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情けない話

大学生になりたての私は、手に入れた自由ライフに酔いしれて、調子に乗っていた。ちょっと不健康なくらいがカッコイイ。

朝はポテチ食べたって誰にも文句言われない。授業後はバイト、バイト後は先輩宅でくっちゃべって朝帰り。

あまり寝なくたってヘーキヘーキ、そういえば朝から何も食べてないわ、ラッキー痩せるわ~なんて考えて。

浅はかな平和ボケ大学生活。

部活はというと、「お歳暮」や「お中元」の、のし紙を上手に書きたいという、実に安易な理由で書道部に入った。(後に当然それは甘い考えだったと思い知るのだが)

いつものごとく食べない、寝ない日が連続した日のことだった。近日行われる臨書展に向けて、大先生のご指導のもと、みんな黙々と練習していた。

私は印を押すため、印泥(朱肉のねちょねちょ版)の陶器の蓋を開けたとたん、落として割ってしまい、慌てて右手の親指を切ってしまった。絆創膏を貼って、椅子に座った。までは、なんとなく覚えている。

悲鳴は聞こえた。

私はそのまま床にぶっ倒れたようだ。びっくりした先輩の一人が、半泣きで廊下の公衆電話で119番を押した。

呼ばれてしまった、救急車!

後で聞いたのだが、119番を押したものの、大げさかなと思い一旦受話器を置いたが、逆探知で「どうしましたか!」とかかってきたので事情を話し、呼んだそうだ。

ほどなくして私は周りの様子も察知した。大先生はおじいちゃんだから慌てない。添削しながら、私のことを「書道部(の部員)か?」と言ったのが聞こえた。

先生、だから私ここにいるんです。←心の声

救急車の音がどんどん近づいてきた。立とうとして、寝てろと言われたが、落ち着かない。

担架隊員さん登場。

すみません、歩いて行けます。

横になって運ばれるなんて申し訳なさすぎて、歩いて救急車に乗り込んだ。隊員さん、担架、隊員さん、私、の順で部室から出発。外の部活の人が何人か見てる。情けなさこの上ない。りえ先輩も一緒に乗ってくれた。

救急車の中では、一応横になった。景色など見えないし、猛スピードで走る。迷惑をかけて言える義理ではないが、最悪の乗り心地だった。

隊員様、ごめんなさい、の気持ちでいっぱい。

病院に着いて待っていたら、看護師おばちゃんが来なすって、「どこ切ったの!」と言って、私の絆創膏をピッと剥がし、「なにこのくらいで!しっかりしなさい!」と励ましてくださり、終わった。

帰りながら贅沢なことを思った。

確か頭を打ったので、来たのだよな、CT検査も貧血検査もしなかったな。


まさか指を切っただけで、救急車を呼んだと思われたか!


健康の大切さを痛感した一日であった。



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