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視覚的でセンセーショナルな「人間」展示が行われた衛生博覧会

『ドレスデン国際衛生博覧会日本館展示目録』 1911年 ドレスデン刊
Katalog der von der kaiserlich Japan. Regierung ausgestellten Gegenstände. Mit Plan und Bildern. Kaiserlich Japan. Pavillon. Internationale Hygiene-Ausstellung Dresden 1911, Dresden, 1911. <R23-149>
8vo(22.5x13.5cm), 1-15, 1-20, 1-39, 1-115, 1-63, 1-48, 1-32, 1-24, 1-63, 1-36, 1-36, many plates, original wrapper, one folding plate, top and bottom of spine torn, foxing throughout pages, some highlights and notes, Ex-libri, book plate on front paste down endpaper

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ドレスデン国際衛生博覧会は1911年5月6日から10月31日まで、ザクセン王国の首都ドレスデンで開催された文字通り衛生をテーマとした博覧会でした。ヨーロッパだけでなく、中国やブラジルも含めて合計で12か国の参加があり、来場者数も500万人と万国博覧会並みの記録を出しており、20世紀で最も成功を収めた個別テーマの博覧会と言われています。

日本館入り口

日本も1884年のロンドン万国衛生博覧会続きこのドレスデンでの衛生博覧会への参加を決定し、北里柴三郎の弟子で寄生虫学者であった宮島幹之助が出品を取り仕切りました。

毒のある魚

ドレスデン国際衛生博覧会が博覧会として成功を収めた要因は、衛生学の専門家向けに特化するのではなく、20世紀の万博に多く見られるようにスポーツ、余暇、電飾、アトラクションといった娯楽性を前面に押し出したことにありました。もちろん単なる娯楽性の追求だけでなく、この博覧会の本来の目的である一般来場者にも衛生に関する知識を啓蒙することを目的として、強く視覚的に訴える展示物を多用した大衆向けの「人間」展示館の設置が行われました。

日本館の生き人形展示。当時の日本の中間層の家族をモデルにしていたといわれている

とりわけ人間の心臓を再現したオブジェ、微生物を観察できる顕微鏡、病気の患部を再現した医学的な蝋製の人体標本であるムラージュなどが博覧会来場者の関心を引くとともに、そのリアルかつセンセーショナルな展示が大きな話題となり、博覧会成功の牽引役となりました。

軍隊と衛生

本カタログにおいて確認できる日本館での展示内容は、A:空気・土壌・気候、B.住居・給水・火葬、C:栄養・食料、D:衣服・身体衛生、E:伝染病、F:疾病予防・職業・統計、G:児童福祉・学校衛生、H:医学史、I:陸海軍、J:台湾という多岐にわたる構成になっています。各章とも専門家による詳しい説明文に加えて、冒頭にはそれぞれの分野での特筆すべき展示物の写真プレートが付されており、衛生学的な見地は勿論のこと、日本の民俗学や社会科学的な見地を文字情報とともに視覚的にも知ることができるようになっています。

日本館外観

なおドレスデン国際衛生博覧会で話題となった「人間」展示館でのリアルな展示品に関連して、日本からはD:衣服・身体衛生とG:児童福祉・学校衛生の分野で、三越呉服店より提供された和装を施した生人形の展示が行われ、日本人の家族や生活様式を具体的に示そうという試みが行われました。日本館の展示においても、本国際衛生博覧会での展示方針と同様に、専門的であるとともに視覚的なリアルさをもって訴える展示手法がとられていたことがうかがい知れます。

学校衛生での生き人形展示。本博覧会で展示された生人形は、第二次世界大戦末期のドレスデン大空襲の被害を逃れて、ドレスデン衛生博物館にて現存している。

参考文献:
村上宏昭「衛生のアミューズメントパーク ドレスデン国際衛生博覧会(1911年)の啓蒙戦略」、『歴史人類』 44巻 2016年 81-105頁
石原あえか「近代医学と人形 : ドレスデン国際衛生博覧会 (1911) に出展された日本の生人形と節句人形」、『東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻紀要』 21巻 2014年 29-42頁

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