僕はただ天井のシミを数える
第1話
「俺は天井を見上げる」
仕事を辞めた
もともと好きな仕事ではなかった
5年前、Fラン大学に入学した俺は貴重な学生
時代を怠惰という名の甘い果実として貪った
授業に出席し、家に帰れば自慰して寝る
本当にただそれだけの4年間
友人と呼べるのは薄暗いPCモニターの奥にいる名前も知らないクズ共だけ
こいつらとたまに戯れては酒を飲み心を
磨耗させる
そんな大学時代だった
そんな俺が就職し社会でやっていけるはずなどない
ただ生活のために小金を稼ぎ、加齢臭漂う
汚ならしい豚に頭を垂れるだけの毎日
学生時代に自分の人生に必要な価値ある何かを探しだせなかった俺だ
ブタに頭を下げてまでする労働に価値なんて
見いだせるはずもない
日々募るストレス
そしてなぜかさらに空虚になる心
それらが己の限界を超えた時
俺の足は駅とは逆の方角へと向いていた
────────────────────
無断欠勤から数週間後
退職代行を雇い無事無職になった俺は
自室のベッドでただひたすらに天井を見ている
これから何をするべきか
何を俺はやりたいのか
その答えは今の俺にはとても出せそうにない
チクタク、チクタク、チクタク…………
時計の針が奏でる無機質な音色
なんてことないはずのその音がなぜだろう
今の俺には
とても
煩わしく─────
時計を破壊してから数時間
時間という概念から解き放たれた我が家は
とても静かで孤独になった
この孤独が愛おしい
誰にも干渉されることもなく
ただ一人で意味のない時間を過ごせる奇跡
今はこれを噛み締めるとしよう
「さて、まずは何をしようか……」
考える
考える
考える……
しかしどうも腐った俺の脳ミソでは建設的な
答えは出てこないようだ
仕方あるまい
俺は再び横になり天井を見上げる
わずか6畳程度の面積しかない天井は今の
俺には宇宙のように広く感じられる
ひとつ…ふたつ…みっつ……
頭の中で宇宙に散らばる惑星のような
俺のいつまでたっても形成しきらない
自我のような
そんな天井のシミを数え出す
羊の変わりだ
シミでも数えてればそのうち眠気が俺を
現実世界から連れ出してくれるだろう
今はそれでいい
それでいいはずだ
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