俺の前世は、おじいちゃん(5)
おはよう。スピリチュアルネイティブのタケルです。
朝ドラに田中真弓が出てきてびっくりだ。あんな朗らかに「受け入れちゃいなさい」って言われたらうっかり思考停止してしまうよな。
さて、今日も前回の続きから。
ここまでの流れをざっくりと
依然、頑なな態度を崩さない曽祖母。あたりの空気はずんと重たい。俺はふと思いついたまま、口を開いた。
タケル「大ばーちゃん、慈愛ってわかる?」
大ばーちゃん「慈愛? なんだそれは」
タケル「いや、俺もふとその言葉が思いついたんだけど…そうだよね、慈愛ってなんだろうね」
俺も言っておきながら、慈愛ってよくわからない。広辞苑によれば「いつくしみ愛すること」とある。俺は、慈愛、と発音した自分の声を反芻しながら、ふと、以前に広隆寺で見た、弥勒菩薩を思い浮かべていた。
俺は仏像が下の方を見て、薄く微笑む目が、まるで小さな子を見守る母親みたい、と思ったんだ。
タケル「俺、前に寺で、綺麗な仏像を見たんだ。弥勒菩薩っていうの。それを見てたら、慈愛ってこういう感じなんだなって思ったんだよ」
大ばーちゃん「どういう感じなんだい」
タケル「言葉で説明するのが難しんだ。今、俺が弥勒菩薩を通して感じた気持ちを、大ばーちゃんに送るね」
そう言って俺は、記憶の中にある弥勒菩薩の印象や、見ているときに浮かんだ温かで静かな愛情のようなものを、じっと胸に思い出す。それを、大ばーちゃんにも感じてもらった。頭の先からつま先まで、温かなお湯をかけられているような感覚がして、それが曽祖母にも伝わっているのが、あたりの空気の振動でわかる。
タケル「これが、俺の感じたことのある、慈愛。どう?」
大ばーちゃん「あったかい。こんなあったかいもの、なんか懐かしい」
少しすると、張り詰めていた空気が一変した。「しっかりしなきゃ!」と気張っていた曽祖母の頑なさが取れて、いつの間にか、まるで小さな娘みたいにつるんと軽くなっている。俺が弥勒菩薩を通して感じた慈愛の力が、大ばーちゃんをすっぽり包んで、彼女が背負っていたプレッシャーを溶かしたみたいだ。
曽祖母「ああ」
突然、曽祖母の気配が震えた。
曽祖母「ああ! 悪かった、ごめん、ごめんなあ、祖父。私は、家を守ろうとするあまり、なんて心が狭くなっていたんだろう。守ろうとすればするほど、私はあらゆるものを弾いて、結果的に家の中をぎゅうぎゅうに締め付けてしまっていたんだ」
これを聞いていた祖父の気配が、途端に広がり、強く震えている。あ、じーちゃん泣いてる、と俺は思った。
曽祖母「悪かった、なあ、悪かった! 私は自分の弱さを噛み潰したかったんだ。それがいつの間にか、あの時家で1番立場の弱かった、祖父に向いてしまったんだ」
タケル「じーちゃんに、弱い自分を投影してしまったってことかな?」
曽祖母「そう。弱くちゃ家は守られない。だから強くないといけない。でも強くなろうと踏ん張ったら、自分の中にあった弱い気持ちまで、全て追い出してしまった」
タケル「なるほど……俺に『慈愛』って言葉が浮かんだのは、そのためなんだね。大ばーちゃんは、自分が強くなろうとするあまり、弱い者を思いやり、慈しむ『慈愛』の気持ちまで追い出してしまったんだね。それは大ばーちゃんにとっても、すごく辛いことだったね」
曽祖母「慈愛の気持ちを、子孫の心からもう一度思い出させてもらえた。そのことが私はありがたくて、嬉しい」
祖父「オカアサン、オカアサン、ごめんなさい。オカアサン」
曽祖母「ごめん、ごめんなあ、祖父。ごめんなあ」
祖父が、素直に両手を伸ばして曽祖母に近づいていく。曽祖母が、まっすぐそれを受け止め、祖父を抱きしめている。それを感じている俺の心が、まるで氷が溶けていくみたいに癒され、滂沱の涙となって溢れ出す。
ーーその後、二人の気持ちがしっかりと落ち着いたところで、それぞれの霊に、いったんお引き取りいただいた。俺は窓を開け、新鮮な空気を入れ、手を洗い、うがいをした。びっくりするくらい涙まみれになっていた顔を、しっかりと洗い流す。
なんとか二人が和解してくれて、俺はひとまずほっとした。これは後になってわかったことだが、実は曽祖母の旦那さんは早くに亡くなっている。俺は2年前のこの日の時点ではそれを知らなかったのだが、夫に先立たれて、家を守らねばと躍起になっていた曽祖母のプレッシャーを思うと、曽祖母があれほど頑なになっていた理由が、よくわかった気がしたんだ。
さて、次にやるべきことは、ある日突然置いてけぼりにしてしまった祖母への謝罪だ。
続きます。
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