MEXのETH調達レートが示唆するもの (後編)
1年以上の時を経て、後編はどこですか?との声を頂戴する事が多くなったので放置されていた下書きを引っ張り出してきて再び筆を進める事にする・・・(前編はこちら)と思いきや、しばらく前にツイッターで後編に相当する内容をT.Aさんが簡潔に書いていらっしゃったので、ご本人の許可を得てここにまとめさせていただいた。
理屈の上では、最近のMEX-ETHの金利が高騰した要因は「ETHの価格上昇期待の過熱」とかではなくて単なる「ボラティリティ上昇によるプレミアム拡大」で説明できそう。2/
— T.A (@TA19344251) July 5, 2019
MEX-ETHの仕様に由来する期待値補正効果は、ETHUSDとXBTUSDの収益率の「共分散」で近似できるので、例えば
— T.A (@TA19344251) July 5, 2019
・ETHUSDの1日のボラ = 5%
・XBTUSDの1日のボラ = 5%
・ETHUSDとXBTUSDの相関係数 = 0.8
の時にETHを1日ロングすると、5%×5%×0.8=0.2%
の期待値プラス効果を享受できる。3/
ここでもしETHUSDとXBTUSDのボラが5%⇒10%に上昇すると、1日ロングしたときの期待値プラス効果は0.2%⇒0.8%に0.6%分上昇することになる。他の条件が変わらなければ、これは資金調達率を0.6%分押し上げる効果があるはずなので、要は資金調達率はボラティリティと大体同じような動きをするはず。4/4
— T.A (@TA19344251) July 5, 2019
引用ツイの導出:
— T.A (@TA19344251) February 10, 2020
1ETH分ロングした時の収益率は、
・通常のUSD決済:(P1-P0)/P0
・MEXのXBT決済:(P1-P0)/P0 * B1/B0
となり両者の差分の期待値を取ると
E[(P1-P0)/P0*(B1-B0)/B0]
と収益率の積の期待値になり、ETHとXBTの期待収益率が小さい時、共分散で近似できる。 https://t.co/nqQO1sMi4D
(P0,P1はETHUSDレート、B0,B1はXBTUSDレートを表わす。添え字の0,1はエントリー時,決済時を表わす)
— T.A (@TA19344251) February 10, 2020
ということで、ボラティリティ and/or 相関が高まるとショート側の貰いが大きくなりがちですよ、という事でした~。
より深掘りしたい人は「オプションプライシングの数理」の262ページあたりを読むと書いてあります。あと、通称ハル本の「quanto」のページにも同じこと書いてあります。
また、これを応用した取引戦略がこちら。書かれた内容そのままでは若干賞味期限切れかと思いきや、突然賞味可能な市況になったり、その後出てきた諸々のデリバティブ取引所( bybit や FTX、Deribit等 )を組み合わせたりして、面白いポジションが組めると思います。
以上っ!
--- コロナショックを受けて追記 ---
3/14日14時現在、ETH調達レートがロング側受け取りになっている。
ボラティリティは負にはならず、ETH-BTCの相関もプラスを維持していると思われるため、上述のQuantoの話だけではMEXのETHのFRがロング側受け取りになる事は説明がつかない。
かたや、BTCはロング側受けとりのプレミアムが上限の37.5bpsに張り付きっぱなしであるが、背景には (finexのレートをみた所) 現物レンディングマーケットにおける品貸し料の高騰がある。現物の空売り+先物のロング、というカーブプレイができず先物の先安感が収益化できない為、このような現象が観察されているものと思われる。
ETHも「もしQuantoでない、ストレートなPerpetualであれば」大幅なロング側のプレミアム受け取りになっており、Quantoの効果によってそれが現在の水準まで戻されている、と考えるのが自然だろう。
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