昔のこと
30年前、私は高校生だった。
本格的な部活にいそしむ気はなく、週2~3回の英文タイプ部なるものに入った。パチパチと英文を打つ、パソコンの先祖みたいなあれだ。主に先輩が頑張っておられて、文化祭の時は、英字でかたどったアニメの主人公みたいなものを模造紙に作り、飾っていた。
とにかく無気力な高校時代。漢字一文字で言えば『空』(くう)である。空の極みだ。授業が終わればソッコーで帰り、日曜日はテレビジョッキーを観て過ごした。
ある時、英文タイプ検定なるものがあると知った。生活に役立ちそうな響きにそそられ、練習を始めた。指をキーボードに置いてfjfjの練習、早打ちの練習。英文を、見てその通りに打つ練習。
いよいよ検定当日、友達2人と学校へ向かった。はずだった。何故だろう、行きたくなくなり、そのまま学校の近くにあった大型スーパーへ行ってしまった。
すると、今日なんとここに羽賀研二が来るという情報が!私達は大騒ぎした。こんな田舎に芸能人が来る。興奮しながらその場所へ行ってみた。
エスカレーター上り口の踊り場で『羽賀研二ショー』と看板があり、マイクスタンド、パイプ椅子が並べられていた。
しばらく私達は佇んで待った。少し待った。
だんだん切なくなってきた。こんな場所で羽賀研二は歌うのか。想像しただけで、いたたまれない気持ちになった。
そして帰った。
結局私達は、検定を受ける事もなく、羽賀を見る事もなく二兎を追うこともなくもちろん一兎をも得なかった。親にも言えず検定料をドブに捨てた罪悪感だけが残った。
お正月にこの友達2人と会えたので、この話をしたのだけど、2人とも覚えてないと言う。
私は真面目キャラと思われているので、まねきちゃんが検定をサボるわけないよね、誰かと一緒だったんだよ、と言ってくれた。
けど待てよ、私は誰とこの体験をしたのだろう?違う友達としたのかな。もうそれすら思い出せないのだ。
いや、もしかしたら1人でやった事なのかもしれない。そう思うことで、誰も道連れにしていない、と納得がいく。
ヒトの記憶って180度変わってしまうものなのだな、改めて時間の経過を思った。
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