スパイダーマン:ファー・フロム・ホームの話

 スパイダーマン:ファー・フロム・ホームが公開されたので観にいった。
マーベル・シネマティック・ユニバース(通称MCU)のフェイズ3ラストとなる作品で、「インフィニティ・サーガ」の締めくくりだ。「エンドゲーム」後の世界を描くこの作品をもってMCUはひとつの大きな区切りを迎えることとなる。

 私は正直少々不安だった。シリーズ前作となる「スパイダーマン:ホームカミング」が今までのサム・ライミ版スパイダーマン、アメイジング・スパイダーマンと比べると「スパイダーマンの物語」ではなく「MCUに属するいちヒーローの物語」としてまとまっていてしまっていて、(当然話は面白いが)若干の物足りなさのようなものを感じていたからだ。しかしそれは杞憂だった。「シビル・ウォー」から始まったMCU版スパイダーマンの物語は「インフィニティ・ウォー」「エンドゲーム」と続き今作「ファー・フロム・ホーム」で素晴らしい叙事詩となった。


この記事には「キャプテン・マーベル」「アベンジャーズ/エンドゲーム」「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」のネタバレがございます。


 さて、今作は「アベンジャーズ/エンドゲーム」から数ヶ月たったミッドタウン高校の校内放送から幕が上がる。「トニー・スターク」「スティーブ・ロジャース」「ナターシャ・ロマノフ」「ヴィジョン」の4人が「対サノス」の戦いで命を落としたことに対し追悼を述べるのだ。まず開幕から面白い。当然「MARVEL」のロゴの裏でホイットニー・ニューストンの『I will always love you』が流れるのも面白いが、「エンドゲーム」ラストでペギーと共に時を過ごし老衰した状態でバッキー&サムの前に姿を現したスティーブが死んだことになっている。ここで「エンドゲーム」を鑑賞した人間は「?」となるが、冷静に考えれば当然だ。なにせ老衰したスティーブは「キャプテン・アメリカ」から開放され、その座をサム/ファルコンに譲るのだ。もし超人としての力をスティーブが失ったと世間が知ったらどうするだろう。間違いなくかつてキャプテンに苦汁を飲まされた人間が大挙して命を取りにやってくる。ヒドラ一味がその筆頭だろう。現代に戻ってきたスティーブは死を偽造する他無かった。幸い真相を知るのはほんの数人、黙っていれば勝手に広まるであろう死をそのまま利用したと思う。あとはヴィジョン、認知されとったんかワレ。
 あと「指パッチン」された人々の戻り方が衝撃的だった。そんな「ポン!」みたいな感じで戻ってくるのかよ。戻った場所が何もない場所ならいいけど、新しく立て直されたビルの中で本来いた場所が壁の中になってたりしたらどうするんだろう。戻った瞬間死ぬんじゃないか。
 5年と言う月日も残酷だ。「弟は俺よりも年上」と笑い話のように会話していたが、これは笑い事ではない。いざ生き返って戻ってみたらパートナーが再婚してたとか、住んでた家に別人が住んでたとか世界規模で起こっているわけで。末恐ろしい。

 そんな中ピーター・パーカーことスパイダーマンはとてもドメスティックな問題にぶち当たっていた。前作「ホームカミング」ラストで気になるそぶりを見せていた同級生のMJ=ミシェル・ジョーンズへの恋心が止まらない。ヨーロッパ旅行の中でコクる計画を親友ネッドと練るが、「指パッチン」で消えなかった級友ブラッドという恋敵が現れる。
「親愛なる隣人」としてヒーロー活動は続けるものの、ふとした瞬間に師トニー・スタークを思い出してしまうピーター。そんな自分から逃げるようにスパイダースーツを自室に置きヨーロッパ旅行に出かけるが、メイおばさんの粋な?はからいでスーツケースの中にはおなじみのユニフォームが。ここのスーツケース、よく見るとベンおじさんの名前が書いてあるんです。良かった。MCUスパイディの中にもベンおじさんが息づいているんだね。

 飛行機の中でMJの隣の席に座ろうと画策したりベネチアでMJにプレゼントするアクセサリーを購入したり恋に必死なピーターが最高に胸旧キュン。数ヶ月前に宇宙最強の紫ゴリラと死闘を繰り広げたスーパーヒーローとは思えない青春。そりゃそうだよ。どんなに世間がポストアイアンマンを期待しようと彼は若干16歳(誕生日きてたら17歳)の高校生。かつてのスパイダーマンがそうだったように彼だって青春をしたいのだ。

 そして現れるエレメンタルズ。同級生や住人を救うもスーツ無しでは下手に動けないピーター。ハイドロマンの一撃にやられ、ノックアウト気味のところに颯爽と現れる金魚鉢!おまちかねのミステリオである。

▼ミステリオ、かっこよすぎ問題

 ニック・フューリーとマリア・ヒルを助けたところからだけどミステリオことクエンティン・ベックさんかっこよすぎ問題。そりゃセクシーが服着て歩いているジェイク・ギレンホールが演じているのだからかっこよくて当たり前なのだが、昔から散々ダサいと言われていた金魚鉢を逆さに被ったようなマスク姿すらかっこいい。手からビームカッコいい。色が完全にタイム・ストーンで?????ってなるけどかっこいい。ピーターが速攻信用してしまうのも分かる。

▼ミステリオ、オタクはダマせなかった

 そもそも鑑賞前の最大の疑問点「ミステリオは本当に味方なのか」という問題に実は序盤でアンサーを提供してくれている。ベネチアで水のエレメンタルズを倒した後、ピーターはフューリーに半ば強制される形でS.H.I.E.L.D残党の秘密基地へ連行される。そこで再び出会ったベックはピーターに自らをこう紹介する。

ここ(ピーターたちの住む)の地球はアース616。私はアース833という別の地球から来た

と。
ちょっと待って欲しい。マルチバース論を展開するのは構わない。サノスとの衝撃でアース間を行き来できる穴が開いたってのもまあ納得できる。(ドラマ「フラッシュ」や「スパイダーバース」で耐性がついている。)
だが「アース616」はどう考えてもおかしい。そもそもピーターたちのいる、MCUの地球は「アース19999」であって「アース616」ではない。さらに言えば、「アース616」は原作コミックのメインユニバース、いわば「マーベルにおける全てのユニバースの原点」にあたる地球なのだ。

はい、ダウト。ミステリオさん、やっぱりこいつ大嘘つきだわ。
とここのシーンを観た全てのMARVELオタクはスクリーンに向かって叫びたい衝動に駆られただろうが、そこは分別のある人間なので声を押し殺す。ピーター!フューリー!マリアヒル!ダマされちゃだめ!
そんなオタクの心配をよそに彼らは皆ベックを信用してしまう。その結果がアレだよ・・・。

▼E.D.I.T.Hから見るトニー・スターク

 ニック・フューリーがピーターとコンタクトを取りたかった大きな理由。それは生前のトニーが彼にピーターへ渡すようとあるものを託したからだった。サングラス型AI「E.D.I.T.H」。予告編から騒がれていたARサングラスである。というのもこのサングラスはトニー愛用のものだったのではないかと憶測があったからだ。インフィニティ・ウォー序盤、ストレンジに拉致られたトニーがエボニー・マウらの襲撃を受け応戦するが、その際付けていたサングラスに酷似していたのである。私も鑑賞前まではこのサングラスそのものだと思っていたが、これではタイミングが合わない。エボニー・マウにストレンジが攫われ、救助のために船に潜入したトニーとピーター。このときサングラスはトニーの胸ポケットにあるのである。その後タイタンからネビュラと共に帰還し、5年の月日の後「タイム泥棒作戦」によってインフィニティ・ストーンを収集。バナー博士の指パッチンで塵になった人々を生き返らせるが、直後にサノス軍団に襲撃され応戦。辛くも6つの石を手中に収めたアイアンマンは命と引き換えに指パッチンでサノス軍団を塵にする。
つまり、塵になったフューリーに託すのであれば「インフィニティ・ウォー」以前、かなり早い段階で託しておかないとサングラスを渡すタイミングが一切無いのである。
ただ、もしかしたら「タイム泥棒作戦」を思いついた段階で「ピーターが生き返る且つ自分が死ぬ」ことを想定しフューリーに置手紙でも残した可能性は否定できない。「自分が死んだらこれをピーターに渡してくれ」と。だがその可能性が高いとも思えない。生前のトニーに関してはフューリーを疎ましく思う描写も多かった。そもそも自分が死ぬ場合を想定しても、ペッパーやハッピーなど「ピーターの正体を知っている且つフューリー以上に信用している且つ戦いに巻き込まれて死ぬ可能性は低い」人間が周りにいる中でわざわざフューリーに託すだろうか。疑問のままだ。
 そんな「E.D.I.T.H」を早速使うピーターだが、命令が曖昧だったために恋敵ブラッドを殺しかけてしまう。明らかに無茶苦茶な命令でも躊躇せずに実行するのはトニー製AIの中でも特殊だ。トニーの作るAIは総じて非常に賢い。賢い故に命令の内容を判断し、是非について問うこともある。このAIたちの判断によってトニーやピーター、ひいてはアベンジャーズたちは効率よく活動してこられた。AIが人間を諭していたのである。しかし、「E.D.I.T.H」にはそれがない。命令されてから実行するまでが異様に早い。口も挟まないし、無駄なことは言わない。遊びがない。これは、トニーがピーターに残した試練なのだと思う。

▼トニー・スタークが残したもの

 ピーターの師であり父親代わりでもあったトニー。トニーはピーターに多くのものを残し去っていった。
 ひとつは前項でも触れた「A.D.I.T.H」。スパイダーマンという作品全てに通ずる大きなテーマのひとつに「大いなる力には大いなる責任が伴う(With great power comes great responsibility.)」というものがある。サム・ライミ版スパイダーマンを思い出して欲しい。この言葉をピーターに伝えたのはベンおじさんだ。遺伝子操作されたクモに噛まれスーパーパワーを身につけたピーター。地下格闘技場で大金を稼ぐも、闘技場のオーナーにちょろまかされる。イラつくピーターの目の前で強盗が闘技場から大金を盗む。強盗を捕まえてくれ、とオーナーに頼まれるが、恨みのあるピーターは見逃す。そしてその強盗がベンおじさんを殺すのだ。
かつてのスパイダーマンにこの哲学を教えたのはベンおじさんだった。しかし、MCU版スパイダーマンは初登場の「シビル・ウォー」の時点ですでにベンおじさんを亡くしてしまっている。この世界でも同じことが起こっていたかもしれないが、それでもピーターはどこか上の空。そこで「ホームカミング」でトニーはヒーローとしての心構えを伝えると共に「補助輪付き」のスーツを与え「大いなる力」を制御しきれないピーターを導くのだ。
しかし「ファー・フロム・ホーム」ではそのトニーさえも亡くしてしまっている。メイおばさん、ハッピー、(登場しないけどペッパー)など親代わりの大人は周りにいるが、ヒーローとしての先輩はいない。そこでミステリオが現れるからピーターは入れ込んでしまうわけだが、トニーはそんな未来が来ることも予見し、残したのだ。それが「大いなる力には大いなる責任が伴う」ことを教えてくれる存在、「E.D.I.T.H」なのだ。
 もうひとつトニーが残した負の遺産、それはまさにミステリオ一味だろう。ドローンの制御を行っていた眼鏡の研究者は「アイアンマン」でオバディア・ステインに怒られていたスターク社の研究者だ。あの騒動を起こした渦中の人物なだけにトニーが解雇するのも当然だし、ミステリオに加担したのは完全に逆恨みだろう。ミステリオ一味のほとんどはトニーに恨みがあるそぶりを見せていた。(よく考えればホームカミングのヴィラン、ヴァルチャーも間接的にトニーが産んだヴィランだ。)そしてミステリオ。どうやら彼はかつてスターク社でAR(拡張現実)を使った技術開発者であり、「シビル・ウォー」冒頭でトニーがプレゼンした「B.A.R.F」の開発にも携わっていたらしい。自分が開発した(と本人は言っている)システムをトニーが独占し、あまつさえ解雇したしたことでトニーに対し恨みがあるようだが、そもそも「B.A.R.F」を悪用しようとしたベックが悪いのだし、トニーは例によって危険を察知したら瞬間的に切り捨てることのできる性格なので完全にベックの自業自得だろう。とはいえオブラートに包むことなくいきなり解雇したんだろうというのは想像に難くないので、その辺のケアさえちゃんとできていれば生まれなかったヴィランなのかもしれないし、まったくトニーは関係ないとも言い切れない。

▼重なるトニーの影

 トニー・スタークの死はあまりに劇的で、若いピーターにはあまりに辛い現実だった。
ニューヨークはスターク・インダストリービル(アベンジャーズ・タワー)があった街だ。メイおばさんのホームレス支援パーティーから抜け出したピーターの前にアイアンマンの落書きがあったように、街のいたるところでトニーの影が見えてしまうのだろう。メイおばさんやハッピーと顔を合わせるのも辛いはずだ。二人はトニーの葬式にいたのだから。
だからこそ、トニーの影から逃げるようにヨーロッパ旅行に出かけたのだと思う。しかし旅先でもまたトニーの影を見ることになる。ニック・フューリー、E.D.I.T.H、そしてクエンティン・ベック=ミステリオ。火のエレメンタルを倒した後、ベックとピーターは祝勝会を開く。バーで酒を飲むベックの姿はまさに生前のトニーそのものだ。
ベックはピーターの心情を完璧に理解していた。トニーの死がピーターをどれほど動揺させたか気づいていた。だからこそ、髭を生やし仕草を真似た。トニーをコピーするのは簡単だっただろう。トニーの下で直接働いてた男だ。
ピーターにネガティブな影響を与えるトニーの影だが、ピーター自身からトニーを感じ取った男もいた。
ベックの罠に嵌り、電車に轢かれオランダで目を覚ますピーター。満身創痍で助けを求めた相手はハッピー・ホーガンだった。連絡を受け、(文字通り)自ら飛んできたハッピー。飛行機の中ピーターのトニーに対する思いを受け止め、自分のトニーへの思いを打ち明ける。
親代わりの男を亡くしたティーンネイジャーと、親友を亡くした中年男。新しいスーツを作るため機器を操作するピーターの姿に、かつて同じ動作で次々と世界を変える魔法の道具を生み出していた親友の姿を重ね合わせてしまうのだった。

ちなみにこのときハッピーが流した曲はアイアンマン1作目のテーマソング。粋な演出である。

▼ワッツとミステリオが魅せた映画の妙

 人気ヴィランミステリオの実写化は不可能と言われてきた。原作コミックでは元特殊効果のスペシャリストとしてトリックを使いスパイダーマンに悪事の濡れ衣を着せ自分がやっつけヒーローに成り代わるというシナリオを思い描くがスパイダーマンに正体を見破られ、その恨みからヴィランとなる。
そもそもハリウッドの特殊効果屋兼スタントマンでしかない男がメインヴィランを張るというのは特殊効果やスタント全盛期のハリウッドが存在したからこそ可能な設定であり、現代では時代錯誤なうえスパイダーマンからしたら弱すぎて役不足だ。しかし鬼才ジョン・ワッツ監督とマーベルスタジオを統括するケヴィン・ファイギはやってくれた。ミステリオの設定を大幅変更しヴィランとしての形はそのままに現代のスクリーンへ蘇らせたのだ。
予告や事前の情報では徹底して「マルチバースからやってきた謎のヒーロー」「ピーターを助ける」と宣伝。映画でも中盤までヒーローのように描く。(もっとも前述のとおりオタクは騙されなかったが)
ヴィランだと判明してからはドローンを使った巨大ARでスパイディを翻弄。「ドクターストレンジ」を思わせる映像美で観客を圧倒させ、死ぬ直前までピーターを騙そうとする。そしてミッドクレジットシーンでは死して尚市民を騙すのだ。
ジョン・ワッツ天晴れ。ケヴィン・ファイギ天晴れ。クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ天晴れ。ジェイク・ギレンホール天晴れ。最高のミステリオだった。

▼ミッドクレジットとポストクレジット

 MARVEL映画の醍醐味と言えばポストクレジットシーンだろう。今作も例に漏れず2つのシーンが存在する。
 まずミッドクレジット。ミステリオ問題を解決しMJと恋仲になったピーター。スパイダーマンコスチュームでMJを抱えNYの街を飛び回り(ここPS4スパイダーマンみある)巨大モニターの前でMJを降ろす。そうするとモニターにはデイリー・ビューグル社の編集長ジェイ・ジョナ・ジェイムソンなる人物がスパイダーマンがミステリオに止めを刺す(っぽい)映像を公開し、スパイダーマンの正体はクイーンズの高校生ピーター・パーカーだと世界に発信する。ピーターが悲鳴を上げてエンド。
短いシーンだがかなりの情報が詰め込まれている。まずピーターがMJを抱え街をスイングするシーン。これはこれまでのスパイダーマン映画へのオマージュだろう。そしてデイリー・ビューグル社とJ・J・ジェイムソン。原作コミックやサム・ライミ版スパイダーマン、アニメアルティメットスパイダーマンにも登場した新聞社とその編集長だ。ある意味でスパイダーマン最大のヴィランと言ってもいい彼はピーターを主に精神的に痛めつける。スパイダーマン関連キャラクターの中でもトップクラスに人気のある彼がとうとうMCUに参戦したわけだが、驚くこと無かれ、演じているのはライミ版スパイダーマンでも同役を演じていたJ・K・シモンズである。シモンズは「アルティメットスパイダーマン」でもジェイムソンを演じているジェイムソン俳優。ただ今までは実写俳優とアニメ声優だったので混乱は無かったが、今回は同じ実写。「デアデビル」や「ハルク」などMCUで実写化される以前に実写作品が作られている作品はいくつもあるが、同役で同じ俳優が演じているのは今回が初。新キャラクターの登場タイミングからなにからなにまで完璧にコントロールしているマーベル・スタジオが考えなしにシモンズをジェイムソンに配役するわけがない。
余談だが、ソニーのアニメ映画「スパイダーバース」には実現しなかった脚本としてトビー・マグワイヤ(ライミ版スパイダーマン)、アンドリュー・ガーフィールド(アメイジング・スパイダーマン)、トム・ホランド(MCUスパイダーマン)の3人が勢ぞろいする場面があったそうな。そして同じくソニーのフランチャイズ作品「ヴェノム」続編にトム・ホランドスパイダーマンが登場するという噂も。また、先日発表されたMCUフェイズ4の作品の中に「ドクター・ストレンジ/イン・トゥ・マルチバーズ」という作品名が。はて。マルチバースからやってきたのがミステリオ/クエンティン・ベックでないとしたら・・・・・・?
 2つめのポストクレジットシーンは衝撃的だった。この映画に出てきたニック・フューリーとマリア・ヒルは本人ではなく、スクラル人のタロスと妻ソレンだったのだ。たしかにポンコツすぎたフューリーには違和感しかなかったが、なるほど、合点がいく。「キャプテン・マーベル」を観てない人はさっぱり分からないシーンだったと思うが、こういうネタは大好きだ。
一方本物のフューリーは宇宙基地のようなところでバカンスをしつつスクラル人に指示を飛ばしていた。地球を離れたフューリーの目的は?フェイズ4以降で明らかになるのだろう。
 と、とにかくポストクレジットまで観客を騙す徹底ぶり。たまらないぜ。


▼おわりに

 8000文字も越えたのでそろそろ終わろう。賛否両論目にしたが、私はフェイズ3を締めくくる上で最高の作品だったと思う。エンドゲームのラストは確かに衝撃的だったし、ポストクレジットで響き渡るアイアンマン誕生の音からフェイズ4が始まったらエモかっただろう。でも考えてみてほしい。思えばフェイズ2だって、エイジ・オブ・ウルトロンの辛い結末から一転コメディタッチのアントマンで締めくくられたのだ。私はこの、MCUの重くなりすぎない感じが好きだ。心地よい。エンドゲームで締められたらそれこそ辛すぎた。確かにピーターはミステリオ(とビューグル)のせいで絶体絶命だが、今までのシリーズと違い今回は味方がたくさんいる。メイおばさんはいつだってピーターを見守っているし、ハッピーは誰よりもピーターを理解している。アベンジャーズがついているし、世界一の大企業スターク・インダストリーとペッパーはピーターの後ろ盾になってくれる。恋人のMJや椅子の人ことネッドのような学友もいる。ピーターはひとりじゃない。だから悲観的にならなくてすむ。最高の結末だ。

さあ、フェイズ4が幕を開ける。次の舞台は少し時代をさかのぼり「シビル・ウォー」直後の物語。ブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフのスタンドアロン映画まで半年間、小出しされる新情報を餌にしつつ楽しみに待とう。

サポートしていただくと私の酒代になります。酒を飲みながら記事を書くことが多いので、実質的に創造のサポートとなります。多分。