて目につくようにしたほうが良いのか。

対象と向き合い注意深く「視る」ことで、デザインに必要な想像力が育っていくような気がしています。みて、触れて、聴いて感じたあらゆることが、混じり合ってエキスとして自分のデザインに反映されていくのです。

美しさに対する生体的な反応

たにひろきさんから、Go Ando さんのツイートを教えていただき、そのときはじめて神経美学を知りました。

人が「美しい」と感じるとき、脳の特定の部位が活発化するそうです。それは視覚や聴覚の美だけでなく、善行や正しさといった「美しい行い」とされる感覚にも同様の反応が見られるとのこと。

わたしが「ドキドキ、ジンジン」するのは、脳が活発化しているからなんでしょうか。

これらの研究は,もちろん刺激のどんな特徴が美しさを呼びおこすのかという問いには答えられない。しかし刺激の具象性に依存しないだけでなく,視覚・聴覚など知覚情報を運ぶメディアの違いをも超えて,美の体験という心的状態に特定の限局した脳部位が関わっていることは間違いないだろう。
美の感覚はヒトの行う判断全般にひろく立ち現れるものだ。自然にも,人間にも,道徳にも,生き方にも。そして,わたしたちが直面する多様な選択において,その判断材料となる決定因子としての機能があると考えられる。

捨てられないパッケージ

以前、BAKE 社のプレスバターサンドのデザインコンセプトに関するインタビュー記事を読みました。BAKE 社といえばチーズタルトが有名ですが、この記事がきっかけでプレスバターサンドを実際に買ってみたのです。

そのパッケージデザインは、インタビュー記事の写真でみるよりも遥かに洗練されていて「美しい」と思いました。デザインを担当した柿﨑弓子さんは、デザインモチーフとして「鉄」を芯に、工業製品のような仕上がりを目指したのだそうです。

鉄が溶けたときを想起させるビビットなオレンジも加えています。鉄板は静的なイメージ(グレー)、溶けた鉄は動的なイメージ(オレンジ)で、色でもコントラストを出したいな、と。

実際に手にとったとき、ザラザラした分厚いダンボールのような箱は、たしかに工業製品っぽさを感じます。インクの滲みが感じられる和文と欧文のロゴタイプからは、どこか温かみがあるように思えました。

この箱、どうしても捨てられなくて未だにとってあります。Google の Ivy Ross 氏率いるデザインチームは機能性だけでなく手触りも追求しながらプロダクトの設計をしているそうですが、ヒトの感性や情動に働きかけるデザインは、手元に置いておきたいと思わせてくれる「何か」を持っているようです。

ちなみに、プレスバターサンドはめちゃめちゃおいしかったです👍

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日本のグラフィックデザイン2020で印象に残ったデザインたち

結局画像載せとるやんけ!と突っ込まれそうですが、特に印象に残ったデザインたちを少し紹介します。

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野蛮と洗練 加守田章二の陶芸
画像引用: https://www.jagda.or.jp/awards/kamekura/

図録の美しさは、この方の写真のほうが伝わりやすいかもしれません。


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画像3

国立科学博物館 企画展「風景の科学展 芸術と科学の融合」
画像引用: https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000047048.html

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画像3

ナガヤマレスト
画像引用: http://studiowonder.info/nagayama-rest-branding-graphic/

文字としての日本語の美しさ

図録「野蛮と洗練」、ポスター「風景と科学展」、Nagayama Rest のブランディングデザインでは、文字としての日本語の美しさに改めて気付かされました。

文字は情報伝達の媒体として機能しますが、文字はそれ自体が書体デザイナによってデザインされたものです。ここでは媒体としてだけではなく、デザインの一部として文字自体の美しさが引き立っていると思いました。とめ・はね・はらいといった日本語独特の文字のリズム感や墨溜まり、曲線と直線が織りなす美しさは、文章になると文字が「塊」となるため見過ごしてしまいがちです。あと、日本語って墨色っぽい黒と相性がいいと思いませんか?

デザインひとつひとつにじっくり向き合ったからこそ、気づけたのだろうと思います。

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せんきん
画像引用: https://www.jagda.or.jp/awards/newdesigner/?detail=new_designer_2020_1

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西川
画像引用: https://www.jagda.or.jp/awards/category/?detail=award_2

それが発する空気に触れる

今回の note のタイトルは、たにさんの言葉から拝借したものです。神経美学における視えない美は、デザインが発する空気を通してわたしたちに刺激を与えてくれているのかもしれません。



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