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連載:お寺の女性の今、そしてこれから [1] -西村聡子さん

お寺で生活する女性のウェルビーイングを大切にするために、さまざまなお立場にあるお寺の女性のお声を共有する連載です。

第1回目のゲストは、浄土真宗本願寺派の西法寺(北九州市)「坊守」西村聡子さん。お話をうかがうホスト役は、一般社団法人未来の住職塾の松﨑香織がつとめます。

ゲストプロフィール
西村 聡子(にしむら・さとこ)
1966年、佐賀県の浄土真宗本願寺派寺院に生まれる。仏教保育の幼稚園に6年間勤務したのち、父親が亡くなったことをきっかけに1991年得度。1993年福岡県北九州市の浄土真宗本願寺派西法寺入寺。1997年西法寺坊守となる。二人の娘の母。

― 浄土真宗本願寺派の「坊守」について

親鸞聖人と妻の恵信尼が夫婦で念仏を守り広めたことから、真宗寺院では早くより住職の配偶者を「坊守」と呼称し、重要な役割を担う存在として位置づけてきました。(現在、坊守は「住職の配偶者及び住職であった者の配偶者又は住職が適当と認めた歳以上の寺族」となり、ごく少数ながら男性の坊守も存在します)

近年、宗門法規の改正を経て、それまで明文化されていなかった坊守の立場が規定上も明らかとなりました。社会意識の変化に伴い、坊守の役割も「住職の内助の功」といった家族的な分業としてではなく、主体的に寺院護持や教化活動に取り組む公的な宗教人としての態度が求められる職務である、との認識がなされ始めています。

お寺でどう生きていきたいのか、について考える機会を

松﨑
西村さんは現在、浄土真宗本願寺派の「僧侶育成体系プロジェクト委員会」(※これからの日本社会で求められる僧侶、住職や坊守の育成体系創出にかかる具体策を策定する委員会)の「坊守専門部会」の部会長をされています。

西村
坊守式研修に参加された方々の思いに触れていると、みなさんそれぞれのお寺で一生懸命に頑張っていらっしゃることがよく分かります。誰もが、「自分も周りも、より良く生きられるようになりたい。自分のいるお寺を良くしたい」と思っているんです。

でもその一方で、「自分は一体お寺で何をしたら良いのだろう。何のためにここにいるのだろう。」と自問自答しながら日々を過ごしているのだということも感じます。

坊守のための研修機会が、お寺で自分はどう生きたいのかについて真剣に向き合い、やりがいを見出す時間になれば、と思っています。

松﨑
お寺を留守にできないという坊守さんも多いですね。

西村
はい。そのため、自分もそうなのですが、外からの情報や社会情勢にも疎くなりがちで。「もっと外にも目を向けましょう」と言うのは簡単でも、実際にはそうしたくても難しいということが少なくありませんので、宗派から提供されるオフィシャルな機会はとても貴重です。

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◉ 性別を超えて活躍できる社会へ向かって

松﨑
宗門の責任ある立場の役職に女性は少ないですから、坊守専門部会のように西村さんが発言できる機会を持たれているというのは大切なことですね。

西村
坊守の大多数は女性ですので、家庭の奥さんが社会から望まれてきた役割がそのまま坊守にも引き継がれていて、「縁の下の力持ちとして住職を立て、目立たないよう一歩下がる」といった文化はまだまだ根強いと感じます。

松﨑
地域によっては、人前で自由に発言したり振る舞ったりすることがいまだに難しい状況にあると聞きます。

西村
「お寺は坊守でもっているようなものだよ」とか、「これからの時代、女性にはもっと前に出てもらわないと!」と言われながら、一方で「女のくせに」と言われることもまだまだあるようです。そのような中で、無意識に「女なのだから」と自分を押さえ込んでいってしまうところがあったりして。私にも自分から遠慮している面は大いにあると感じます。

松﨑
性別で役割を決められることなく、「これが私の役割だ」と自分から思える社会になっていくといいですよね。今はまさに過渡期なのかもしれません。

西村
いきなりこれまでと異なることをしようとしても、その温度差に周りがびっくりして、その結果、思わぬ反発を招いてしまうことも少なくないように思います。ですので、まずは自分のお寺のこと、そして関わっている人たちのことをよく知って、じっくり話しながら信頼関係を築いていくところからじわじわと始めることが大切だと感じています。そこから色んなことが変わっていくのではないでしょうか。

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◉ 自分のお寺を知り、自分の軸をもつ

松﨑
西村さんが、一歩踏み出そうと思われたきっかけはどのようなことでしたか?

西村
以前は、外から色々なことを学んで帰ってきては嬉々として語る住職の話を、子育てで忙しかったということもあり、「また住職が何か言い出した」なんて思いながら聞いていました。でもある時、ご門徒さんからお寺の護持費について質問されたことがあって。私、うまく答えられなくて、「坊守は分かってないからね」と言われてしまいました。その時、自分がとっても恥ずかしくって、たまらなく情けない気持ちになったんです。「坊守」と言われながら、私は何も知らないし分かってないんだな、って。それは自分がお寺と真剣に向き合ってこなかったからだ、と強く思いました。

そして、私も住職と同じ景色を見なきゃいけない、と痛感したんです。自分はここでどう生きたいのか、何ができるのか、じっくり考える機会が欲しいと思いました。

松﨑
それで思いきって、積極的に行動しようと思われたんですね。

西村
私の場合は「未来の住職塾」がそれをする場所になってくれて、クラスの仲間たちとたくさん語り合って学びながら、自分やお寺についてじっくり考える機会を得ました。ビジョンがだんだんはっきりしてくると、お寺での活動も楽しくなって、ご門徒さんとともに歩む喜びを感じられるようになりました。最初は「住職と足並みを揃えたい」との思いでしたが、学びを終えてからは、「自分自身は、どうしたいのか」という自分の軸をもつことも、とても大事なのだと気づきました。

住職ともいろんな話をするようになり、私を否定せず受けとめながら話を聞いてくれています。私も相手を否定せずに受けとめる。そうしていると、ずっと前からほとけさまは私をありのままに受けとめてくださっていたんだ、ということにも、ふと気づかされるんです。

松﨑
お寺での活動が充実することで、宗教的な気づきにもつながっていったんですね。

◉ ほとけさまの価値観で生きる

西村
お寺で生活しながらも悩んで苦しくなったり、嫉妬したりしてしまう日々です。それでも、お寺には何か生きるヒントがあるはずだ、とずっと思いながら生きてきました。やっとここ何年かで、それを実感できるようになってきたと思えています。

気づけばすぐに損得や世俗の物差しでものごとを見てしまう自分だけれど、全てを知って受けとめてくださるほとけさまに見守られているこのお寺で、私は私のままに進んでゆけたら。世俗の物差しに苦しみ生きづらさを感じている方々が、ほとけさまの価値観のなかで安心して生きるお手伝いをしたいと思っています。

松﨑
今日は貴重なお話しをたくさん聞かせていただき、ありがとうございました。

―世界経済フォーラムが毎年公表しているジェンダーギャップ指数(男女格差ランキング)において、2019年の日本は153か国中121位となり、過去最低を記録しました。依然としてOECD諸国の最下位を争っている現状があります。

政治や企業、教育機関などあらゆる組織において意思決定の権限を持つ女性の数が極めて少なく、人権や福祉、教育や労働の機会など、あらゆるところに女性への抑圧問題は存在します。そして、それは残念なことに、お寺の世界も例外ではありません。ほとけさまの価値観で話し合い、お寺からより良い社会をつくっていくことができたら素晴らしいですね。

この連載記事は、大正大学地域構想研究所BSR(Buddhist Social Responsibility)推進センターが毎月発行する『地域寺院44号・45号』に掲載されました。
地域寺院は、これからの地域社会に必要とされる寺院の在り方を探る情報を発信する月刊誌です。
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インタビュアー・プロフィール

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松﨑香織:一般社団法人未来の住職塾 理事。米国Fish Family財団 JWLI (Japanese Women’s Leadership Initiative)フェロー。役員秘書として銀行の経営企画に携わったのち、ロンドンの非営利組織にてマーケティングに従事。2014年より未来の住職塾ならびに塾生コミュニティ(現在約650名)の運営に携わる。全日本仏教会広報委員会委員、WFB(世界仏教徒連盟)日本センター運営委員会委員。


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