Case05|古き良き「お講」文化を今の光で照らしだす(黒部市 本願寺派 善巧寺 雪山俊隆さん)
※ 『地域寺院』2023年8月号「尋坊帖」より転載(文・写真/遠藤卓也)
プロフィール紹介
黒部市宇奈月町・白雪山善巧寺住職。2006年より音楽イベント「お寺座LIVE」をスタート。10周年を境にアート企画などへ展開していく。 ポッドキャストアワード2006審査員特別賞を受賞。全国の僧侶仲間と仏教チーム「メリシャカ」を結成、浄土真宗本願寺派「子ども・若者ご縁づくり」では委員として参加(2013-2018)。2013年、本堂修復事業の一環として現代アートを取り入れた内陣天井画を新調して話題を呼ぶ。現在は月2回の定例法座をはじめ、長く続く伝統行事の再起に力を注ぐ。
「お講」盛衰のただ中で
遠藤 月2回開催している定例法座「ほっこり法座」では、毎回異なるご講師をお招きして、昼食もつくのですね。
雪山 善巧寺には昔から、毎月1日と16日にお講というのがあります。お講の日は各地域の人たちが当番制でお寺に来てくれて、煮物など昔の郷土料理を作ります。本堂でお参りした後、みんなでご飯を食べるという伝統行事が根付いているのです。
遠藤 一緒にご飯を作って食べることが、土地の習慣になっているのですね。
雪山 お講にはお寺の大切な要素が全部詰まっている気がしています。みんなで仏様に手をあわせてお参りして、法話を聞いて食事もして、色んな人達とコミュニケーションする。お腹も満たして心も満たせる1~2時間のパッケージなのですよね。これが100年単位で続いてきました。しかし、ここ10年くらいで、その仕組みが維持しにくくなってしまいました。
遠藤 過疎化や少子高齢化が原因ですか?
雪山 これまで料理当番は家庭内で継承されて、次の世代が来るようになっていました。しかし現在は、次の世代となる子どもたちと一緒に住んでいないことが多く「次はあなたが行きなさい」と言える人がいないのです。参拝者も少なくなってきて、料理を作っても自分たちが食べるだけになってしまい、モチベーションもあがりません。私としてもこのままではいけないと思い、どうやったら人がくるだろうと、色々と作戦をたてました。
定例法座でコミュニティづくり
遠藤 それで善巧寺のお講を「ほっこり法座」として新装したのですね。
雪山 興味ある人なら誰でも来て欲しいという思いで、広めにPRしてみました。ラッキーだったのは最初に地元の新聞社が「若いお坊さんが、コミュニティづくりをがんばろうとしている」という切り口で取り上げてくれたのです。すると、それで興味をもった人がお一人とか二人組くらいの単位で来てくれるようになりました。
遠藤 地元の新聞は影響力ありますよね。
雪山 そうやって、ふらっと来てくれた人たちの中には何回も来る人も、一回きりの人も両方いました。要はちゃんとコミュニケーションしないと繋がらないなと、だんだんわかってきて。昔は放っておいてもお寺に集まったおばちゃん達が、終わった後に井戸端会議を始めたりして、うまくいってたんです。それがいつしか、コミュニティとしての機能がなくなっちゃったのですね。試行錯誤した結果、うまく繋がれたのは食事の場でした。みんなで食事を共にすることが、共通体験になるし、会話も生まれやすい。食事の後はコーヒーを用意するのでどうぞと促すと、半分くらいの人が残ったりして。ここではそれぞれが思いの丈をたくさん喋ってくれます。その日の法話担当の先生にも入ってもらって、一緒にアフターパーティ。
先代が遺してくれた場で
遠藤 善巧寺の門信徒会館にはカウンターが備えてあり、喫茶店のような素敵な雰囲気です。
雪山 門信徒会館は先代が亡くなる前に作って遺してくれた場所です。そこでようやくコミュニケーションが生まれだして。これでなんとなく繋がれるという体感が出てきました。しかも、月に2回もあるから。ブラッシュアップしやすいのも良かった。
遠藤 月2回はかなり忙しいですね。
雪山 でもね、やり甲斐はあって、これは誰もがわかっていることなんだけど、コミュニケーションというのがとても重要なキーだったということに気付きました。それは結局、昔は勝手にしてくれていたから。本当は自然なのが一番理想なのですが、新しくはじめたものは、ある程度うまく交通整理しないと交流は生まれないのだということを知らされましたね。そうやって、ようやく軌道にのってきたところでした。
遠藤 そこにコロナがやってきたと。
雪山 食事が要とわかったのに、出来なくなってしまった。せめてお参りとお話しはとりあえず続けて、食事はテイクアウトのお弁当を用意。でもやっぱりそれだと、大切な要素を半分失ったような感じで。
遠藤 悔しかったですね。
雪山 なんとかふんばってやろうと続けてきて、今ようやくコロナの出口が見えてきたところですが、今度は3年休んだ食事当番の方々が、再起できないという感じになっています。次はどうしていくか…。
日常とお祭りのバランス
遠藤 ここまでして続けていきたいという雪山さんの原動力とは?
雪山 もう少し若い時は年に一度のお祭りに注力していましたが、その頃はお講の良さには気づけなかったですね。ルーティーンでやるものとしか考えていなかった。でも自分も様々なことを試していく中で「定例ってすごいな」という気付きがあって。毎月とにかくお寺で顔をあわせる。仏教は、ある意味生活に馴染んでいくことが一つの理想形なので、毎月触れるのはやはり大きい。きっと昔は定期的に会っている中での集約としてお祭りだったと思うのですが、今はベースとなる定例の集いが少なくなってしまった。だから理想としては、「ほっこり法座」のような会が定着したところで、また大きなお祭りが出来たらいいですね。
遠藤 以前は「お寺座LIVE」というライブイベントで、全国各地からたくさんの人々を集めてお祭りしていましたね。再開してほしいです。
雪山 先代の頃、お寺で子どもの劇団をやっていた時代があったんです。それこそ毎週子どもが集まって、ひとつの学校ですよね。その頃は祖父がお寺のことをほとんどやっていて、父親は自由に動けたので、やれたんですよね。劇団に入っていた子たちが、現在30〜50代になっていて「お寺座LIVE」の時はスタッフをしてくれていました。先代が撒いてくれた種のおかげで「お寺座LIVE」に関しては、一発花火のお祭りという感じではなかったです。
遠藤 ベースとなるコミュニティがあったわけですね。
雪山 普段会っていない子でも、そういう行事があるからお寺に来られる。春に花まつり、夏に盆踊り、加えて音楽会もあるから、そこで集まるわけです。その子たちが力を発揮できる場としての意義付けは大きかったと思います。
遠藤 劇団というのもよかったのでしょうね。舞台に立つから、一員になれる。
雪山 それが子どもの頃の体験としてあるから、その後にも繋がりやすかったのかもしれません。
遠藤 お講、劇団、ライブという、これまでの流れが脈々とあってこその「ほっこり法座」なのですね。
雪山 「ほっこり法座」は生活の中で自然に、というのがコンセプトで「お寺座LIVE」はとにかく盛り上がる。両方やれたらもっと面白くなりますね。
あとがき
お寺で様々なイベントを開催してこられた雪山さんが「定例法座」という昔ながらの営みを大切にされている理由をききたくてインタビューをお願いしました。「お祭り」的な催しと「コミュニティ」のベースとなる催しと、両方が大事であるというお話しとして受け取りました。
コミュニティのベースとなる催しとしては、定例法座以外にも、坐禅会や祈願会やヨガ、ラジオ体操、お掃除の会でもなんでも良いです。お寺の性格にあったもので、定着しそうな内容がいいですね。(遠藤卓也/未来の住職塾講師)
善巧寺Facebooページ|https://www.facebook.com/zengyou
→ 取材以降も様々な催しを開催されています
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