未だ遠い炭酸。

夏になると炭酸飲料のCMがやたらと目に着くように思う。
シンプルな炭酸水にコーラにサイダー。
大人に向けてはビールなど、炭酸が入った飲み物というのは世の中にたくさん存在している。


最近はレトロブームに乗っかってシロップやフルーツなどで彩られたカラフルで個性的なクリームソーダの写真がSNSに並び、それを見ているとファッションショーのランウェイを見ているような気持ちになる。


私といえば、炭酸は苦手だ。
20数年の人生を生きてきて、手軽にどこでも手に入る500mlのペットボトル入りの炭酸飲料を自腹で買ったことが1度もない。

炭酸が好きな人間からすれば、一体何がそんなに苦手なのだと聞きたくなるだろう。
炭酸のアイデンティティを全否定することになってしまうのは申し訳ないが、あのシュワシュワ感こそが苦手なのだ。
舌から喉にかけて、小さな短い針でチクチクと刺されているような刺激に耐えられないのである。

それでも、時々なぜだか無性に挑戦してみたい気持ちになる。

別に無理する必要も無いのに無視できないのは、私が勝手に『炭酸を飲める人間は人付き合いが上手い気がする』という何重にも飛躍したよく分からないイメージを持っているからである。

もちろんその限りでは無いのだろうけど、どうしても私の中で炭酸が飲める人というのは友達が多い気がするのだ。
それが身近な友人か、ネットなどで繋がっている遠くの友人であるかは問わない。
とにかく、外部の人間との交流が多いようになんとなく漠然と思うのである。



背伸びをして、手始めに買い置きされていたカルピスソーダに手を伸ばしてみる。
苦手な炭酸とはいえ、これはカルピス。
子供の頃から夏を私と共に生きてくれた慣れ親しんだ味。

意を決して、500mlペットボトルの3分の1程をグラスに注いでいざ勝負。
飲み始める。
だけどやっぱり、口が痛い。
普段のカルピスでこの量なら5分とかからず飲み終わるところを、15分もかかってしまった。
何度勝負を挑んでも結果は同じなのに、私はそれを忘れたフリをしてまた挑戦する。


今年の夏も炭酸のある世界は未だ遠い。
来年の夏こそ、炭酸のチクチクとした刺激もそれに似た人と関わり合う中で生まれる刺激も全て爽やかな喉越しだと感じられる人になっていたいと私は1人残ったカルピスソーダのボトルを見つめて思う。(了)

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