【同人女の戯言】同人女、トレパクと出会う
原稿に行き詰まるとnoteを書く。
小説同人誌の原稿の息抜きはweb小説だし、原稿が終わったらやったー終わったー!と叫びながら大喜びで小説を書くし、小説が行き詰まった時の気分転換でnoteを書く。執筆中毒者の業は深い。
といっても、noteの題材がそんなにゴロゴロ転がっているわけでもない。
しょうがないので自分の持ちネタを切り売りすることにする。
今回のタイトルは、「同人女、トレパクと出会う」。タイトルから想定されるほど劇的な話ではないが、最近起きたことでわりと神経を使った出来事だ。
前提として、私は二次創作小説を書いているしがない同人屋だ。
書くことを第一にしているので、あまり交流には熱を入れない方だが、コンタクトがあれば丁寧に返信をしている。いくら頑張って書いても感想が届かない問題なども取り沙汰される界隈だが、比較的感想を言ってもらえる方だ。多くはマシュマロなどのツールを経由して匿名だが、ときどきツイッターなどで個体識別可能なメッセージもある。
去年の10月頃、私はツイッターのDMで一通のファンレターを受け取った。その時私はちょうど誕生日が近かったために、gifteeやamazon欲しいものリストを公開していたのだが、知らないアカウントからgiftee経由でスタバの500円券が届き、「貴女のファンです、よかったら受け取ってください!」と元気なメッセージが添えられていた。
ファンコール自体は決して珍しいことではなかったが、全く面識のない相手からスタバのチケットを頂いてしまうのは結構珍しい出来事だったので、「あら~恐縮だわ~」と思い、丁寧にDMに返信し、それからスタバでフラペチーノを頼んでツイッターに「ありがとうございます♡」と添えて写真をアップした。
ざっとDMの送り主を確認すると、彼女は同ジャンル同カップリングで活動する小説書きであった。その時、私はそれ以上追及しなかった。何故なら私は同カップリングで活動する別作家の作品をあんまり読まないからである。理由は幾つかあるが、「影響を受けたくない」が一番大きい。あとは「読み手として満足したら創作意欲が減退するから」というのもある。
DMの主から返信があった。めちゃくちゃ私の作品のことを読んでおり、色々と感想が届いた。ここで、DMの送り主を借りにRさんとしたいと思う。Rさんはとにかく感想を言うのが上手かった。人の作品を細部までしっかり読んで、独自の解釈した上で、引用を交えて感情表現をしてくる。ここまで読み手を喜ばせる感想は珍しい。国語の読書感想文だったら文句なしの100点満点だった。
というかそもそも、面識のない作家に誕生日祝いに乗じてスタバのチケットを送り、お礼のメッセージに対して熱心なファンコールをする、というアプローチのやり方からしてコミュニケーション能力強者である。
ただ、私の反応は比較的フラットだったと思う。
おそらく、私が比較的中堅どころの書き手であり、そもそも「感想に飢えている」タイプではなかったからだろう。「はー、こんなに熱心な人もおるんか……てか読書感想文上手いな」くらいの感覚だった。まあ嬉しかったには嬉しかったが。
しかし、フラットな私の感情とは裏腹に、その後Rさんと私は共通のフォロワーなどを介して距離が近くなり、もくりで会話したり、オフで会うことになった。交流に積極的ではないはずの私が月イチで会うレベルになったのは、偏にRさんのコミュニケーションスキルがエグかったからだ。距離の詰め方半端ねえ。
彼女は私を「先生」と呼んで慕ってくれたが、正直「先生」はやめてくれよ……と思っていたりもした。
Rさんはとにかく社交的だった。同人活動をやってみたいと思っているらしく、同人活動歴が10年を超える私に相談を持ちかけてくることもあった。まあ無碍にはできない。
そんな折、酒の席で、彼女が水商売の従事者で、デリヘルなどの経験もあることを知った。ふーん。やっぱりな。距離の詰め方がプロだもん、と思った。酒が入ると性経験の話や下ネタが生々しくなる。彼女は話術が巧みだが、話術が巧みなだけで人間性が宜しいわけではない。
多分、私はこの辺りから私はRさんを警戒し始めた。
オフ会をするメンバーは大体4人で固定されつつあった。
Rさんと、コスプレイヤーの美人と、私と、もう一人だ。
この面子がイヤな感じだった。こんな表現をしたら私の性悪が知れるのだが、Rさんとコスプレイヤーの美人は共に高卒で、比較的水商売寄りの女性だった。つーかRさんはデリ嬢経験があるのが確定している。コスプレイヤーの美人は、まあコスプレイヤーなわけだしコンカフェとかで働いた経験があった。ある意味こっちもプロだ。
私ともう1人は大卒だったが、いわゆるお嬢様で高学歴女子だった。小学校から私立で、大学は早慶みたいな感じだ。バリキャリ、実家が太く、カネを持っている。
趣味友で対等だったし金銭のやり取りがあったわけではないが、持って生まれた性分や性格的な意味で、完全に「接待する側、される側」というパワーバランスが生じていた。良い結果にならないグループだとカンが働く感じだ。おおよそ把握した段階で私は「帰りてえ…」と思っていた。人間関係を断ち切りたかったが、陰キャの同人女に器用に立ち回る力はない。
「なんかイヤな感じがする」というだけで、人間関係を切れずに悶々としていた私だったが、そんなある時Rさんのタイムラインにアップされていた小説を何気なくクリックした。
「そーいやどんなもん書くんだろ」くらいの軽い気持ちだった。
見て、後悔した。
トレパクだ。
作品は、私がよく知っている他ジャンルの大手作家(書いた作品が軒並みブクマ4桁とかいく感じの方)の同人誌作品と全く同じ冒頭から始まり、設定も展開も完璧に同じだった。
小説にトレパクという言葉が適切か、定義はどうするのかやや判然としないが、ともかくトレースしてパクったとしか言いようのない作品だった。
私は頭を抱えた。他ジャンルといえども大手作家だ。気付かれたら絶対大騒ぎになる。
正直、私はトレパクなんかどうでも良かったが、自CPの炎上は嫌だった。増してや私と交流のある人間のトレパクなんて、私に火の粉がかかる可能性もある。
クソ……どうしたらいいんだ……。
よくオフをする他のふたりはこのことを知っているのか? 知ってて黙ってるなら同罪だし、気づいてない可能性もある。わからん……。
つーかそもそも、オンラインにいろいろアップされてる他のRさんの作品は本当にRさんの作品なのか? 1件クロがあるということは他もクロである可能性は、正直めっちゃある。
私はそっとウィンドウを閉じた。そして、見なかったことにした。
だが、時は流れて、四月。
Rさんがとんでもねーことを言った。
件のトレパク作品を同人誌として頒布するというのだ。
あかん。
私の中の炎上センサーが反応した。
オンラインで公開してる間はまだいい。所詮一個人のインモラルに留まっている。だが、同人誌は金銭が絡む。そして売ってしまったものは回収できない。
自慢じゃないが私は年季の入った同人女である。炎上もそこそこ経験している。学級会くらいは日常茶飯事、親しいフォロワーが燃えたこともあるし、その逆に「燃やした」こともある。
「私が悪意ある愉快犯だったら絶対この案件クソほど火つけて燃やして遊ぶ」と確信してしまった瞬間、背中に冷や汗が流れた。
私が反応に困ってる間に話は進む。
ゲストが寄稿してくれることになったとか。
トレパク同人誌にゲスト呼ぶの!? 知らん人だけどそれやばいんとちゃうか!? 共犯ならまだいいけど、なんも知らん人だったら巻き込まれ事故確定だ。あと、余計燃える。
私はこの時点で、RさんにDMを送ろうかどうか迷った。仮にも先生とか読んで尊敬してるとか言われてる私の忠告だったら聞いてもらえるのではないかと逡巡した。
しかし、確信が持てない。逆ギレされたらまずい。
結局、私はRさんのマシュマロにラレ元作品のurlや警告を送るに留めた。おそらく初犯や出来心のやらかしならバレたことに気付いて少しビビるはずだ。
だが、何となく私は「この程度では効果がない」とわかっていた。
そして、トレパク同人誌は滞りなく発行され、イベントで頒布された。
この時点で、私はまだ、Rさんとの交流が切れていなかった。
正直オフ会は楽しくなかったが、切り方がわからないのだ。
Rさんは尚も止まらない。
「(私の知人主催の)アンソロジーに参加する」「アンソロジーを主催する」「合同誌を出す」と活動を広げようとする。
アンソロジーや合同誌にもトレパク原稿を出す気か? 人様のアンソロジーにトレパク原稿を寄稿する気じゃないだろうな? いや、トレパクしている人間主催のアンソロジーが出たとして、知らずに参加した人はどうしたらいいんだ? 私はRさん主催のアンソロジーの主題がNGと公言しているシチュエーション(死ネタだった)がテーマになっているためにしれっと参加を断ったが、正直アンソロジーのテーマが死ネタじゃなかったら参加を断れないかったかもしれない。そして、いつもオフ会で一緒のほか2名は彼女の企画に巻き込まれていく。畜生。
何より、自CPにこんなあからさまな火種を置いておくわけにはいかない。
私はツイッターの愚痴垢(同人垢のフォロワーはいても数名程度だと思われる、全く無関係のアカウントだ)にRさんのトレパクの話を書き散らしながら悩み、彼女と一緒に焼肉とか食ってる自分を嫌悪し、そして、意を決して凸をすることにした。
どこに。
ラレ元だ。
まずRさんのトレパク小説のurlを探し(魚拓を取るほど私の精神は強くなかった)ラレ元のSさんのpixivに、捨て垢からメッセージを送る。突然不審なアカウントからメッセージを送って大変申し訳ございません。読んで気持ちの良い内容ではないため、先にお詫び申し上げます。という謝罪文から始まるメッセージだ。
このトレパク小説は同人誌としてゲストを巻き込んで有料頒布されています。
しかし私は第三者であるため、騒ぎ立てるようなこともできず、こうしてラレ元であるS様にメッセージを送っている次第です。
ラレ元のSさんからはすぐに丁寧なお返事が届いた。
私は仕方ないので愚痴垢で現状を報告しつつ、Rさんのトレパク小説がpixivから消えるところまで確認し、安堵の溜息をついた。まあ、さすがにラレ元に怒られたらRさんも今後大っぴらにトレパクを……しない、と、信じるしかない。
しかし、黙っていなかったのがフォロワーである。
おそらく私の手緩い、自CPの炎上を恐れて日和った対応では足りないと思ったのだろう。(多分)(ほんとここ想像なので事実と違ったらごめん)
ともかく、誰なのか、私がSさんに凸したことを知っていたのかそれとも偶然なのか真実はわからないが、このタイミングでもう一人の当事者にマシュマロを送った。誰って、トレパク本にゲスト参加していた作家さんである。
そうか、この人も当事者だ、と後から膝を打った。
このゲストさんが優秀な方で、トレパクを指摘された次の瞬間素早くRさん本人を問い詰め、自供させ(なおRさんは垢消し逃亡した)検証垢を作ってくださった。
その後垢消し逃亡したRさんは、交流が華やかだったのが災いして自宅バレなどしていたために捕獲され、謝罪と返金に応じる旨のツイートを行った。
多少は燃えたが、大炎上というほどの炎上はなく、ジャンル内の醜聞として処理され、この問題は終了した。
ちなみに、Rさんが「参加したい」と言っていた私の知人主催アンソロジー(公募制)は無事だった。おそらく私がSさんに凸した時期と締め切り時期がかぶっていたので、参加を見送ったのだと思う。
ちなみに私はアンソロジー主催に「トレパクしている人が参加を検討しているという情報があるので気を付けて」というどうしようもなくフワッとした警告を送って困らせてしまったのだが、のちにアンソロの規約に「トレパク原稿を寄稿した場合の返金対応などの責任はトレパクした参加者が負う」という記載を載せるという予防策を知った。あまりないと思うが、今後類似の事態に気付いたら「アンソロ規約にそういうこと書いた方がいいですよ」と忠告するみたいな方向に活用しようと思う。
それにしても事が済むと、あんなに社交的で、話術もあり、読書感想文の上手い人が……と思う反面、「そうなんだよあの人普通じゃなかったんだよ」という気がしてならない。そもそも初対面の時に唐突に誕生日にスタバのチケット送ってくる人だったしな……いや、でも私も好きな作家さんにamazonの欲しいものリストとかからプレゼント送ったことがあるから、同じかな……ウーン、でも何回か会った段階で直感的に「変だ」って思ったんだよなあ。どこが変とは言い難いんだけど、なんとなく、こう、違和感があったんだ。
こればっかりは長い間オタクをやっていて身についたカンに基づくとしか言いようがないのかもしれないが。
特にオチはない。みんなもトレパク案件とかには気をつけようね。
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