交代群の単純性の(おそらく)最速の証明
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今回証明するのは以下の定理である
この定理の証明は数多く存在するが,どれも多くの補題を証明しなければならず,それを追うのは大変である.$${\;}$$しかし先日,簡潔な証明を発見した.$${\;}$$私が知る限りこの証明は最速である.$${\;}$$ちなみに,これは大学の友人が考えたものを,私が改良したものである.$${\;}$$その友人に許可を得て本稿を執筆した.$${\;}$$この場を借りて感謝する.
本稿のレベルは数学科の大学$${1}$$年生を想定している.高校数学に加え群論の基礎を前提とする.具体的には以下の知識が分かっていれば読めるだろう.
本稿の前提知識
群の定義
部分群
部分群の生成
部分群がある部分集合を包含するならば,その部分集合によって生成される群も包含すること
対称群
置換
互換
巡回置換
任意の置換は互換の積でかけること
偶置換,奇置換
交代群
共役
置換の組が$${S_n}$$において互いに共役であることと, 置換の型が同じであることは同値であること
正規部分群
正規部分群がある元を要素に持つならば,その共役も全て要素に持つこと
単純群
本稿の用語
$${1}$$以上$${n}$$以下の自然数の集合を$${[n]}$$とかくことにする.
本稿では,「自明な部分群」とは単位元のみで構成された部分群のみをいうことにする.
証明
$${\sigma \in A_n}$$を任意にとる.$${\;}$$$${\sigma =\tau_1\cdots\tau_r}$$と互換の積で表す.$${\;}$$$${\sigma}$$は偶置換なので$${r}$$は偶数である.$${\;}$$すなわち$${\sigma}$$は$${\tau_1\tau_2, \tau_3\tau_4, \cdots}$$のように「互換$${2}$$つの積」の積でかける.$${\;}$$互換$${2}$$つの積は以下のように$${3}$$次の巡回置換の積でかける
$$
\begin{array}{}
(ab)(ab)&=& (123)(132)\\
(ab)(bc) &=& (abc)\\
(ab)(cd) &=& (abc)(bcd)
\end{array}
$$
従って$${A_n}$$の任意の置換は$${3}$$次の巡回置換の積でかける.
証明
$${3}$$次の巡回置換の組$${\sigma , \sigma' \in A_n}$$を任意にとる.$${\;}$$$${\sigma , \sigma'}$$は$${S_n}$$で共役なので,ある$${\tau \in S_n}$$が存在して$${\tau \sigma \tau^{-1}=\sigma'}$$が成り立つ.
(i) $${\tau}$$が偶置換のとき
直ちに$${\sigma}$$と$${\sigma'}$$が$${A_n}$$で共役であることが分かる.
(ii) $${\tau}$$が奇置換のとき
$${\sigma'=(abc)}$$として構わない.$${\;}$$$${n \geq 5}$$より$${d,e \in [n] \backslash \{a,b,c\}}$$をとれる.$${\;}$$$${\tau' =(de)\tau}$$とおけば
$$
\tau'\sigma\tau'^{-1} = (de)\tau\sigma\tau^{-1}(de)^{-1} = (de)(abc)(de)=(abc)=\sigma'
$$
$${\tau'}$$は偶置換なので$${\sigma}$$と$${\sigma'}$$は$${A_n}$$で共役である.
証明
ここでいくつかの表記を導入する.$${\;}$$置換$${\sigma}$$に対し$${M_\sigma \coloneqq \{ x \in [n] \;|\; \sigma(x) \neq x \}}$$とおく.$${\;}$$$${A_n}$$の部分集合$${S}$$に対し$${l_S \coloneqq \min\{ |M_\sigma| \;|\; \sigma \in S \}}$$とおく.$${\;}$$$${|M_\sigma|=l_S}$$なる$${\sigma \in S}$$を$${\sigma_0}$$とかくことにする.
$${N}$$を$${A_n}$$の任意の自明でない正規部分群とする.$${\;}$$$${N'=N\backslash\{(1)\}}$$とおく.$${\;}$$$${l_{N'}\geq3}$$は自明である(なぜなら,$${\;}$$$${|M_\sigma|=0}$$なる$${\sigma}$$は$${(1)}$$のみであり,$${\;}$$$${|M_\sigma|=1}$$なる$${\sigma}$$は存在せず,$${\;}$$$${|M_\sigma|=2}$$なる$${\sigma}$$は奇置換だからである).$${\;}$$ここで$${l_{N'}=3}$$を証明できれば,補題$${3}$$が証明されるわけである.$${\;}$$そこで$${l_{N'}>3}$$と仮定して矛盾を導こう.
(i)$${l_{N'} =4}$$のとき
このとき$${\sigma_0}$$は偶置換なので$${(2,2)}$$型しかない.$${\;}$$$${\sigma_0=(ab)(cd),\; \tau=(cde)}$$とすれば,
$$
\tau\sigma_0\tau^{-1}{\sigma_0}^{-1} = (ced)
$$
$${\tau\sigma_0\tau^{-1}{\sigma_0}^{-1} \in N'}$$なので,これは$${\sigma_0}$$の最小性に矛盾する.
(ii)$${l_{N'}=5}$$のとき
このとき$${\sigma_0}$$は偶置換なので$${5}$$次の巡回置換しかない.$${\;}$$$${\sigma_0=(abcde),\; \tau=(cde)}$$とすれば,
$$
\tau\sigma_0\tau^{-1}{\sigma_0}^{-1} = (acd)
$$
$${\tau\sigma_0\tau^{-1}{\sigma_0}^{-1}\in N'}$$なので,これは$${\sigma_0}$$の最小性に矛盾する.
(iii)$${l_{N'} \geq 6}$$のとき
$${a \in M_{\sigma_0}}$$を任意にとり$${b = \sigma_0(a)}$$とおく.$${|M_{\sigma_0}|\geq 6}$$より,$${c \in M_{\sigma_0}\backslash \{ a,b,{\sigma_0}^{-1}(a) \}}$$を選べる.$${d=\sigma_0(c)}$$とする.$${\;}$$$${|M_{\sigma_0}|\geq 6}$$より$${e \in M_{\sigma_0}\backslash \{ a,b,c,d,\sigma_0(d) \}}$$を選べる.元の選び方より$${a,b,c,d,e}$$は全て異なる.$${\;}$$$${\tau=(cde),\; \sigma' = \tau\sigma_0\tau^{-1}{\sigma_0}^{-1}}$$とする.
$$
\begin{array}{}\sigma'(\sigma_0(d)) &=& \tau\sigma_0\tau^{-1}{\sigma_0}^{-1}(\sigma_0(d))\\&=& \tau\sigma_0\tau^{-1} (d)\\&=& \tau\sigma_0 (c)\\&=& \tau(d)\\&=& e\end{array}
$$
であり,$${\;}$$$${e}$$の定義から$${e \neq \sigma_0(d)}$$より$${\sigma' \neq (1)}$$,$${\;}$$よって$${\sigma' \in N'}$$
$$
\begin{array}{}\sigma'(b) &=& \tau\sigma_0\tau^{-1}{\sigma_0}^{-1}(b)\\&=& \tau\sigma_0\tau^{-1} (a)\\&=& \tau\sigma_0 (a)\\&=& \tau(b)\\&=& b\end{array}
$$
より$${b \in M_{\sigma_0} \backslash M_{\sigma'}}$$である.$${\;}$$$${\tau}$$の選び方から$${M_{\sigma'} \subset M_{\sigma_0}}$$$${\;}$$よって$${|M_{\sigma'}| < |M_{\sigma_0}|}$$.$${\;}$$これは$${\sigma_0}$$の最小性に反する.
以上により背理法から$${l_{N'}=3}$$なので,補題$${3}$$が証明される.
証明
$${N}$$を$${A_n}$$の自明でない正規部分群とする.$${\;}$$補題$${3}$$より$${N}$$は$${3}$$次の巡回置換を要素に持つ.$${\;}$$補題$${2}$$より$${N}$$は$${3}$$次の巡回置換の全てを要素に持つ.$${\;}$$補題$${1}$$より$${N=A_n}$$である.
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