レポート:宗教者のための当事者ミーティング - 兼業住職編 -
未来の住職塾の遠藤卓也です。
5/6(水)、未来の住職塾NEXT R-2オンライン化連動企画として「宗教者のための当事者ミーティング(兼業住職編)」をオンラインで開催しました。
テーマは兼業をしながらの寺院運営について。以前は教師や公務員などの職に就かれる方が多かったかと思います。現在は兼職のスタイルも多様化している中で「職場に理解してもらえない」「平日出勤して土日を法事にあてると休みがない」など心身ともに疲れてしまっている方も見受けられます。
そこでまずは、当事者としてスピーカー参加していただた4名の方に、現在のご自坊の状況と、兼職にまつわるお悩みなどをお話しいただきました。
兼業住職によるケース発表
ケース1. 静岡県 M寺
M寺は静岡県にある単立寺院。M寺住職は都内の特別支援学校で教員を兼職しています。普段はご高齢の両親がお寺の留守番をしていますが、法務を行えるのはM寺住職のみ。土日は法事を行なうために、神奈川県の自宅から静岡県の自坊に戻ります。月に1〜2件は入るというご葬儀の時は、勤務後すぐに新幹線に飛び乗りお通夜へ。翌朝に告別式を終えたらまた東京に戻って午後から勤務することもあります。単立寺院なので、緊急時に法務を頼めるような横のつながりがありません。また、住職と教員を兼職をすることに関して、職場では「黙認」という状況。決してシナジーのうまれる兼職ではないことも悩みです。遠隔地且つ代わりを頼める人がいないことが体力的にも精神的にもつらく、自坊のこれからについてじっくり考える余裕がありません。
ケース2. 大阪府 K寺
大阪の町なかにあるK寺は、お寺だけでは経済的に成り立たないため、副住職が京都市内にあるスポーツクラブでインストラクター 兼 営業として働いています。平日の葬儀や法事は住職がつとめていますが、土日の法務は副住職もおこなうため、家族サービスが疎かになりがちなことがひとつの悩み。また会社勤めの拘束時間が長いため、お寺のこれからにつながるようなアクションを実行する暇がなく、お寺も仕事も中途半端になっていることに課題意識を持っています。しかし同時に、お寺では得られない会社での経験の貴重さも感じています。
ケース3. 新潟県 F寺
新潟県妙高市にあるF寺は代々経済的に兼職が必要ながら、会社都合で退職となってしまった現住職が、職業訓練学校で学びながら職を探している状況です。なるべく在宅ワークができるように、情報技術を学びIT系企業での就職を目指しています。しかし、住職をしながらの兼職であることを隠しておくわけにもいかないため、そのことが足かせとなりなかなか雇用先が見つかりません。檀家数は少ないため月参りを土日に行えばよいのですが、「住職と兼職」というケース自体がレアなせいか、理解を得にくい状況があります。何よりもまずは生活が安定しないことには、お寺の長期的ビジョンを描くこともままなりません。
ケース4. 滋賀県 J寺
滋賀県大津市にあるJ寺の住職は、お寺の経済的事情から兼職を前提として入寺しました。総代さんの紹介で最初に就職した会社では理解があったため、葬儀による欠勤や早退などは許してもらえるなど恵まれた環境でした。その後転職したのは近隣の寺院が運営する認定こども園。日々子どもと触れ合う職場は、J寺住職にとって僧侶としてのインプットが多く、二足のわらじが同じベクトルを向くという意味で、相性の良い兼職であるという実感も持たれています。また、滋賀県は人口に対しての寺院数が多いため、ほとんどのお寺が兼職前提で存在しているそう。お寺に関しては最低限のことしか出来ていない場合が多く「寺院を発展させる」という意味では、成り立っていると言える寺院は多くないとのことでした。
兼業を続けていくために大切にしたいこと
各スピーカーによるご発表に続いて、未来の住職塾の松本紹圭塾長と木村共宏講師が加わり、6名でトークセッションを行ないました。
住職の兼業は、家族のお手伝いや職場の理解があることが重要な要素です。ヘルプが無いことには成り立ちません。昔は教員や公務員などが兼職の定番ではありましたが、時代の変化とともに前提が変わることもあるでしょうし、必ずしもシナジーの生まれるような職種につけるとは限りません。新潟県F寺の住職のように、職場の事情で突然解雇されてしまうこともあるかもしれません。況してや新型コロナウイルスの影響下においては、尚更の不安が募ります。社会全体がどんどん厳しくなっていく中で、住職が兼業を続けていくためには、新しい工夫や更なる努力が求められてくるのでしょう。
例えば、兼業農家で苦しいところは、農業のほうから撤退する場合が多いという例が挙げられました。それをそのままお寺にあてはめてしまうとショッキングな話しですが、兼業農家の事実は冷静に捉える必要があり、お寺の場合も打開策がないのであれば、現実的には統廃合等も視野にいれければいけません。
一方で今回のスピーカーの皆さんも仰っていましたが、兼業での社会的経験は僧侶としての生き方やお寺の運営にとって、多くのインプットが得られる機会となるようです。
滋賀県J寺さんが仰っていた「二足のわらじが同じベクトルを向く」ような、相性の良い仕事が他にも色々とわかってくると良さそうですね。J寺住職が転職した認定こども園は、お寺が運営する子ども園ですが、兼業が必要な僧侶を積極的に採用されているそうです。何か事業を行なっているお寺が、兼業僧侶の雇用を生み出すという可能性もひとつの好事例といえそうです。
兼業住職の課題に対するソリューションとは?
今回の参加者の中に、「今はお寺専業でやっているが、息子の代には兼業をさせたい」と思っている方や「息子がお寺以外にやりたい仕事を持っているので、将来的に兼業となる可能性がある」という方もおられました。「兼業住職」というテーマは、ご子弟も含めたお寺全体のキャリアプランを検討・設計することにつながると感じました。壇務を効率化するなどのテクニック的な話も勿論あるのですが、よくよく考えていくと子弟教育や寺院の統廃合など、課題が多岐に及ぶことがわかりました。
未来の住職塾としては、兼業僧侶の当事者コミュニティをつくり自助・互助の力やつながりを養っていただくことや、個別具体的に「お寺のキャリア相談」のようなサポートも視野にいれ、引き続き研究を深めていきます。
また、公開したばかりの【NEXT対談:松本紹圭×木村共宏「Withコロナの寺院運営」 第4回】においても、兼業で運営している寺院の今後に関するヒントが散りばめられています。ご興味のある方はあわせてお読みください!