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FD STYLE 湯たんぽの10年

FD STYLEの湯たんぽは2014年Good Design賞受賞しているので10年経つ。取扱いを始める時は製造ロットを販売できるだろうか?とかなり悩んだ。当時の僕には(今も変わらないが)資金的な余裕が無かった。

湯たんぽを使うときは何かしらのカバーに入れるからカバーに入った状態で「湯たんぽ」では無いか?と考えた。燕三条では湯たんぽ本体に最低限のカバーをセットした製品が普通であった。堅牢なステンレス製湯たんぽを売りにしているのだから、カバーはあくまで「おまけ」でしかない。おまけのカバーにコストは掛けられない、というわけだ。

本体製造風景(ツバメテック)

新潟県は古くから糸を使った織物の産地が沢山あって、そこから発展したのかニット産地も多くあった。また、新潟市内にはニットーボー新潟(旧新潟紡績)の工場があって、そこで作られる綿糸を商品にできないかと相談があった。糸を使った産業に知識は無かったが、製糸工場やニット工場を見学させてもらいながら、グローバル化による国内産地の衰退は金属加工だけでは無いことが身近に感じられた。

自分達にも何かできるのではないか?と考えて新潟製の綿糸をニット工場で編んで作ったカバーとステンレス製の湯たんぽを組み合わせた「湯たんぽ」を作ろうと考えた。「雪国生まれの冬を楽しむ道具」をコンセプトとして完成したのがFD STYLE湯たんぽである。

それから10年の間に最初にカバーの製造をお願いしていたフォルツニットさんが2019年10月に突然の廃業。その年の受注をしており、その対応に苦心しました。そして2022年3月をもって日東紡は原糸事業からの撤退を決めニットーボー新潟は営業を終了。私達が国産の綿糸を生産者から買うことは極めて厳しくなりました。

そもそも現代の産地は原材料を供給する大手の産業があって、そこが製造する例えば燕三条なら「ステンレスの薄板」を分けて、加工して組み立てて仕上げるそれぞれの小規模事業者の集積地として機能しています。原材料は大手が高度な設備で大量に製造した極一部を、産地が手間をかけて商品にする仕組みが、世界的に独特の「日本製」として評価されているように感じます。私達は限られた一部でものづくりを行っているにすぎません。

フォルツニットさんが廃業した翌年、2020年から単純に同じものを別の工場で作ることに抵抗があり、カバーの産地を新潟県の長岡(旧栃尾)に変え、ホールガーメントという編み機を持つ白倉ニットさんでウールを用いたカバーをつくりました。糸の流通が複雑で自由に糸を使うことが難しい現実に直面しました。単純に綿糸と言っても色々あって、製造工場が近くにあって材料の綿花やその後の加工を全部見ることが出来た環境は今思えば本当に貴重でありがたいものでした。

カバー製造風景(白倉ニット)

一方で本体の湯たんぽを製造は順調です。製造するツバメテックは本来ステンレス鍋やケトルを主力にする工場です。ところが最近は湯たんぽの問い合わせが増えてるとのこと。多少は効果があるのかなぁと感じています。

製品を売っていくには、もちろん製品そのものの魅力が無くてはなりません。それと同時に、知ってもらわなければ売れる事はありません。昔は消費地である東京等の大都市圏の流通にアプローチする必要があったでしょう。現在は製品について製造の背景を知る人が直接、使っていただく人に届けることが可能となりました。

FD STYLE 湯たんぽ

10年目の今年、今まで製品コンセプトの否定になるのでやらなかった湯たんぽ単体での販売をテスト的にやってみます。ニットカバーの魅力がセットされての「FD STYLE 湯たんぽ」に変わりはないですが、ユーザーの方から「本体だけ売って貰えませんか?」との問い合わせも多く、試してみようと考えています。せっかくだから、クリスマスプレゼントに使えるような専用パッケージも作っています。12月12日発売予定です。


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