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ジェンダーレス装備を追い求めて

昨今は各方面でジェンダーフリーが推し進められており、ウン十年前に比べれば、出生時の性別によって180度運命が変わってしまう…なんてことも、マシになってきたことだろう。

しかしながら。冠婚葬祭というものは、未だ融通の効かないものだ。

別に自分は、伝統行事等にありがちな女人禁制だとかを批判する意図はない。
強いていえば、問題は”婚”と”葬”ぐらいだ。

主役以外の大勢の人間までも、日常とはかけ離れた厳しいドレスコードが求められる。それは皮肉にも、男女二元論の世界。
仮に主役が「どんな服で着てくれてもいいよ」と言ってくれたところで、Tシャツにジーンズで行けば「白い目で見られる」オチである。
いくら自分が異端者扱いされることにあまり抵抗がない方とはいえ、他者が主役かつ重要度の高い儀式において、そこまでの暴挙に出る勇気はない。

自分は、女性の装いができない。
スカートやワンピースが無理なのは勿論、装飾品や化粧、レース等のついた服やふんわりしたシルエットの服、踵の高い靴、全てにおいて苦痛を伴う。

例外として、「ふざけている場合」はできるのかもしれない。でも普段だったら、ましてやフォーマルな場となれば絶対に無理だ。
この心境を例えるなら、「宴会芸として女装する分には別に苦ではないかな〜」という男性が、結婚式や葬式に女装して行けるか?という話だ。

断っておくと、自分は「男性になりたい」わけではない。
界隈のアルファベットを使うなら「Q」だ。何でもありでややこしくてよく分からないやつ…ということにしておこう。
過去には「自分はビジュアルが悪いから、女性装が苦痛なんだ」と考えていたが、Qの概念に出会ってからは、卑屈だった思考回路が少し改善された。
まあ、心の状態は改善された分、「嫌々ながらできた」女性装が「ほぼできなくなった」のだが。

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さて、心の持ちようを改善したところで、冠婚葬祭の場になればハードルは高い。
「いつか、自分が結婚式や葬式に呼ばれることになったら…」なんて、想像するたびに憂鬱だった。
幸いながら、自分は二十代後半にして近しい親族は全員元気で、近しい友人で挙式した人もいなかった。

…いなかった。

今年に入り、学生時代のとある友人から、挙式するとの知らせを受けた。
幼少期を除き、記念すべき初お呼ばれである。
とうとう、逃げ続けてきた問題と直面する時が来たのである。

友人を祝いたい気持ちは存分にあるのに、服装絡みの憂鬱な思いがそれを陰らせた。
「いっそのこと、招待を断ってしまおうか」なんて考えすらよぎった。
でも、自分としては断るべきではないと考えた。

第一に、先述の通り「友人を祝福する」気持ちが確かなものであること。
第二に、今後同じような場面に度々遭遇すると考えられること。

自分には下の兄弟がおり、仮に将来挙式するともなれば、親族として欠席する理由が立たない。
一瞬「海外赴任しているていにして、ビデオレターでも送りつけるか」なんて考えたが、そもそも両親が許すわけがない。…というか自分のビデオレターなんて誰得だよ。

ごちゃごちゃと考えたのち、その友人には「参加」の返事をした。
行動に移すためにも、後戻りできなくすることは重要だと思った。

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まずは、服装選びの取っ掛かりを探すため、Google先生を頼ってみた。
特にトランスジェンダーの人で、似たような悩みを抱える方はそこそこ見つかった。
しかし、彼らは自分のようなどっちつかずの存在ではなく、れっきとした男性だ。ネクタイを締めて、男性の正装をしているようだった。
男性装に全振りするのも一瞬は考えたが…残念ながらメンズを着こなすには、自分は背が低すぎるし、全身の豊かな肉付きが何ともそぐわない。

気を取り直して、次は「結婚式 ジェンダーレス」等で画像検索をかけてみた。
主役の衣装が色々とヒットした。
いやいや、自分はただのいちお客なんだよ。

更にたどっていくと、数はそんなに多くないが、中性的な服装がちらほら見えた。
…これを着ている人たちは、みんな宝塚の男役なのか?
スラっとしたいでたちに、ベリーショートが似合っている。
…ああ!やから自分は背が低くて太ってるからこんなん着れへんねんって!


ネットだけを頼りにするのは難しいと判断し、次は実物をもとに何か解決策を考えようと思い、近場のショッピングモールのスーツ売り場付近を徘徊してみた。

"うーん、この区画はがっつりメンズしか取り扱ってないな…"
などと思いながら歩いていたところ、ふとした合間に、女性用のパーティードレスの売り場が目に入った。

もし自分が、何の苦もなくこんな服を着られたら、何もここまで悩むことはないのに。
他のみんなは、何の苦もなくこんな服を着て、むしろ「お呼ばれコーデ」なんて言って楽しんでいるぐらいなのに。
そこらの人間には当たり前にできることが、自分にはできない。
心が理屈に追いつかない。悲しいや苦しいを通り越して、自嘲せずにはいられなかった。


更に気が落ち込んだので、頼れるものは頼ってみよう精神で、次は職場にたまに来る心理士の先生に相談することにした。

今となっては、話の全容は思い出せない。
中高生の頃から悩んでいたのか。家族や友人には話せているか。これまでの式典とかは乗り切れたか。そんな話だったと思う。

心理士の先生に服の相談をするのは少し無茶だったか…とも思ったが、話の中で「大学の卒業式に自作コスプレ衣装で参加した」エピソードになり、何故か先生はツボにハマったようで、大ウケしてくれた。

「袴を着るのが普通みたいな風潮がある中、あなたは自作コスプレで卒業式に行って、結果として楽しむことができた。あなたはそうやって、一見気の乗らないシチュエーションでも、自分なりの方法で楽しんでいくことができる人なのだと思う。今回の結婚式についても、例えば”服装を探すことを楽しんで”みてはどうかな?

自分は服屋に着ていく服がない系の人間なので、このアドバイスは斜め上すぎるように感じた。
にしても、ちょっと褒め過ぎではないだろうか…カウンセリングの場というのは、良いところを見つけて褒めるのが基本方針なのだろうか。くすぐったい気分だった。
でも、大学の卒業式の楽しい思い出と結びつけられたこともあってか、少し元気になれた。
ありがとう、心理士の先生。

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数週間後、意を決してスーツ販売店に行ってみた。

手の空いていそうな店員さんに声をかけ、「結婚式に行ける服を探しているんですけど、個人的に女性らしいスタイルが苦手でして」などと簡単に希望を伝え、探すのを手伝ってもらった。

ジャケット、パンツ…とそれぞれ数着出してもらいながら、ワイドパンツは苦手だの装飾品はつけたくないだの、面倒な注文をつける客になっていたが、ようやく着られそうな組み合わせが見つかった。

試着してみても問題なし。
全身レディースだが、案外着地点は見つかるものなのかもしれない。
LLサイズのパンツでも腹囲がキツいのはさておき。

うん、INVOKEのモノマネができそうな色合いだ。

「消えそ〜うな〜コトバじゃ〜」の辺りの西川兄貴
「じっと瞳を懲らしても」の辺りの西川兄貴

これに決めた!

10万近くになっても受け入れる覚悟でいたが、既製品で納得のいくものを見つけられたお陰で、服の部分は4万強で済んだ。

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これだけ思い悩んできたこともようやく解決の兆しが見えて、帰路の足取りはとても軽くなった。

しかし、これで全て終わりではない。まだ靴と鞄を検討する必要がある。
就活の時にパンプスが嫌で買ったなんちゃって革靴(Amazon3000円)をそのまま履いていくわけにはいかない。
雨風に晒され酷使されまくっているリュックを背負っていくわけにはいかない。

幸い、当日までまだ日にちはある。服が決まっていればきっと話は早い。
引き続き、上記2点は探していこうと思う。

当日の自分は、仕事行きそうなスーツ着てるわ、素顔でアクセサリーの1つもないわ、髪型は普段のまま、革靴履いてるわ、周囲の女性陣とのあまりの違いで、もしかすると目立ってしまうかもしれない。

でも、あくまで当日の主役は招待してくれた友人だ。
一番大切なのは祝福の思いであり、友人もきっと受け取ってくれると思っている。


どうか、当日が素敵な一日になりますように。

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