見出し画像

感 搖 句。

第2話『爪に爪なく瓜に爪あり』

 なぜにそう...。

 なにがどう...。

 いつもこう...。


 小さい頃は、楽しかった。手を伸ばせば遊び相手がすぐそこにいる。楽しく遊びもするけれど、ケンカも良くしたと思う。あまり小さい頃のことは覚えていないけど。

 幼稚園では、慣れるまで、みんなが不思議な顔をしていたっけ。

 小学校ではクラスが別だったけど、よく間違えられたし。

 中学校さえ我慢すれば、高校からはこの呪縛から解き放たれる‼️と思っていた。 

 でも、そんな簡単じゃなかった。

 私と姉は、一卵性双生児。

 幼稚園の時は、お互いに名札を取り替えっこしてなりすまして、先生を困らせて楽しかったことがあった。後から母から大目玉だったけど。 

 小学校に入学してから、そっくりだとかなんだとかからかわれたり、お揃いの色ちがいの物をもたせられたり、私はそれが嫌で抵抗した。姉はあまり何とも思っていないのか、そういうことについて、言うことはなかった。

 それに、双子とはいえ、みんな同じな訳がない。

 小さいときは似てたかもしれない。でも、今は全然違う。一緒なのは、誕生日と血液型くらい。

 姉は勉強ができたし、真面目だった。ピアノもバレエも得意で、両親も自慢の子。

 私は勉強嫌いだったし、習い事が面倒くさくて、中学ではバスケットボールをやることを理由に、ピアノもバレエもやめた。筋は良いのにねえ、とピアノの先生もバレエの先生も言ってくれたけれど、私はやめたかった。姉と比べられることをするのは、もういらない。 

 親は、姉と比べて私を責めることはなかったし、好きなことをやっていいよと言ってくれた。姉も私に優しい。

 でも、それが嫌だった。

 双子だということで嫌でも周りは比べてくる。お姉ちゃんと違うよねぇ。お姉ちゃん勉強できるし、清楚だよね?お姉ちゃん、生徒会副長でしょ?すごいよね。

 みんな、姉の話ばかり。

 野球部のヤマトと私は、同じ体育委員ということもあって、仲が良くて、たま一緒に帰ったりした。その日も、部活が終わる時間が重なって、裏門で偶然会ったから、途中まで一緒に帰った。

 クラスの話、部活のしんどさとか、英語の先生がお笑い芸人の誰に似ているとか、どうでも良いようどうでも良くないような話をしていた。

 「あのさ。」

 ヤマトが突然、真剣な目をして私を見た。

 「あの...。何でもない。」

 「そんなわけないよね。何?なに?」

 ヤマトは、ごくりと唾を飲んだ。

 「あ、おまえの姉ちゃん、彼氏いるの?」

え? ん? 姉ちゃん? あぁ、そういうこと。

 「いないと思うけど。」

 「え?マジで?姉ちゃんに俺を紹介してくんない?」

 やっぱり。ハァっと少し溜め息をついてから

 「うん、言っとくよ。」

 と私は笑顔で答えておいた。ヤマトのこと、少しは好きだったんだけどな。


 姉とヤマトは付き合ったらしいが、高校生になって、姉と学校が変わった私は、そんなことどうでも良くなって、バスケに明け暮れる日々だった。

 そんな私に、男子バスケ部の先輩が、付き合ってほしいと言ってきた。私も、入部した頃から先輩が素敵だと思っていたから、本当に嬉しかった。

 その日は、デートの約束をしていたのだが、私が熱を出してしまって、泣く泣くドタキャンとなってしまった。まさかと思っていたが、先輩が家にお見舞いといって、私の好きなアイスクリームと小さい花束を持ってやって来た。私は、解熱剤を飲んだばかりで、大量の汗をかきつつ眠っていた。

 汗だくで目を覚ますと、枕元に花束とメモがあった。

 「武藤さんという方が来てたよ。アイスクリームを置いていったので冷蔵庫に入ってる。」

 グッと熱が下がった私は、衣類と髪の毛の冷たさに、ブルルっと震えた。


 なんとなくの予感は当たって、先輩は、あの日に会った姉に一目惚れしたようだ。結局、こうなるんじゃないかって、少しは予測していた。ここしばらく、先輩は私に会うたび、姉のことばかり聞いてきたから。

 「いいですよ、別れます。今までありがとうございました。」

 泣くもんか。絶対泣くもんか。私の、私への抵抗。


 姉に話があると言われた。高校が別になってからは、あまり話していないから、何だろうと思った。

 「何?」

 「...うん。双子で良かったって思う?」

 「思うわけないじゃん。」

 姉の質問に即答する。

 「そっか...。そうだよね。」

 「お姉ちゃんはどう思ってるの?」

 私は、姉がどう思っているか聞きたくなった。

 「...私は...もっと双子であることを楽しみたいって思ってるの。」

 「楽しみたいって?」

 「学校が違うのに、入れ替わっても気付かれないとか、バイトを交代してみるとか、色違いでお揃いの格好をして出かけてみるとかするの。そして、とにかく一緒にいっぱい泣いたり笑ったりしたい。」

 私は、何も答えずにいた。姉が続ける。

 「私は、あなたのことが羨ましかった。元気で明るくて活発で。そんなあなたがみんな大好きなんだよね。ただ、良い子だって言われることが嫌だったんだ。」

 姉がそんなことを思っていたなんて。

 「お姉ちゃんは、美人で優しくてさ、頭も良い。モテるし、自慢な姉だけど、私に無いものをいっぱい持っていて、ズルいって思ってた。でも、お姉ちゃん、私のこと、そんなふうに思ってたんだ。」

 姉と私は、泣きながら笑った。

 姉は、中学校の時、実はヤマトと付き合っていなかったようだし、武藤先輩が告白したらしいが、振ってしまったようだ...もったいない気もするが。

 あれから姉と私は、わざとペアルックを着たり、時々入れ替わって、数時間だけ授業を受けたりした。

 姉は姉。私は私。

 似ているけど違う。それで良い。

もっと、ずっと

私であることを楽しみたいと思う。


 




 


 

 

 

 






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?